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第1章 前世を思い出した悪役令嬢は、皇太子の執着に気が付かない
第19話 ルイス、縁を引きちぎる
しおりを挟むミーアがイザベルに泣きついている頃、ルイスは王城でイザベルとの間の『縁』にできた小さな傷を直していた。
それと共に、新たに作られた薬指の縁を引きちぎる。
(くそっ。切っても切っても縁を結ばれる。何なんだ、あの女は)
イザベルが階段から落ちる要因の一つとなったあの女こと、リリアンヌ・フォーカス。
何故か、ルイスは学園で異様にリリアンヌに絡まれ、いつの間にか側近候補達に近付かれている。それなのに、優秀なはずの側近候補達がそのことに違和感を覚えない。
そして全く興味関心もなく、イザベルに勝るところが何もないどころか、比べること事態が馬鹿馬鹿しいのに、リリアンヌと接触がある度に『縁』が薬指に結ばれるのだ。
薬指の縁は愛の絆でもある、恋愛の縁。そんなところにイザベル以外の縁を結んでくるなんて、ルイスにとってリリアンヌはいつか殺すリストNo.1なのである。
(何故、あのアバズレ女と何度も縁を結ばれる。何人もと愛の絆である縁を結んで、何を企んでるんだか知らないが、俺を巻き込むな。
俺が皇帝になったら、真っ先に牢に入れてやるからな)
などと物騒なことを考えたが、その思考はすぐに愛しのイザベルへと切り替わる。
(いつも深紅の装いばかりだが、空色も似合っていたな。深紅への思い入れも知ってたし、そんなイザベルも可愛かったが、折角ならこれから色々な姿が見たいな。
新しい贈り物は当然として、デザイナーを呼ぶか……いや、一緒に城下へ足を運ぶのもいいな。小夜にはあまり恋人らしいことをしてやれなかったからな)
婚約解消を申し入れられたにも関わらず、ルイスはイザベルとのデートの計画を立てる。
「なぁ、レントン。イザベルと出掛けたいんだけど、次の休みの俺の予定はどうだ?」
「……殿下は無理にでも行かれるのでしょう?」
ルイスの補佐であり、元教育係だったレントンは仕方がない者を見るような目で主を見た。
「まあな。でも、それでお前を困らせたことはないだろ?」
「そうですけどね。あまりご無理をなさらないでくださいね。ただでさえ、最近は急に役立たずが増えてお忙しいのですから」
ルイスの側近候補達は学園に入ったばかりだというのに、既に仕事をしなくなってきていた。ルイスにとっての支障はまだ微々たるものだが、これから先はどうなるかは分からない。
「あの馬鹿共な。まぁ、所詮はその程度の人間だったってことだ。これを機に、少しずつ入れ替える」
ニヤリと笑うルイスにレントンは頭痛を隠せない。
「そうはおっしゃりましても、どなたも身分が高いですから、家が黙ってないのでは?」
「役立たずが傍にいても邪魔なだけだ。きちんと教育しなかったのが悪い。それに、良い機会だろ? より能力のあるものに地位を与える。
役立たずには田舎に帰ってもらおうか」
「いくらなんでもそれは……」
高位貴族達が黙っているわけがない。それをルイスが押さえ込めないとは思わないが、確実に恨みをかうだろう。
「冗談だよ。でも、能力のあるものは側において地位を与えるのは悪くないだろ?」
「それは、そうですが……」
それでも反発は大きいだろうが、無能が集まるよりも国のためになるのは確実だ。
レントンが何も言えなくなったのを見て、ルイスはこの案は割りと通りやすいな……と確信する。
ルイスにとってレントンは今世での一つの指標なのだ。
(イザベルと婚姻を結ぶまでには、浸透させておかないとな。随分、ミーアとかいう確か平民出身のメイドを気に入っていたようだし、離れることになれば悲しむ。
それに、あのメイドは俺に意見するくらいだから、誰よりもイザベルを優先して、イザベルを裏切らない。
男なら即刻理由をつけて処罰したけど、イザベルを助けてくれる女性は必要だからな)
国のためを装ったイザベル至上主義によるイザベルのための改革。
婚約解消を言われたところで手離す気なんて全くないルイスは、イザベルがより快適に過ごせるようにと基盤を整えることに積極的なのであった。
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