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皇太子夫婦の誕生
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ガチャッ。
開け放たれた扉から、バルドとシャルノアがゆっくりと進んで来る。神殿の窓から差し込む光が、2人の姿を際立たせていた。真っ白な衣装が神秘的な印象を与えており、神殿に相応しい花嫁花婿だと言える。
「新郎バルド。そなたは病める時も健やかなる時も…
「新婦シャルノア。…」
通例通りの儀式の言葉が続き、着々と進行して行く。
(これでやっとシャルと一緒になれる。)
(ドキドキが止まらない。こんなに緊張するなんて。)
それぞれ胸の内では自由にしていたが、バルドもシャルノアも振り向く際、手を挙げる際のタイミングはピッタリである。声をかけるでもなく、自然と寄り添って振る舞う姿が、2人がこれまで数々の苦難を乗り越えてきた証のようでもある。
神殿での儀式が終わり、扉を出ると父兄を始め、たくさんの笑顔に迎えられた。次々に声をかけられるおめでとうの言葉で、シャルノアは少しずつ実感が湧いてくる。
「あ、バル。フィアーノさんたちが来てる!」
「ん?あぁ。行こうか。」
王宮での日々が続き、諸々の準備を進めている間2人共自由な時間がとれる訳はなかった。タッタッと効果音でもつきそうな勢いで向かうシャルノアの背中を追いながらバルドは自分の口元がゆるむのを感じた。
(本当に、フィアーノさんたちには頭が上がらないや…シャルとこうなるなんて、あの頃は想像も出来なかったからな。)
カリニャンの街でシャルノアを探していた頃はまだ、義務的な気持ちで動いていたように思う。彼女に会いにブランシェに通ううちに、王子としての自分から少しずつ自由になっていた。立場を忘れて気持ちに素直になることが出来たのは、側で見守り助言してくれていたフィアーノのおかげであろう。
「「おめでとう」」
珍しく正装のフィアーノとヴァンに迎えられ、シャルノアもバルドも笑顔でお礼を言う。
「フィアーノさん、ヴァンさん。来てくれてありがとう!この場は無礼講だから、話し方なんて気にしないで。会えて嬉しいんだから。」
「2人とも久しぶりだな。こんなおめでたい場で会うことになるとは思わなかったが… 幸せそうで良かったよ。」
「どこを見ても貴族ばかりですから、そう言って貰えたのはありがたいです。この人、最初緊張し過ぎて帰ろうとしてたんですから。」
「こらっ。言わなきゃ分かんないだろ。バラすな。」
バンバンっと連れの背中を叩くフィアーノを見て皆で笑い合う。確かに周りから見たら不思議な関係なんだろうが、バルドたちにとっては大切な客人である。
「自由にしてもらって大丈夫ですよ。2人が恩人なのはうちの親も分かってますから。周りには文句言わせませんので。」
バルドの発言にフィアーノは困惑した顔で言う。
「いや、ありがたいんだけどな。お前が言うと、立場が立場だけに強烈だな。」
王子の親、つまり王家が理解していることだから、他の貴族たちには文句は言わせないという、権力が見え隠れしていた。
「気にしなくていいんです。そのうちお礼に来られると思いますし。バルの家族のみなさんからはおふたりとも相当感謝されてますから。」
ニコニコ笑って言うシャルノアの発言に、フィアーノたちは固まってしまう。
(いゃ、話しかけられても困るからな)
(王家総出で対面とか、無理ですよ…)
「…それはまた、うん。遠慮出来ないかな?」
「「諦めて下さい。」」
そう、2人の背後には既に国王皇后が並んでいたのである。
「君が噂のブランシェの店長だな?」
「はい…この度はおめでとうございます。このような身分の者までこの場に呼んで頂きありがとうございます。」
しっかりと丁寧な言葉で対応しているフィアーノを見て、バルドは国王の目線に頷く。
「愚息の力になってくれたと聞いている。私たちからも礼を言わせて貰いたい。是非ゆっくり話を聞かせてもらいたいものだ。」
「娘たちからも話を聞いているのです。このあとは身内の集まりになるだろうから是非いらして。お話出来るのを楽しみにしていましたの。」
「いや、それはさすがに…」
「遠慮しないで下さい。お2人には王宮の美味しいお料理食べて帰って貰いたいんです。」
「そうです。感謝の気持ちを伝える場なので、ブランシェのお2人がいないと始まりません。」
しばらく押し問答が続いたものの、断れない状況が少しずつ周りから固められ、主役の2人をたてるという形で最終的にフィアーノたちは折れた。会食まではしばらく時間があるので、それで気持ちが落ち着くことを願う。
式に集まっていた貴族たちに挨拶をして見送り、身内だけが残った所で、皆で揃って王宮内に用意された会場へ向かう。
バルドとシャルノアは2人だけの馬車の中で、予定通り進んだことを喜んでいた。夫婦となった2人には、この後の会食にフィアーノたちを呼ぶことは決定事項だったのである。
開け放たれた扉から、バルドとシャルノアがゆっくりと進んで来る。神殿の窓から差し込む光が、2人の姿を際立たせていた。真っ白な衣装が神秘的な印象を与えており、神殿に相応しい花嫁花婿だと言える。
「新郎バルド。そなたは病める時も健やかなる時も…
「新婦シャルノア。…」
通例通りの儀式の言葉が続き、着々と進行して行く。
(これでやっとシャルと一緒になれる。)
(ドキドキが止まらない。こんなに緊張するなんて。)
それぞれ胸の内では自由にしていたが、バルドもシャルノアも振り向く際、手を挙げる際のタイミングはピッタリである。声をかけるでもなく、自然と寄り添って振る舞う姿が、2人がこれまで数々の苦難を乗り越えてきた証のようでもある。
神殿での儀式が終わり、扉を出ると父兄を始め、たくさんの笑顔に迎えられた。次々に声をかけられるおめでとうの言葉で、シャルノアは少しずつ実感が湧いてくる。
「あ、バル。フィアーノさんたちが来てる!」
「ん?あぁ。行こうか。」
王宮での日々が続き、諸々の準備を進めている間2人共自由な時間がとれる訳はなかった。タッタッと効果音でもつきそうな勢いで向かうシャルノアの背中を追いながらバルドは自分の口元がゆるむのを感じた。
(本当に、フィアーノさんたちには頭が上がらないや…シャルとこうなるなんて、あの頃は想像も出来なかったからな。)
カリニャンの街でシャルノアを探していた頃はまだ、義務的な気持ちで動いていたように思う。彼女に会いにブランシェに通ううちに、王子としての自分から少しずつ自由になっていた。立場を忘れて気持ちに素直になることが出来たのは、側で見守り助言してくれていたフィアーノのおかげであろう。
「「おめでとう」」
珍しく正装のフィアーノとヴァンに迎えられ、シャルノアもバルドも笑顔でお礼を言う。
「フィアーノさん、ヴァンさん。来てくれてありがとう!この場は無礼講だから、話し方なんて気にしないで。会えて嬉しいんだから。」
「2人とも久しぶりだな。こんなおめでたい場で会うことになるとは思わなかったが… 幸せそうで良かったよ。」
「どこを見ても貴族ばかりですから、そう言って貰えたのはありがたいです。この人、最初緊張し過ぎて帰ろうとしてたんですから。」
「こらっ。言わなきゃ分かんないだろ。バラすな。」
バンバンっと連れの背中を叩くフィアーノを見て皆で笑い合う。確かに周りから見たら不思議な関係なんだろうが、バルドたちにとっては大切な客人である。
「自由にしてもらって大丈夫ですよ。2人が恩人なのはうちの親も分かってますから。周りには文句言わせませんので。」
バルドの発言にフィアーノは困惑した顔で言う。
「いや、ありがたいんだけどな。お前が言うと、立場が立場だけに強烈だな。」
王子の親、つまり王家が理解していることだから、他の貴族たちには文句は言わせないという、権力が見え隠れしていた。
「気にしなくていいんです。そのうちお礼に来られると思いますし。バルの家族のみなさんからはおふたりとも相当感謝されてますから。」
ニコニコ笑って言うシャルノアの発言に、フィアーノたちは固まってしまう。
(いゃ、話しかけられても困るからな)
(王家総出で対面とか、無理ですよ…)
「…それはまた、うん。遠慮出来ないかな?」
「「諦めて下さい。」」
そう、2人の背後には既に国王皇后が並んでいたのである。
「君が噂のブランシェの店長だな?」
「はい…この度はおめでとうございます。このような身分の者までこの場に呼んで頂きありがとうございます。」
しっかりと丁寧な言葉で対応しているフィアーノを見て、バルドは国王の目線に頷く。
「愚息の力になってくれたと聞いている。私たちからも礼を言わせて貰いたい。是非ゆっくり話を聞かせてもらいたいものだ。」
「娘たちからも話を聞いているのです。このあとは身内の集まりになるだろうから是非いらして。お話出来るのを楽しみにしていましたの。」
「いや、それはさすがに…」
「遠慮しないで下さい。お2人には王宮の美味しいお料理食べて帰って貰いたいんです。」
「そうです。感謝の気持ちを伝える場なので、ブランシェのお2人がいないと始まりません。」
しばらく押し問答が続いたものの、断れない状況が少しずつ周りから固められ、主役の2人をたてるという形で最終的にフィアーノたちは折れた。会食まではしばらく時間があるので、それで気持ちが落ち着くことを願う。
式に集まっていた貴族たちに挨拶をして見送り、身内だけが残った所で、皆で揃って王宮内に用意された会場へ向かう。
バルドとシャルノアは2人だけの馬車の中で、予定通り進んだことを喜んでいた。夫婦となった2人には、この後の会食にフィアーノたちを呼ぶことは決定事項だったのである。
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