上 下
40 / 100

警告

しおりを挟む
 パッ。

(これは…手紙?何故…)


団員と一緒に訓練を終えたリュカは、報告を上げるため騎士団本部の長のもとを訪れていた。その帰り道、パッと目の前に現れたシャボン玉がパチンッと割れ、中から紙切れを受け取る。


【緊急。訓練場へ来られたし。】


暗号のような走り書きの文字に怪しく思うも、緊急となると内容が気になって仕方がない。
 早々と訓練場に足を向けたリュカは周りを見渡す。人気のない時間帯、イタズラだったのだろうか…と思い始めた時、ふと、木の影から、近衛騎士団の団長シュナイダーの姿が現れた。


「君か。突然どうしたんだ?この間の件なら片付けたハズだぞ?」

 そう、魔王到来の際。もとい、シャルノアを傷つけた連中にお返しをした時、近衛騎士団としてはまともな人間がいた、と安心した。顔見知りになったつもりはないのだが、王宮に何度も足を運んでいるうちにすれ違うようになり、同じ団長の立場で話をするようになっていた。


「別件です。近衛から漏れたと知られたくないので、こっそりとですみません。まだ公にはされてませんが、先日、王子は男爵令嬢に見切りをつけました。今後は王女たちと共に再び婚約者選考に移るそうですが…おそらく、シャルノア嬢に目をつけているかと。」

「マジか。案外目が覚めるのが早かったんだな…王女となるとやっかいだな。国王や皇后もか?」

「おそらく。1度は仲違いされてましたが、どうやらバルド様の方から謝罪し和解したようで。王家が皆、協力的になっておられる様子なので早く知らせるべきかと思った次第です。」

「助かるよ。シャルはいち早く隠れてはいるけど、そんな状態とはな…こっちとしても対策が練れる。ありがとう、シュナイダー。」


満面の笑みで礼を言うリュカ。シュナイダーは思う。モンティ家は皆、顔が良い分魅力的である。シャルノア嬢もそうであったが、リュカも。凛々しい顔を見せつつ、全力の笑顔など、受ける側にも影響が大きい。


「いえ、これくらいしか出来ませんので…」


近衛騎士として、騒動の際シャルノア嬢を庇い続けることが出来なかった後悔はシュナイダーの心の奥底にも残っていた。現段階での近衛は前よりもマシになってはいるものの、王子に逆らえない点は同じである。

(また近衛に嫌な役が回らなければ良いが…)


そう言い申し訳なさそうにしているシュナイダーを見て、リュカは肩を叩いた。


「なんなら第1に移動しても構わないよ?近衛騎士がやりづらいなら。」

根が真面目なシュナイダーは、王家の指示に従うだけの近衛騎士は疑問が多いだろう。嫌々団長になっているのだとすぐ想像がつく。

(移動すれば肩の荷も楽になるだろうに。)

そう思いながら、シュナイダーに礼を伝え帰路につく。




 帰宅したリュカは早速アルトに報告する。


「そうか…再び…。」

いつもと違い、険しい表情になる。


(これ以上のわがままは許さないょ、モルト。)

普段は温厚なアルト。
1度怒ると、すぐには収まらず、しばらく続く。
子を守る親は強いのである。

ぶつぶつとその場で対策を頭の中で描き始めたアルト。昔からこれが始まると誰にでも容赦がない。

「あ、リュカ…シャルに知らせてくれる?一応耳に入れておいた方が良いだろう。」

そう言われ、魔道具である指輪と平民が着るような地味な服を渡される。

「今シャル、ここにいるから。平民だけど、私の知り合いがやってるお店。モンティ家に王家の影がつく前に会っておいで。」

改めて出される新情報に少しついていけてないリュカだったが、シャルに会えるならと、意気揚々に準備を進めている。

渡された地図とショップカード。

リュカにとっては初めての街、カリニャン。

ノワール亭に似ていると聞いたお店、ブランシェ。

シャルノアの落ち着いた日々が徐々に賑やかになり始める予兆であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...