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第1章 前世を思い出した悪役令嬢は、皇太子の執着に気が付かない
第24話 デートに行こう5
しおりを挟む気まずい雰囲気になってしまったことに、イザベルの胃はキリキリと悲鳴をあげていた。
(天上人であられる殿下の不興を買ってしもうた……)
死地に向かうような表情のイザベルに、ルイスは心のなかで盛大な舌打ちをした。
(俺は馬鹿だ。最悪だ。イザベルにこんな顔をさせるなんて。
婚約は解消しないが、イザベルに俺と一緒にいたいと思ってもらえるようにならないと)
「イザベルは、好きな奴がいるのか?」
「ミーアと家族は好きですが、お慕いしている方は特には……」
ここで名前を出される者がいたら、確実に相手の男はこの世から抹消されていたことだろう。が、幸いにもイザベル自身、恋というものを知らない。
ルイスはイザベルの言葉に安堵し、それならばと次々と質問を重ねる。
「なら、好きなタイプは?」
「うーん……。一緒にいて心安らげる方がいいですわ」
「見た目とかは?」
「私もこんなですし、特に見た目をとやかく言うつもりは……」
「敢えて言うなら?」
「敢えて……ですか。そうですわね、目が綺麗な方がいいですわ」
特に意識はしていないものの、イザベルはルイスの透き通るような紫の瞳を思い出す。
記憶を思い出す前から、イザベルはずっとルイスの瞳を神秘的で美しいと思っていたのだ。
「じゃあ、どんな服装の男性が好きとかある?」
「本人に似合っているのが一番だと思いますわ」
(イザベルは、好きになった人がタイプとかいう感じか。そういうの、胡散臭いと思ってたけど、イザベルは本気なんだろうな。
確実なのは、穏やかに暮らしていきたいってことなんだろうけど……)
好きなタイプを探ろうとしても不毛だとルイスは早々に諦めた。そして、イザベル自身のことを聞く方がよっぽど有意義だと結論付ける。
「好きな色は?」
「藤色ですわ。で……ルイス様は何色ですの?」
「翡翠色かな」
「だから、ラペルピンも翡翠を使われてるのですね。お似合いですわ」
質問を変えた途端、会話が続くようにはなったものの、態となのか、鈍いのか、イザベルの瞳の色を好きだと答えたルイスの言葉は軽く流される。
いつものルイスならイザベルの瞳の色だからだと直接伝えるが、伝えたところでイザベルを困らせるだけだろうとルイスは口をつぐみ、差し障りのない会話を続けた。
そのおかげか、気まずい雰囲気もいつの間にかなくなり、穏やかな時間が流れ、劇が始まった。
劇が始まるとイザベルはすぐに夢中になった。
涙ぐんだり、慌てたり、眉間にシワを寄せたと思ったら、笑ったり。くるくると表情を変えながら観るイザベルからルイスは目が離せなかった。
ラストのペガサスと出会うシーンになると、イザベルは号泣した。ハンカチは涙でびしょびしょだ。
「素晴らしかったですわ。感動的いたしました!! 特にラストのペガサスとの出会い。この気持ちを表現できる言葉が思い付かないのが残念ですわ」
目元を真っ赤にして言うイザベルにルイスも頷きながらも簡単な感想を述べた。そして──。
「このまま劇の感想を語り合いたいな。良かったら、夕飯を一緒にどうだ?」
と、イザベルを誘う。イザベルは少し悩んだが、語り合いたいという強い欲求には逆らえずに小さく頷いた。
そのことにより、イザベルからルイスへの警戒心は薄れ、彼女のなかでルイスは友人認定されることとなる。
そして、仲良くディナーを取るルイス皇太子殿下とイザベルに似た謎の美しい令嬢の噂は社交界を駆け巡ることとなるのであった。
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