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第5章 お茶会への招待状
第64話 般若心経で心を落ち着かせよう
しおりを挟むミルミッド侯爵家へと到着し、イザベルはオカメを着けるとルイスのエスコートで馬車から降りた。その二人の様子はどう見ても親密だ。
取り巻きをぞろぞろと引き連れて、一人で来たイザベルに先制攻撃を仕掛けようと思っていたアザレアは、二人の様子に一瞬だけ表情を変えた。
(皇家の馬車ですって! ルイス様にエスコートしてもらうなんて、許せないわ。オカメの分際で!!
……ジュリア、一人でお茶会に来させるように言ったこともできないなんて、使えないわね)
アザレアはジュリアを排除することを心の中で決めると笑顔を作り、出迎えた。
「ルイス様、ごきげんよう。お会いできて嬉しいですわぁ。
イザベル様も、ようこそいらっしゃいましたわね。お一人ではなくて良かったですわ。久し振りのお茶会参加ですものね。お一人でこられるのは、心細いでしょう?」
まるで、心配しているような言い回しでアザレアはイザベルを批判する。口は笑んでいるが、瞳に映る憎悪にイザベルは心の中で溜め息をついた。
「いえ。一人でしてよ。ルイス様、エスコート感謝しますわ。ですが、ここからは一人で参りますわ」
「分かった。帰りに迎えに来る」
ルイスはイザベルの手に口付けを落とすと、他には脇目もふらずに立ち去った。
(仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多……)
いつもならば羞恥で赤くなるイザベルだが、今日は心の中で般若心経を唱えて心を落ち着かせ、アザレアへとオカメの下で笑みを作る。
「エスコートはいけないとおっしゃらなかったでしょう? エスコート後はすぐに帰ってもらったので、問題ありませんわよね?
ご指示通りに一人でお茶会に参加ですもの。
さぁ、ご自慢の庭園に案内してくださるかしら」
(憎悪になど負けてなるものか。必ず敵をとってみせる)
イザベルの心は怒りに燃えていた。
小夜として生きてきた時は仕返しなど考えたこともなかった。今世で記憶が甦った後も、権力から遠ざかり、平穏無事に暮らせればそれで良かった。
だが、それでは守れない。大事なものを守るためには戦わなければならない。
そう気が付けば、悪役令嬢だった頃の気持ちを思い出したのだ。
(大切な者を守るためならば、排除する。例え恨まれようが、守れないよりマシじゃ)
庭園へとつけば、薔薇のアーチや豪華な噴水があり、お茶会をするテラスには白を基調としたロココ調の椅子やテーブルが配置されている。
(これは、確かに自慢するだけあるのぅ。まぁ、マッカート公爵家の方が美しゅうと思うがの)
あちらこちらに、咲き誇っている薔薇を見ながらイザベルは、席へとついた。そこは末席であり、公爵家のご令嬢が座る席ではない。
深紅のドレスといい、イザベルを貶める気なのであろう。
(小賢しい女よのう。何がそのような自信になっておるのじゃろうか)
イザベルはローズティーを口にしながら、遠慮することなく溜め息をついた。
「薔薇が見事だと聞いてましたのに、ここにはレインボーローズはありませんの?
ルイス様から送って頂いて、美しかったものですから……。とても楽しみにしておりましたのに、残念ですわ」
レインボーローズ、虹色の薔薇は王家でしか栽培されていない特別な薔薇で、市場に出回ることはなく、目にすることができるのも極々一部だ。
アザレアは当然ながら見たことなどなく、口元は笑みを作っているものの、目は全く笑っていない。
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