上 下
23 / 88
第1章 前世を思い出した悪役令嬢は、皇太子の執着に気が付かない

第22話 デートに行こう3

しおりを挟む

「えぇっと……。殿下は殿下ですし……」
「でも、名前で呼んでただろ?」
「そうでしたかしら?」
「そうだよ。ほら、呼んでみて」

 有無を言わさない雰囲気にイザベルは視線をさまよわせた。

 (むっ、無理じゃ! 帝のことも名で呼んだことなどなかったというに。おそれ多い上に、要求が高過ぎじゃ)

 だが、断れそうもない。馬車の中で逃げ場がない上に、ルイスは明らかに呼ばれ待ちだ。

 (えぇいっっ! どうにでもなれ!!)

 イザベルは腹をくくりつつも、誤魔化されてくれることを願う。


「……ルイス皇太子殿下」
「違う」

「ルイス殿下」
「違う」

「ルイス様っっ」
「おしい。あとちょっと!!」

「えっ?」
「ん?」

 イザベルとルイスの視線が交わる。確かに名前で呼んだのに「おしい」と言われたイザベルの頭は疑問でいっぱいだ。

「ルイス……様?」
「様はいらない。ルイスって呼んで」

 ぱちぱちとイザベルの長いまつげが瞬きを繰り返す。そして、意味を理解した瞬間、ぶわっと血が沸騰した。


「めっめめめめ滅相めっそうもございませんわーー!!」

 首をぶんぶんと振りながら答える。

 (無理無理無理無理!! 名を呼びすてるなど破廉恥はれんちじゃ!! 破廉恥のみならず、不敬じゃ!!
 ……不敬?…………ぁ、危うかった。一族打ち首になってしまうところじゃった)

 赤くなったり青くなったりと忙しいイザベルにルイスは小さく笑うが、必死のイザベルは気が付かない。


 (こんなに色々な表情かおが小夜にもできたんだな。……イザベルになってからの影響も大きいか。

 はぁ……。イザベル可愛い。今日の演目をラブロマンスにしないで本当に良かった。
 前から俺のイザベルなのに、恋慕を抱く糞共くそどもがいたが、今のイザベルをみたら、急増どころか世界中の男に恋慕されてしまう。

 学園復帰までに対策を考えないとな。とりあえず、今日は子連れか来ても入学前のガキが大半だ。それでも、目を光らせておかなないとな……)
 

 未だにおろおろとしているイザベルの髪にルイスは口付ける。


「早く呼び捨てられるようになって。待ってるから」
「ヒッッ」

 甘い雰囲気になると思いきや、イザベルの顔は血の気を失い、まさに顔面蒼白。

「さらし首はお許しくださいませぇぇぇぇぇぇ!!」

 叫んだイザベルに、流石のルイスも固まった。だが、すぐに復活し、ガタガタと震えるイザベルの肩に腕を回し、どさくさに紛れて抱きしめる。

「そんなことするわけないだろ。どうしてそう思った?」

 (突拍子もないイザベルも可愛い。
 肩細いし、柔らかいし。あぁ、いい匂いだ。なんで、こんなに甘いんだろう。
 はあぁぁぁぁ。可愛い可愛い可愛い可愛い……)

 イザベルの頭の匂いをバレないようにかぎながらも、優しい声で話しかける変態皇太子に気が付くものはいない。

 経緯を一生懸命に話すイザベルの柔らかさと匂いを堪能できたルイスは非常にご機嫌であった。




 話しているうちにルイスがそんなことをしないと確信を得られたイザベルは、ふと自分のおかれている状況を理解した。

 (あれ? われ、抱き締められとる?)


「離っっ、離してくださいぃぃぃぃ。後生ですわぁぁぁ」

 ぐいぐいとルイスの胸を押すがびくともしない。

「もう少し抱き締めていたいんだけど、駄目か?」
「お許しくださいませ」

 イザベルの拒否とともにルイスの腕の力がゆるむ。

「残念」

 耳元でささやかれ、イザベルは右耳を素早く隠す。

「おたわむれはしてくださいまし」

 蚊の鳴くような声が出た。それも恥ずかしくてイザベルは劇場につくまで顔をあげることができなかった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢なのに、完落ち攻略対象者から追いかけられる乙女ゲーム……っていうか、罰ゲーム!

待鳥園子
恋愛
とある乙女ゲームの悪役令嬢に生まれ変わったレイラは、前世で幼馴染だったヒロインクロエと協力して、攻略条件が難し過ぎる騎士団長エンドを迎えることに成功した。 最難易度な隠しヒーローの攻略条件には、主要ヒーロー三人の好感度MAX状態であることも含まれていた。 そして、クリアした後でサポートキャラを使って、三人のヒーローの好感度を自分から悪役令嬢レイラに移したことを明かしたヒロインクロエ。 え。待ってよ! 乙女ゲームが終わったら好感度MAXの攻略対象者三人に私が追いかけられるなんて、そんなの全然聞いてないんだけどー!? 前世からちゃっかりした幼馴染に貧乏くじ引かされ続けている悪役令嬢が、好感度関係なく恋に落ちた系王子様と幸せになるはずの、逆ハーレムだけど逆ハーレムじゃないラブコメ。 ※全十一話。一万五千字程度の短編です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...