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第1章 王都編

第24話 魔力の暴走

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 ずっと黙っていたイザベラが顔を上げれば、その瞳には涙なんてものはなく、憎しみが宿っている。
 
「あなたの、そのあかい目はとても気味が悪いわ! さすが、魔物に魂を売ったスコルピウス家ですわね!!
 それに、あなたのお父様とお母様の目は紅くないわよね。不義の子なんじゃなくって? なんて、けがらわしいのかしら。
 あなたの存在が不幸そのものなのよ!!」
 
 肩で息をしながら、イザベラは叫んだ。紅い瞳のことを言われるとは思ったが、まさかの不義の子疑惑が出てくるとは……。しかも、存在自体が不幸とか意味不明なことを言われてしまった。
 
 っていうか、流石さすが魔物に魂を売ったスコルピウス家と言いながら不義の子って言うの?
 
 確かにスコルピウス家の先祖には、魔物と添い遂げた者がいた。それが原因で紅い瞳だと言うなら、お母様はスコルピウス家に嫁いできたから、お父様の不義になるよ?
 それだとお母様にもバレるだろうし、こんなに仲良し家族のわけがない。
 
 魔力量と瞳の色が関係していることを知らないにしても、言ってることがぐちゃぐちゃだなぁ。きっと大人が話していた悪意のこもった言葉を意味も分からずに使っているのだろう。
 
 だけど、これってチャンスだよね。言い返しつつ魔力を暴走させよう。
 スコルピウス家の先祖に魔物がいたのは事実だから良いとして、不義の噂は全力で否定させてもらわないと。
 
 
「私はお父様とお母様の──」
「オレは父上と母上の子だ!! なんでみんなして、目の色が違うだけでそんな風に言うんだよ!!」
 
 大声を出したはずなのに、更に大きな声をリカルドにかぶされた。しかも、こっちを向いて叫んでいるリカルドの赤い瞳の色が心なしか徐々に濃くなっている気がする。
 
ちが──」
「オレだって、好きで魔力がたくさんなわけじゃない! なんで、皆して母上を悪く言うんだ!!」
 
 イザベラが慌てて訂正しようにも、その声はリカルドには届かない。そして──。
 
 ガタッ、ガタガタガタガタガタガタ……。
 
 テーブルの上のティーカップや美味しそうなお菓子、綺麗に生けられた花々。たくさんのものが揺れ始めた。
 
「リカルド様っ!? 落ち着いてください」
 
 当然、私の声も届かない。揺れはおさまることはなく、大きくなるばかり。ティーカップの紅茶はこぼれ、椅子やテーブルが浮遊し始めた。
 
 リカルドの足元に金細工のブレスレットが落ちていているのが見える。魔力を制御する魔道具を壊してしまったのだろう。 
 
 これは、本格的にまずい。私の計算された魔力暴走ではない。リカルドの意思とは関係なく引き起こされている。
 このままだと怪我人が出るかもしれない。そして、リカルドの心の傷は深くなってしまう。
 
  
「オレがみんなを不幸にしてるとか言うなー!!!!」
 
 
 打ち付ける強い風に、飛び回る家具や食器たち。悲鳴をあげ、逃げまどい、しゃがみこむ人々。
 
 そんな反応もリカルドの刺激になっているのだろう。リカルドはヒートアップしていく。このまま、魔力が枯渇こかつするまで続くのかもしれない。 
 
 レオナルドと王妃様も異変を感じて来てくれたけれど、リカルドの周りはたくさんの家具や道具が舞っている。とてもじゃないが、危なくてリカルドに近付くことも叶わない。
 
「リカルド! 落ち着いてちょうだい!!」
 
 どう考えても危険なのに、王妃様が懸命にリカルドに近付こうとして護衛をしていた騎士たちに止められている。
 
「王妃様、危険です! お下がりください」
「離してちょうだい。リカルドのもとに行かなくてはならないのよ!!」
 
 その姿は王妃ではなく、母であった。こんなにも愛されているのに、なぜリカルドは気が付かない? 大事な人の言葉よりも、よく分からないみんな・・・の言葉がそんなに大事? 大切なことを見失うほどに?
 
 大切な人を大切にできない。そんなリカルドに、ブチリ──、と頭のなかで何かが切れた音がした。
 
 
「自分ばっかり被害者ぶってんじゃないわよ! もっと周りをよく見てから、そういうことは言えっつーの!!」
 
 身体強化をして様々なものが飛び交う中へと飛び込んでいく。たくさんのものが私にぶつかるが、痛くもかゆくもない。
 そして、あっという間にリカルドの元へとたどり着いた。
 
「ねぇ、王妃様が見えないの!? こんなに愛されているじゃない。どうして、どうでもいいような人の声ばっかり聞くのよ!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいっっ!!!!!!」
 
 あぁ、何も聞こえなくなっているのか。いや、聞かないようにして、自分の中に閉じこもってるんだ。そうすれば、これ以上傷つかなくていいもんね?
 だけどさ、あなたの家族はこんなにも心配してるんだよ? それを見ないふりして良いはずがないじゃん。こっちに戻ってきなさいよ!
 このこじらせ王子がっ!!
 
「ちょっと痛いだろうけど、ごめんね」
 
 
 バチーーーーンッッ!!!!
 
 
 振りかぶった私の手は、リカルドの頬を叩いた。私よりも小さな体のリカルドは横に飛んでいく。
 
「あっ……」
 
 しまった!! 軽く頬を叩くつもりだったのに。うっかり身体強化をしたまま平手打ちビンタをお見舞いしてしちゃった。
 
 わわわっ、まずい!! 大怪我させる。ええぃっ! リカルドも身体強化!! これで、擦り傷くらいで済むはず。たぶん。
 
 ビンタをくらったリカルドの暴走は収まったものの、かなり遠くまですっ飛んでしまった。リカルドは地面を転がり、倒れている。
 そんなリカルドを王妃様は追いかけ、抱き起こした。隣にはレオナルドもいる。
 
 遠目だが怪我は私に叩かれた頬だけのようだ。良かった、大怪我にならなくて。
 
 
 魔力の暴走が落ち着いた会場は、テーブルや椅子、花々、ティーカップが散らばっていたが、それ等は当然のように元の場所へと戻っていく。
 会場はまるで何もなかったかのように魔力暴走が起こる前へと戻ったのに、お茶会に参加していた者だけが倒れ、立ち尽くし、元には戻れずにいた。 
 
 
 
 
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