38 / 50
37話 笑う恋々
しおりを挟む走り出した恋々は、カッコいいの一言だった。
しなやかな動きで、鞭を使って獣を打っていく。波打つような鞭に当たった獣は、打たれた場所から弾けて消えていった。
けれど、粒子のようにキラキラとは輝かない。ただ何もなかったかのように、消えるのだ。
「すごい。まるで恋々の一部みたい」
私が鞭を振れば、自分に当たったり、周りのものを倒したりしていた。それなのに、恋々は自由自在という言葉がピッタリなのだ。
私の編んだ鞭は、三メートルほど。恋々と相談して決めた長さだが、実際に見てみると圧巻の一言だった。
「キャハハハハハ。私に勝とうなんざ、一億万年早いんだよ!! 二度と現れるんじゃねーぞ。何度だって、殺してやらー!!」
楽しそうだ。完璧にキャラが変わってる。恋々は笑いながら戦うのか。うん、ちょっと怖いかも。
あぁ、引かないで。味方だから。
鞭を振り回し、二体の穢れを倒していく恋々の姿に、討伐隊の人たちは明らかに距離をとっている。
そんな仲間のことを全く気にすることなく、恋々は凶暴化した獣のみを見ている。
攻撃をしてくる手や足を鞭で打つ。打たれて消えていくのを眺めることなく、次々と鞭を振るう。そして、素早く弱点に打ち込んだ。
ぱんっ、と一瞬で散った。
そこに凶暴化した獣がいたなど信じられないほどに一瞬だった。もう一体も瞬きの間に倒してしまう。
地面に残された体だけの遺体と、飛び散った赤が異様に思えるほど、そこには何もなかった。
「花様ー! やりました!! 花様特性の武器は最強でしたよ!!」
嬉しそうに手をぶんぶんと振りながら、恋々は私のところへと戻ってきてくれる。
あと一体いた、一際大きい穢れはいなくなっていた。木々に隠れて見えないところから、あんなにもじっと私を見ていたように感じたのは気のせいだったのだろうか。
「恋々、ありがとう。怪我はない?」
「はい。楽勝でした。鞭って殺傷力がないから使う人はいないんです。でも、対穢れなら最強ですね」
嬉しそうに言う恋々の背中に、ぶんぶんとしっぽを振る幻覚が見える。さっきまであんなにも嬉々として戦っていたのに、まるで別人だ。
私の知っているいつもの恋々に戻っている。
「おい!!」
怒りを隠さない、感情をぶつけるかのような声がした。声がした方に視線を向ければ、まだ若い討伐隊の青年が仇でも見るような憎しみのこもった目を私に向けている。
「やめろ! あいつも覚悟の上で参加してんだ。運が悪かった、それだけだ」
「うるせぇ!」
止めにきた別の青年を突き飛ばし、こちらに大股で近付いてくる。恋々は庇うように、私と青年の間に立ってくれた。
けれど、戦闘以外では恋々の背中に隠れるつもりはない。私は、恋々の半歩前に立った。
「花様!?」
「私は弱いけれど、戦闘以外で恋の後ろに隠れるつもりはないの。少しでいい。見守ってくれないかな?」
恋々はかなり渋々といった様子だが、もう一度私を背に庇うことはしなかった。
逃げられないようにだろうか、怒鳴りながら彼は私の腕を掴んだ。
加減など全くしていない力で掴まれたので、痛みに思わず顔をしかめれば、更に強い力を込められる。
「なんで、洋を助けてくれなかったんだよ」
「大、やめろ!」
突き飛ばされた青年は、必死に私の腕を掴む大と呼んだ青年の手をほどこうとしている。けれど、彼は止まらない。
「その武器なら、お前らなら、すぐに助けられたじゃねーか。この人殺し!!」
「やめろって!」
必死に止めてくれる青年に、大丈夫だからという気持ちで小さく首を振る。そして、空いている方の手を、懸命にほどこうとしてくれる彼の手に重ねた。
「ありがとう。大丈夫だから」
だって、彼の言っていることは当たっている。
鞭を使えば、助けられたかもしれない。私が強ければ、踏み出す勇気があれば、死なずに済んだのかもしれない。それに──。
「大丈夫なことなんかねーよ。お前が殺したんだ!!」
激昂する姿に、誰かのせいにしないといけないほど、心が傷ついているのだと思うから。
けれど、それでは何も良い方向に向かわない。
「私は確かに見殺しにしてしまった。けれど、殺したのは凶暴化した獣。そして、あなたは……大さんは、洋さんを助けられなかった。私と同じよ」
「違う! オレは討伐隊として戦っていた!!」
「それを言うなら、私たちは討伐隊ですらないわ。勝手に忍び込んでついてきたもの」
そう。私は部外者なのだ。着いてくることを認めてもらえていない。残念だけど、それが現実だ。
8
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる