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いざ、突撃

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 「私、バルド様の婚約者になりたいと思います。」


「「はっ!?」」


 帰宅するなり、父様の執務室に乗り込み、リュカ兄も呼んでもらいシャルノアは宣言する。寝耳に水のようで、父も兄も驚愕の表情である。


 「…そこまで進展していたとは予想しなかったが…どういう経緯でその結論に至ったのかな?」


 先に正気を取り戻したのは父アルト。
冷静に、かつ詳細に説明を求めようとしている。ひとまず、メイドに声をかけ、お茶を準備してもらい、皆を下がらせる。ひと息置いたのが良かったのか、兄のリュカも聞く耳を持ち始めたようだ。



 「バルド様の誕生祝いの夜会にパートナーとして参加して欲しいと言われました。ご本人は婚約者に戻る意思を待ちたいとおっしゃっていましたが、陛下のお話を受け、意思を確認したいと思われたようです。」

「ふむ、なるほど。今度の夜会で貴族の立ち位置はある程度決まるからな。その場にシャルがいるのといないのとではだいぶ違う。モルトの立場も理解はできる。」

「カリニャンの街に殿下が来られるようになってから、話す機会も増えましたし、彼の人となりを知ることが出来ました。伯爵家の娘としての立場を考えるようになったのも、彼と過ごすようになってからです。以前なら考えもしませんでしたが、今は彼の隣に立つ自分で居たいとそう思えます。」

「そんな…奴を許すだけでも精一杯なのに。またあの立場に戻るのか?」

「兄様、バルド様も以前の彼とは違います。一緒に歩もうと考えて下さっているハズです。」

「ゔぅーん。それでもな……。」

「リュカ、すぐに嫁にやる訳ではない。ひとまず夜会のパートナー、婚約者に、だ。」


父と兄の間で視線が噛み合う。今の父の言葉にどういう意味が込められているのかシャルノアには分からなかったが、ひとまずリュカ兄は父に任せていれば大丈夫そうだ。


「シャル、自分の言葉に責任は持てるな?今の言葉で私たちも他の貴族たちも動きが変わる。やっぱり辞めます、とは今後言えないぞ?」

「はい。そんな発言は致しません。」


はぁぁぁ。と大きなため息を吐くと、父アルトはシャルノアの目を見つめて言った。

「シャルの気持ちは分かった。それならば、私も腹を括ろう。明日共に王宮へ向かうぞ。夜会までは日がないからな。急いで動くとしよう。」

「ありがとうございます、父様。」



 自室に戻るとシャルノアはまず招待状の返事を認める。明日王宮へ向かう前に、自身の意思をバルドに伝えておきたい。早急に渡るよう、使用人に渡した所でやっとひと息つく。

(自分の気持ちを伝えるのって、こんなに恥ずかしくて勇気がいるのね…バルド様は何故あんなに自然に話せるのかしら。)

  返事を手紙で伝えるだけで、こんなに緊張したのに、面と向かって言葉で伝えるなんてハードルが高い。自分にはしばらく無理そうだ、と感じる反面、そんな言葉を変わらず伝えてくれたバルドに感謝していた。


"貴方の側で咲く、華になりたいと思います。"





「殿下、令嬢からお返事でございます。」

 王宮の使用人から渡された封筒。宛名を見るまでもなく、シャルノアからの返事であろう。自室に急いで戻り、中を確認したバルド。声を押し殺し、ガッツポーズをしていた。




コンコンッ。

「入れ。バルドか、どうした?」

「シャルノア嬢から参加の意思を貰いました。明日、伯爵と共に来るそうです。」

「……まことか?」

「…?彼女から返事は貰えたので、おそらく。」

ガバッ。

「よくやった、バルド!お前の頑張りが身を結んだのだ。祝いじゃ。宴じゃ。これは皆に伝えねば…。」


 良い歳にも関わらず、息子を抱きしめて感動に浸る父親に少し呆れながら、バルドは釘を刺す。

「少し落ち着いて下さい…。余計なことをして伯爵を怒らせたら困りますので。」

 側で尋常じゃない動きをする者がいると、近くに居たものは冷静になれるようだ。バルドは陛下を落ち着かせ、皆への報告は伯爵と会ってからにしようと話をつけた。
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