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バルドの決断
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バルドの決めたタイムリミットがいよいよ近づいてきていた。話をしてからしばらく、サラの様子を直接見に行くことは辞めていた。まだ彼女の変化を期待してしまう自分がいたし、近くに誰かいるというのが変にプレッシャーになってはいけないだろう、と考えて。
サラ担当のメイドからは報告を受けている。渡したノートには目を通していたそうだが、それが本人の勉強に活きたのかどうか…
(王家に連なる人間になるには相当な覚悟がいるだろう。恋人としての思いが彼女にあったとしても、それが意欲に繋がるのかどうか…)
1度は惹かれた彼女だからこそ、何かしら変化があれば今後のために自分もサポートしたい気持ちはある。吉と出るか凶と出るか…バルドはけじめをつけるため、サラの部屋へと向かった。
コンコン。
「サラ、お邪魔するよ?」
部屋を見渡すも姿が見えない。
(ん?今日は午後からは部屋にいるハズなんだが…?)
近くにいたメイドに確認すると、部屋から出たところを見ていないので中にいるハズだと応えられる。戸惑いながらも部屋の奥へと進むと、ベッド奥に彼女の頭がかろうじて見えた。
「…サラ?」
呼びかけに反応したことは確認出来たので、バルドが来たことには気づいているのであろう。サラはベッドにもたれるようにして床に座っていた。泣いていたのだろうか、へたり込むようにして座っているため、スカートの裾はシワになり始めている。
「なんでそんなトコに?ほら、こっちに…」
声をかけても呆然としているサラの腕をとり、床からベッドの上まで移動させる。
(これは、話が出来る様子ではないかもな…)
視線が合わず、ボーっとしているサラの様子を見て話しかけるか否か迷う。ふと、視線をずらすとベッドの枕元にはバルドが渡したノートが散乱していた。パラパラとノートをめくっていると、ふと声が聞こえた。
「…バルド様?」
「あ、サラ?大丈夫か?」
今、やっと自室にバルドが来ていたことに気づいたらしい。声をかけると、恥ずかしそうにスカートのシワを伸ばし曖昧に微笑んだ。
「すみません、私気づかずに…ボーっとしてたみたいで。」
話が出来るのなら、と場所を移し、お互い椅子に座りメイドにお茶を入れてもらう。メイドが席を外し、再び2人になったところでバルドは改めて話しかけた。
「約束の半月がもうすぐだ。どうかな?このノートたちは役に立ったかい?」
「…私のものと全く違いました。細かく書き込みしてあったり、復習してたり。おそらく私よりも幼い時のものですよね?」
「あぁ。10歳までにはひと通り終えていたからな。7、8歳くらいかな…シャルロッテの始めの分は5歳くらいだよ。」
(憧れのシャルノア嬢が5歳で始めたからと、早々と教えられたらしいからな。)
そう考えると、自分よりも妹の方が厳しい教育だったのではないか、と気づいた。きっと彼女なりの苦労と、努力があったのだろうと思う。
そんなことを考えてボーっとしていたバルドは視線を戻して、サラの様子に驚く。
(え、どうした?これは。)
俯いていたサラの目には涙が溢れ、震えている。突然の流れに、バルドは表情を取り繕いながら動揺していた。
「…ダメなんです。私…どう頑張っても…。」
思い詰めたようなサラの表情に、あ、これは限界だったんだな、とバルドはなんとなく察した。
「お借りしたノートを見て、勉強に対する姿勢が違うと感じたんです。みんな私より幼い頃なのに、いろいろな知識を詰め込んでいて…すごいなと思いました。私とは違う、って。そう思ったら、情けなくなっちゃって。頑張らないといけないのに、何してもダメな気がして。」
話を聞いたバルドは状況を把握したものの、サラにたいしてどう接するのが正解なのかわからずにいた。きっと、サラはこのまま基礎教育が終わらないままとなるだろう。本人の様子を見る限り、このまま皇太子妃なんて流れは辛いだけだろう。
「…バルド様。私はここを追い出されるのですか?私はバルド様の横にはもう立てないのですか?」
涙を堪えながら話しかけてくるサラに、言葉が詰まってしまった。
「…すまなかった。」
(無理をさせて。重荷を背負わせて。)
(君が良いなんて言ってすまなかった。)
「…バルド様は、もう私のことは好きじゃないんですか?もう…私たちは、…離れるしかないんですか?」
所々、ヒックと声を途絶えさせながら伝えてくるサラの言葉に、バルドは胸を痛めながらも、伝えた。
「すまない。…好きという思いだけでは、続けられないんだ。私は1人の男である前に、王子なんだ。この国唯一の王子として、父の後を継ぐつもりでいる。」
(立ち止まる訳にはいかないんだ。これは俺の役目だから。)
「無理をさせて済まなかった、サラ。ここまでにしよう。」
バルドの悪あがきも、2人の恋も。今は辛くとも楽しかった思い出として、いつか思い出すことになるだろう。涙をこぼすサラを慰めながらしばらく側にいたバルド。少し落ち着いた所で、サラに父オーロ男爵に連絡することを伝え、部屋を離れた。そんな、去り行く王子の背中を見つめ、サラは静かに涙を流し続けるのであった。
サラ担当のメイドからは報告を受けている。渡したノートには目を通していたそうだが、それが本人の勉強に活きたのかどうか…
(王家に連なる人間になるには相当な覚悟がいるだろう。恋人としての思いが彼女にあったとしても、それが意欲に繋がるのかどうか…)
1度は惹かれた彼女だからこそ、何かしら変化があれば今後のために自分もサポートしたい気持ちはある。吉と出るか凶と出るか…バルドはけじめをつけるため、サラの部屋へと向かった。
コンコン。
「サラ、お邪魔するよ?」
部屋を見渡すも姿が見えない。
(ん?今日は午後からは部屋にいるハズなんだが…?)
近くにいたメイドに確認すると、部屋から出たところを見ていないので中にいるハズだと応えられる。戸惑いながらも部屋の奥へと進むと、ベッド奥に彼女の頭がかろうじて見えた。
「…サラ?」
呼びかけに反応したことは確認出来たので、バルドが来たことには気づいているのであろう。サラはベッドにもたれるようにして床に座っていた。泣いていたのだろうか、へたり込むようにして座っているため、スカートの裾はシワになり始めている。
「なんでそんなトコに?ほら、こっちに…」
声をかけても呆然としているサラの腕をとり、床からベッドの上まで移動させる。
(これは、話が出来る様子ではないかもな…)
視線が合わず、ボーっとしているサラの様子を見て話しかけるか否か迷う。ふと、視線をずらすとベッドの枕元にはバルドが渡したノートが散乱していた。パラパラとノートをめくっていると、ふと声が聞こえた。
「…バルド様?」
「あ、サラ?大丈夫か?」
今、やっと自室にバルドが来ていたことに気づいたらしい。声をかけると、恥ずかしそうにスカートのシワを伸ばし曖昧に微笑んだ。
「すみません、私気づかずに…ボーっとしてたみたいで。」
話が出来るのなら、と場所を移し、お互い椅子に座りメイドにお茶を入れてもらう。メイドが席を外し、再び2人になったところでバルドは改めて話しかけた。
「約束の半月がもうすぐだ。どうかな?このノートたちは役に立ったかい?」
「…私のものと全く違いました。細かく書き込みしてあったり、復習してたり。おそらく私よりも幼い時のものですよね?」
「あぁ。10歳までにはひと通り終えていたからな。7、8歳くらいかな…シャルロッテの始めの分は5歳くらいだよ。」
(憧れのシャルノア嬢が5歳で始めたからと、早々と教えられたらしいからな。)
そう考えると、自分よりも妹の方が厳しい教育だったのではないか、と気づいた。きっと彼女なりの苦労と、努力があったのだろうと思う。
そんなことを考えてボーっとしていたバルドは視線を戻して、サラの様子に驚く。
(え、どうした?これは。)
俯いていたサラの目には涙が溢れ、震えている。突然の流れに、バルドは表情を取り繕いながら動揺していた。
「…ダメなんです。私…どう頑張っても…。」
思い詰めたようなサラの表情に、あ、これは限界だったんだな、とバルドはなんとなく察した。
「お借りしたノートを見て、勉強に対する姿勢が違うと感じたんです。みんな私より幼い頃なのに、いろいろな知識を詰め込んでいて…すごいなと思いました。私とは違う、って。そう思ったら、情けなくなっちゃって。頑張らないといけないのに、何してもダメな気がして。」
話を聞いたバルドは状況を把握したものの、サラにたいしてどう接するのが正解なのかわからずにいた。きっと、サラはこのまま基礎教育が終わらないままとなるだろう。本人の様子を見る限り、このまま皇太子妃なんて流れは辛いだけだろう。
「…バルド様。私はここを追い出されるのですか?私はバルド様の横にはもう立てないのですか?」
涙を堪えながら話しかけてくるサラに、言葉が詰まってしまった。
「…すまなかった。」
(無理をさせて。重荷を背負わせて。)
(君が良いなんて言ってすまなかった。)
「…バルド様は、もう私のことは好きじゃないんですか?もう…私たちは、…離れるしかないんですか?」
所々、ヒックと声を途絶えさせながら伝えてくるサラの言葉に、バルドは胸を痛めながらも、伝えた。
「すまない。…好きという思いだけでは、続けられないんだ。私は1人の男である前に、王子なんだ。この国唯一の王子として、父の後を継ぐつもりでいる。」
(立ち止まる訳にはいかないんだ。これは俺の役目だから。)
「無理をさせて済まなかった、サラ。ここまでにしよう。」
バルドの悪あがきも、2人の恋も。今は辛くとも楽しかった思い出として、いつか思い出すことになるだろう。涙をこぼすサラを慰めながらしばらく側にいたバルド。少し落ち着いた所で、サラに父オーロ男爵に連絡することを伝え、部屋を離れた。そんな、去り行く王子の背中を見つめ、サラは静かに涙を流し続けるのであった。
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