上 下
92 / 100

行き着く先は

しおりを挟む
馬車に揺られ、かれこれ小1時間。
辿り着いた先はこじんまりとした小さな教会だった。
くたびれた扉を抜け、礼拝堂の長椅子にドサッと下ろされる。


「ここまでで良いか?頼まれた通りにやっただろ?」

「…分かったわょ。はい。」

ポンっと投げ捨てられた皮袋の中を除き、男は満足したように笑いその場を立ち去っていった。



完全に1対1の状況。

「それで、何のようなの?」

身体を起こして、反対側に立つサラへと顔を向ける。手が縛られたままなのは癪だが、寝たフリをするのにも疲れていた。

「あら、目が覚めてたの。ふふっ。貴方に消えて貰おうと思って。」

妖艶に笑いながら話すサラは、以前の天真爛漫さは消え、どこか狂気めいた雰囲気を持っていた。

「…それはまた物騒ですこと。私が消えたとして、貴女に何の得があるの?」

(まぁ、簡単にはやられないけどね。)


直接話すのは初めてではあるが、1年前のことがある。むしろ恨むなら私の方じゃないのか…?なんてことを考えながら、シャルノアは辺りに目を向けて状況を把握していた。

「1年前、貴女はバルド様に選ばれたのでしょう?そのまま立場を確立すれば良かったのに、王宮から去ったのは貴女の意思ではなくて?」

「うるさいわね、貴女に何が分かるの⁈高位貴族に産まれて、家族にも愛されてきた貴女なんかに、私の気持ちが分かる訳ないわ。」

(…分かりたくもないわ。)

案外幼稚な話し方の相手に、シャルノアは呆れていた。表情に出ないように気をつけながら心の中で悪態をつく。

「家庭の状況は人それぞれでしょ。私が貴女を理解出来ないように、貴女にも私の苦労が分かる訳ないのよ。当たり前なことを言わないで。」

ピシャリと言い放つシャルノアに、憎悪の顔を向けながらもサラは唇を噛み締めていた。元々頭がキレるタイプではないので、どうやら言い返す言葉を必死に探しているらしい。

「それで、ここまで連れてきてどうするの?今の私は皇太子の婚約者よ?タダで済む訳ないわ。覚悟は出来てるのよね?」

シャルノアは相手にならない刺客たちも、サラの仕業ではないかと考えていた。大した実力者も雇えない今の状況で杜撰な計画を推し進めている自覚はあるのだろうか?


「…うるさいわね。攫われた貴女は夜盗に襲われて絶望の末、自ら命を絶つの。バルド様に操を立てられずにね。ちゃんと私が場所を整えてあげるわ。貴女さえいなければ。」


(頭大丈夫?そもそも夜会から攫ってきた人間が責任追及されるの分かってないのかしら?)

あまりの杜撰な計画に呆れてものが言えずにいると、シャルノアが怯えていると思ったのだろうか、サラは上手く勘違いしてくれたらしい。


「フッ。怖いようね。大丈夫、すぐには見つからないわ。貴女は行方不明のまま忘れ去られるの。あぁ、駆け落ちでもしたのかしら?彼女には王族の荷が重すぎたみたいね。そう噂が流れ出すわ。傷心のバルド様を支えるのは私の役目。」

フフフっと笑うサラは、自分の世界に入り込んでいる。

(私がいなくても、1度見限った人をあの人たちが求めることなんてないわ…)

王族の人間の覚悟や姿勢をシャルノアはよく知っている。自分が居なくなれば、他国の王女でも呼び出して政略結婚でも勧めるに違いない。その方が、断然この国にとっては良くなるだろう。

(今の彼女に話した所で理解されるハズないわね。…そろそろ良いかしら。)




スルッ。
縄を自力で解いたシャルノアは、自分に酔っているサラに背後から近づき、その首元に手刀を当て気絶させた。



「結局、大した理由じゃないのね。残念だわ。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

処理中です...