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第1章 王都編
第20話 見せたかったもの
しおりを挟む温室には色とりどりの花、見たこともない草木が育てられていて圧巻である。
「おおーーー!!」
これはまた自分の家の温室と規模が違う。流石だ。そもそも、温室があるスコルピウス家だって相当なお金持ちなわけだけど。
いくつかターザンごっこができそうな木を見つけてテンションが上がる。
「アリア! こっちこっち!!」
ターザンごっこができそうな木に見とれてれば、年齢相応な笑顔でレオナルドが私を呼んだ。そんな顔もできたのか、などと思いながらもそばに行くと、一つの植物を指差される。
「この植物、知ってる?」
期待のこもった瞳がキラキラと輝いている。その姿は先程までと同一人物とはとても思えない。
「わっ! キレイですね!! なんて植物なんですか?」
隣にしゃがんで、その植物を見る。
まるで輝くような、神秘的な銀色の葉や枝の美しさに自然と笑みがこぼれる。決して派手ではないけれど、凛とした雰囲気が気高さを感じさせる。
「オレアリアっていうんだ」
「オレアリア……」
「もしかしたら、アリアの名前はこの植物からとったんじゃないかな。 オレアリアはね、花言葉が一つしかないんだ。何だと思う?」
「うーん。見た感じだと……気高さ、ですか? でも、名前につけるとしたら幸福……とかかなぁ」
思わず真剣に考えてしまう。自分の名前の由来かもしれない植物って、すごく気になる。
「残念、ハズレだよ」
レオナルドは首を横に振った。そして、周囲には誰もいないのに、まるでないしょ話をするかのように声を潜める。
「清純。アリアにピッタリだね」
そう言われて悪い気はしないけれど、自分が清純かと聞かれると違和感がすごい。山猿とか言われた方がしっくりくるんだよなぁ。
山猿の私にはもったいないとも言えず、 何と答えれば良いのか分からないので、曖昧に微笑む。
困った時は何ともとれる表情で笑みを浮かべるのが一番なのだよ。
「寒さに強い植物なんだよ。春になると白や黄色の小さい花が咲くらしいんだ」
「そうなんですね。見てみたいなぁ。うちにも植えてもらおうかな。
………あの、寒さに強いのに、どうして温室に植えてあるんですか?」
「それは……」
「それは?」
「アリアと一緒に花が咲くのを見てみたかったから、庭師に頼んで温室に植え替えてもらったんだ。結局、花は間に合わなかったけど……」
レオナルドは、耳を真っ赤に染めて恥ずかしそうにした。
間に合わなかったからって、そんなに恥ずかしがるのとないのになぁ。ここは、お姉さんとして気が付かないふりをしてあげるのが優しさかな。
「そうなんですね」
深く追求することなく答えれば、レオナルドに物凄く残念そうな顔をさせてしまった。一体、どうすれば良かったんだろう。男の子ってよく分からない。
オレアリアを鑑賞した後、私たちはお茶会に戻るために移動を始めた。
行きとはうってかわって、レオナルドは楽しそうに色々と話しかけてくる。仲良くはなりたくないが、無視するわけにもいかない。
仕方がなく、聞き返すこともせずにひたすら答えていくのだが、レオナルドはめげずに自身のことも話ながら上手いこと会話を続けてくる。
メンタルが鋼な上に、コミュニケーション能力高過ぎじゃない? まさか、私と同じ転生者なんてことはないよね? でも、前世の記憶持ちって可能性もあるのか。
出来すぎな6歳児に浮かぶ疑惑。けれど、それを確かめる術はない。記憶持ちですか? なんて聞けるわけがない。まして、転生者かなんて聞こうものなら私は頭がおかしい人だと思われるだろう。
あと少しでお茶会の会場、というところでレオナルドは急に足を止めた。
「アリアに頼みがあるんだ」
「婚約者候補以外のことでしたら、可能な範囲でお聞きします」
私の失礼な回答にもレオナルドは苦笑を浮かべるのみで、特に気にした様子はない。
けれど、その表情は強ばっている。
「弟と話して欲しいんだ」
そう言って、レオナルドは頭を下げた。
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