13 / 88
第1章 前世を思い出した悪役令嬢は、皇太子の執着に気が付かない
第12話 イザベル、ルイスと会う
しおりを挟むミーアと別れ、イザベルは応接間へと足を踏み出した。
(何のこれしき! われはミーアの立派な主になるのじゃ。そして、罪を償い、新たな人生を生きる!)
ミーアの待っているという言葉はイザベルを奮い立たせた。
(じゃが、顔はまぁ基本的には隠しても良い……よな?)
けれど、どこか弱腰なのもまた今のイザベルらしかった。
「ルイス皇太子殿下、お待たせして申し訳ございません」
そう言いながら、扇を閉じて美しい礼をイザベルはした。その姿にルイスは息を呑んだ。
空色のルームドレスは上品だがピッタリとしたデザインのためスタイルの良いイザベルが着ると大きめの胸や細い腰が強調されている。
そして、珍しくゆるく結われた髪は色っぽく、いつも自信に満ちた翡翠の瞳はどこか不安げだ。
実はイザベル、ルイスにこのように公式の場所以外できちんと挨拶したことはない。
だが、やらないだけでできる子なのだ。
貴族令嬢としての所作、ダンスは完璧。王妃教育も「ルイス様と結ばれるためなら!!」と真面目にこなした。
他の令嬢を目の敵にし、身分で見下すことを除けば、皇太子の婚約者として申し分ないのである。
普段の行動とは違えど、貴族令嬢として皇太子に対しての礼節は大切だ。例え婚約者でも例外ではない。
だから、一般的な常識から見ればイザベルの行動は正しかった。
今までのイザベルは「ルイス様。どうしてもっと早く来てくれなかったの?私、寂しかった!!」などと言いながら抱きついていたのが異常なのだ。
しかし、イザベルを愛するルイスとしては不満しかない。
そして、なかなか来なかったことに対して珍しくイザベルが怒っているのだとルイスは結論付けた。
「イザベル、遅くなって悪かった。怒っているんだろ?」
「いいえ。私が殿下を怒るだなんて滅相もございませんわ」
扇で口元を隠しながら優雅に言うイザベルにルイスは困惑した。だが、すぐにイザベルの異変に気が付いた彼は笑みを深めた。
(俺がつけた印が濃くなっている。思い出したか)
ルイスは優しくイザベルの左手を取りソファーへと座らせ、薬指の指先へと口付けた。
前世でのイザベル……小夜は一見大人しい印象を与える姫だった。美しく、聡明で、華美なものを好まず、自身の立場を理解し、何度理不尽な目に遭おうとも決して許嫁を責めることはしなかった。
自身の中にしっかりとした芯のある強さを持っていた。
今のイザベルとは真逆の女性だった小夜の記憶が甦ったのだとすれば、今のイザベルの姿にも納得がいった。
(折角、俺がいなければ駄目になるように育てたんだけどな。
でもまぁ、本来の姿はこうだもんな)
指先に口付けられたイザベルは真っ赤になり固まっていた。その姿が可愛くて、ルイスはイザベルの頭を優しく撫でる。
すると、イザベルはまだ赤くなれたのかと感心するほど、真っ赤に染まった。
(昔も小夜にこうやって触れたいと思っていたが、今になって叶うとは)
イザベルが無抵抗なことを良いことに、前世でつけた自身の印がある菊が描かれた爪をルイスは愛しげに撫でる。
その印はルイスにしか見えないが、それはルイスにとってイザベルとを結ぶ大切なもの。
(絶対に逃さない。小夜……)
ルイスは印を見詰めて瞳を細めた。
0
お気に入りに追加
461
あなたにおすすめの小説
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
水無瀬流那
恋愛
転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。
このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?
使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います!
※小説家になろうでも掲載しています
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる