上 下
97 / 100

王家待望の日

しおりを挟む
バタバタッ。

「急いで。すぐ来られるわよ。」

タッタッタッ。

「気をつけて!大事な衣装よ!」

「そこ、少し上に移動出来るかしら?」


ここは王都内にあるラーク神殿。国内でも有名な貴族や豪商が訪れる場所。エクスホード国は他国に比べると比較的信仰が厚い訳ではないが、神殿内にある礼拝堂は神秘的なことでも有名で、訪れる者は多い。
 そんな観光地とも言える場所が、早朝から多くの使用人や関係者によって豪華に整えられていく。何を隠そう、国内1有名な2人が結婚式を挙げる当日なのである。



「嬉しいことではあるが、親心としては複雑だ。やはり婿に呼べば良かったんだ。」

「この国の皇太子でなければね、そう出来ましたねー。」

軽い口調で父の泣き言を流しているのはリュカである。唯一の皇太子の婚約者なのに、モンティ伯爵家を離れ王家に嫁いでいく寂しさから父アルトは凹んでいる。

「もう決定事項なんでね、そろそろ諦めて顔引き締めて下さい。来客対応しないといけないんですから。」


当事者たちは既に中で準備を始めている。早朝から始められた王家の根回しのおかげで、モンティ伯爵家としてはお客を迎える以外はお任せ状態である。


(待ちに待った日だから、きっと王家の皆は、晴れやかな表情なんだろう…)

今日のリュカは参列者であるため警備は外れている。騎士団の部下に指示してあるので心配はしていないが、身内の結婚式というのが初めての為、ソワソワしてしまう。



数時間後、神殿内には多くの貴族が集まり出す。

「この度はおめでとうございます。」

「ありがとうございます。お久しぶりです。」

父と2人で、来客を迎え声をかけていく。その中には辺境伯であるバズやロウ、カリニャンからフィアーノやヴァンもやって来ていた。多くの貴族が正装姿で神殿内へと向かっている。招待客が揃った所で、王家の馬車が到着した。
国王皇后両陛下、皇女たちが順々に下りてくる。


「これほど喜ばしい日はないぞ、アルト。今日を迎えられて本当に感激だ。」

にこやかに下りて来た陛下は、父アルトと親しく抱擁を交わす。この2人が友人だと知っている宰相リディスやリュカは微笑ましいものとして見ているが、周囲の貴族たちの様子はまた別である。


「楽しみですわね、快晴で良かった。」

煌びやかなオーラを放つ女性陣。主役ではないが、王族としての品の良さが際立っている。皆で神殿内へと移動し、あとは主役を待つのみとなった。



 皇太子の結婚式のため、神殿内は多くの貴族で賑わっている。ここで式を終えた後は、パレードのように王都内を回って国民への披露となるのだ。行き着く先は王城。その後は国王主催のもと披露宴パーティーとなる。


「場違い感半端ないな…やっぱ帰っちゃダメかな?」

「高貴なお2人のキューピッドなんですから諦めなさい。晴れ姿見たかったんでしょ?」

「見たいけど…ここから今すぐ帰りたいのもホント。お前が一緒で良かったよ。」

 ブランシェの2人は平民なのでとても肩身が狭い。けれど、主役の2人に必ずと念を押され、衣装や馬車まで手配されれば断れるハズもなく。
 そんな内緒話は耳に届いていないのだが、周りの貴族のご令嬢たちからの視線は熱い。元々顔の良い2人が、ピッシリと服装を整えているのだから注目を集めるのは当たり前だと思われる。



「やっぱり今からでもアルトを説得するか?シャルが嫁に来るの楽しみじゃったのに。」

「あれは、王家に見つからないようにするための策で、でしょう?シャルが決めた相手は皇太子なんだ、諦めて。」

こちらはゲルド辺境シラーの街から来た2人。ロウはシャルノアからお父様と呼ばれるのを楽しみにしていたのでショックが大きい。

「お前がグズグズしとるからではないか。シャルノアのこと好きだった癖に。」

「なっ何を言うんですか。歳いくつ離れてると思ってるんです?慎重になるのは当たり前でしょう??」

「そういうのを意気地なしと言うんじゃ。うちに来た時に猛アピールしておけば良かったものを。」

未だに悔しそうにしている父を呆れて見るバズ。分かっているのなら、少しは傷心の息子を気遣って欲しいものだ。



 それぞれの思いを抱え、神殿内の席が残らず埋め尽くされた頃、パイプオルガンの音と共に新郎新婦の入場となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

処理中です...