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7話 重い、重すぎる。

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 そこからは、話どころではなかった。

 白樹はくじゅさんは執事のろうさんを呼ぶと「はなは浄化の花嫁だった。四か国会議の準備を進めなければならない」と告げた。

 目を白黒させる私をよそに「千年ぶりだ」「大地の浄化ができる」「神は我々を見捨てていなかった」などの言葉が交わされていく。


「花様、大丈夫ですか?」
れんさん……」

 そんな私に声をかけてくれたのは、恋さんだった。案ずるような視線に、涙腺がゆるむ。
 だけど、もう大人なのだから、人前で泣くなんてことはあってはならない。意識的に大きく息を吐いて笑みを作る。
 自分よりも若い子に心配をかけるなんて情けない。そうやって自身を叱責すれば、背筋が少しだけ伸びた。

「大丈夫だよ。ありがとう。……本当は、この状況を説明してくれると助かるんだけどね」

 思わずこぼれた本音に恋さんは目を見開いた。

「説明をお聞きになられてない……」

 そう呟く恋さんは、ぶるぶると小刻みに震えた。そして、私に背を向けて白樹さんと郎さんの方を向いて仁王立ちをする。
 私よりも小柄な背中がたくましく見える。ぼんやりと発火して見えるのは、きっと気のせいだ。

「こんっっっっの、クソ野郎共! ふざけてんじゃねーぞ! 花様にきちんと説明もしねーなんて、どういう了見りょうけんだ! そこへ直りやがれ!!」 

 え、えぇぇぇぇぇぇ!? いや、どういう状況? 

 虫も殺せないような可憐な見た目の恋さんがぶちギレた。
 恋さんの前には、白樹さん、郎さん、メイド長のゆきさんまでもが正座をしている。 

「……なんで、雪さんまで正座してるんすか?」
「何となくかな」
「ふざけたことぬかしてないで、さっさと立ってくださいよ」

 え? 別人? と思わせるほどの変わりぶりだが、勇ましい口調に誰も疑問を持っていない。ということは、これが素なのだろうか。
 人は見た目によらないとは言うけれど、ここまで違うのも珍しい。

「あの、恋さん?」
「大丈夫ですよ、花様。花様のことは、私が必ずお守り致します」

 あれ? 言っていることは格好いいけど、さっきまでの可愛い恋さんだ。
 さっきのは、幻……じゃなかったね。すごい形相で白樹さんと郎さんを睨み付けてるし。

「気持ちは嬉しいんだけど、恋さんの雇い主ってはく……さんだよね?」

 まずいんじゃないかな。雇い主と(多分上司になる)郎さん相手にその態度は。

「え!  心配してくれるんですか!? 花様はお心まで清らかなのですね。それに比べて、このポンコツ共ときたら……。うふふ、大丈夫ですよ。私の主は、生まれたときから花様ですから。白様なんて関係ありません」

 助けを求めるように雪さんを見れば、落ち着いた笑みが返ってきた。

「恋は、異界より来てくださる花嫁様に遣えるために生まれた子です。花様に遣え、花様のために生き、花様のために死ぬ。それが彼女の使命であり、幸福なのです」

 ……嘘、だよね? 恐る恐る視線を恋さんへと戻すと、大きく頷いている。

「生きている間にお会いできて嬉しいです。花様のためならば、誰を敵に回そうとも敗けは致しません」

 おっっっもーーーーいっっ!!!! 何じゃそりゃ? 重い、重すぎる!! 私のために生まれた? そんな理由で子を成すんじゃないわよ。
 私のために生きて、私のために死ぬ? いやいやいや、自分のために生きてよ。私のために死ぬとか勘弁して。

「恋さん、お願いがあるの」
「何なりと、お申し付けください。このクソ野郎共の始末ですか?」
「ち、違う違う!! そんなこと望んでないから!」
「あれ? 違いましたか?」

 そう小首を傾げる恋さんは可愛いのに、考え方が強烈過ぎる。

「私のために死なないで欲しいの。私のためを思うなら、何がなんでも生にしがみついて。生きなさい」
「──!? はいっ!! 花様のために絶対に死にません!!!!」

 とりあえず、これで良し。私のためというのは気になるけど、私のためと命を落とすことはこれでだいぶ減るはずだ。……って、そうそう死ぬような機会ってない……よね? 大丈夫だよね?
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