54 / 88
第4章 成敗は般若
第53話 サイズを知らないと、こうなるよね
しおりを挟む週明けの朝、制服の件が両親にバレないようにと、鞄を前に抱えて家を出たリリアンヌは玄関先で待っていたローゼンの姿に足を止めた。
たった2日の休みの間にリリアンヌとローゼンは婚約をしたため、リリアンヌは何だか照れ臭くて頬を染める。
(恋人と婚約者って、何だか違うわよね。緊張する)
片手で前髪を直すと、リリアンヌはとびきりの笑顔を浮かべた。
「ローゼン様、おはようございます」
「……おはよう」
「待っててくれたんですか?」
そう問えば、ローゼンから無言で手渡された紙袋の中には真新しい制服が入っている。
「……どうして」
「迷惑だったか?」
その言葉に、リリアンヌは黙って首を横に振る。心遣いが嬉しくて、心配をかけたことが申し訳なくて、自分の力ではどうにもできなかったことが悔しくて、心のなかはぐちゃぐちゃだ。
「……ぁりがとう」
耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声に、ローゼンは優しくリリアンヌの頭へと手を置く。
「着替えたら、一緒に行こう」
それに頷くとリリアンヌは一度着替えに家へと戻る。そして──。
ガチャリと玄関を開けて着替えたリリアンヌが出てきた。その肩は小刻みに震えている。
「何かあったのか!?」
慌てて近寄ったローゼンだったが、気まずそうに視線を逸らす。
「いえ。そりゃ、こうなるよな……と。ぶふっ……ふふっ……ふふふ……」
「すまない。……笑っていいぞ」
「いや……、用意してく……れたの……に、悪いじゃない……で……すかぁ……。あははははははは……」
真新しい制服のブレザーの袖はリリアンヌの手をすっぽりと隠し、スカートは膝下ではあるものの、ちょうどふくらはぎの真ん中くらいまでと規定よりも明らかに長い。ウェストも大きかったのだが、ベルトで止めてある。
まさに、制服に着られているかのような状態だ。
(制服をもらった時、まさかサイズが合っていないとは思わなかったなぁ。いやでも、漫画やドラマでもあるまいし、ピッタリな方が気持ち悪いかぁ)
サイズを聞かなくてもピッタリなものを贈りそうな人物が一名、頭を過ったリリアンヌは項垂れているローゼンの不器用さを好ましく思う。
「ローゼン様。これは学園のお店で購入されたんですか?」
「あぁ。そうだが」
「それなら、一緒に行きませんか? もうやってるはずですから」
学園内のお店は生徒が登校し始める頃に開き、下校時刻を過ぎると閉まる。生徒が学園生活を送る上で必要なものが揃う、生徒のためのお店だ。そのため、休日はやっていない。
だから、ローゼンはリリアンヌを送り届けた後に、態々戻って制服を購入した。
そのことを着替えてから気が付いたリリアンヌは、悔しさよりも嬉しさが勝った。
ローゼンにエスコートしてもらい乗った馬車の中でも、長い袖をパタパタと振りながら、頬が緩みっぱなしである。
「フォーカス嬢……」
困り顔のローゼンにリリアンヌはギュッと抱きつく。
「ローゼン様、私のためにありがとうございます」
「……何のことだ?」
リリアンヌの背中に腕を回しながらもローゼンが尋ねれば、上から見たリリアンヌの耳が赤く染まっている。
「わざわざ、学園に戻ってくれたんでしょ? それが嬉しくて……」
抱きつく力を少し強めたリリアンヌは、ローゼンの腕の中で幸せを噛みしめる。
(俺は、フォーカス嬢のこういうところが……)
そんなリリアンヌにローゼンの瞳は熱を帯びる。
「俺も、リリーと呼んでも?」
「梨理って呼んで欲しいです」
「リリ……」
「はい、ローゼン様」
「俺のことも、ゼンと」
「ゼン?」
名を呼びながら見上げたリリアンヌとローゼンの視線が交わる。そして、静かに唇が重なった。
0
お気に入りに追加
461
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢なのに、完落ち攻略対象者から追いかけられる乙女ゲーム……っていうか、罰ゲーム!
待鳥園子
恋愛
とある乙女ゲームの悪役令嬢に生まれ変わったレイラは、前世で幼馴染だったヒロインクロエと協力して、攻略条件が難し過ぎる騎士団長エンドを迎えることに成功した。
最難易度な隠しヒーローの攻略条件には、主要ヒーロー三人の好感度MAX状態であることも含まれていた。
そして、クリアした後でサポートキャラを使って、三人のヒーローの好感度を自分から悪役令嬢レイラに移したことを明かしたヒロインクロエ。
え。待ってよ! 乙女ゲームが終わったら好感度MAXの攻略対象者三人に私が追いかけられるなんて、そんなの全然聞いてないんだけどー!?
前世からちゃっかりした幼馴染に貧乏くじ引かされ続けている悪役令嬢が、好感度関係なく恋に落ちた系王子様と幸せになるはずの、逆ハーレムだけど逆ハーレムじゃないラブコメ。
※全十一話。一万五千字程度の短編です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる