上 下
31 / 100

モンティ家の憂鬱

しおりを挟む
 その頃、王都モンティ家の邸では…

メイドその1
(ナナがいなくなって寂しいわ。あの子の主人自慢を聞くのは楽しみだったのに。お嬢様の姿も見られなくて…あのキレイな容姿を私たちの腕でさらに磨くのはメイドの腕の見せどころなのよ。最近は普通のお仕事しかなくなって。お嬢様戻って来られないかしら…)

モンティ家専属御者
(最近はみなさんお出かけが減られて。おぼっちゃまは自力で動かれるし、ご当主は紋章の入ったこの馬車を嫌がられる。唯一の利用がお嬢様で私は幸せモノだったのに、どこに行ってしまわれたのか…)

メイドその2
(目の保養が足りない…モンティ家一家が揃ったあの瞬間、形に残したかった。キラキラした美形揃いの皆様。2人じゃ足りないの。男性陣の中に紅一点お嬢様がいる事でより一層増すのに。あぁ。イケメンのお客様来たりしないかしら…)

モンティ家のコック
(俺の見せ場が…やっとお嬢様のためにこだわりスイーツ始めたのに、しばらく居ないなんて。ナナちゃんと2人でティータイム、そこに並ぶ俺の作品。笑顔で伝えられるお礼。幸せなあの瞬間が、一瞬で終わってしまうなんて。)


などなど、使用人一同お嬢様ロスが深刻です。


そして、ここにさらに深刻な方が。

「旦那様、そろそろ進めて頂かないと今日の分が終わりませんよ?しっかりして下さい。」

「だってさ、シャルがいなくなってもうひと月だよ?ねをあげて帰ってくるのかと思いきや、報告には楽しそうな所ばかり。俺も混ざりたい…」

「そんなしょっちゅう親戚のおじさんは様子を見に行きませんよ。何も助けを求められていないのに。」

「それなんだよな。変装したら怪しまれるしな。俺が動くと王家にすぐチクられるしな…」

(国王に好かれてるからですけどね…)

今日もまた拗ねておられる。
はぁ。。。と大きくため息を吐く、執事のジョン。当主の面倒は自分の仕事とはいえ、最近ずっとこの調子なので参ってしまう。
 ずっと王宮で皇太子妃になる為にと努力してこられたシャルノアお嬢様。幼い頃、辺境へとこっそり家出していた彼女の姿が懐かしい。当時、シャルノアの書き置きを見つけたのは彼である。父親の不在時に執務室に丁寧に置かれた手紙。キレイな文字が所々滲んでいて、彼女が泣いている姿を想像して柄にもなく焦ってしまった。すぐさま迎えに行った当主の焦りようは、自分の動揺が伝わってしまったのかもしれない。お嬢様と一緒に戻られた後も、王宮に送る事しかできず、不甲斐ない親だと悩まれていた。やっと王宮縛りから解き放たれ、辺境で家族水入らずで過ごされたのに。

(きっと辺境での家族の時間が楽し過ぎたんだな。)

 お嬢様のいないモンティ家は指示機を失った車のよう。当主もリュカぼっちゃまも有能なのに、お嬢様という柱を失うと迷子のようにさまよい、いらない傷を増やすばかり。ジョンは祈る。

(どうかお嬢様。そろそろ平民生活は終えられてこの邸に戻ってきてください…)




ガンッ ガンッ 
カッ。
ガコッ…

今日もモンティ家の訓練場は悲惨な状態。
なぜならば、魔王リュカが滞在しているから。

本来彼は騎士団所属なので王宮に通うべき人間なのだが、王子が許せず、その王子をサポートしていた近衛騎士団はもってのほか。辺境に行く前に指導してやった3班の騎士の保護者から苦情がきたらしく、厳重注意を受けた。本来なら謹慎や減給ものだが、状況を把握している上司はリュカの気持ちを理解してくれた。近衛騎士団長のシュナイダーの忠言もあるだろう。
 ただ、苦情への対応を形にはせねばならないので、自主的自宅謹慎並びに有給消化である。

 怒りが収まらないリュカは、自宅の練習用の模型を相手にストレス発散。実力十分なので、木刀でみね打ちにも関わらず破壊していく。

(シャルもナナも元気にしてっかなー?そろそろ遊びに行っても良い頃合いじゃね?父上より先を狙わねば。)

 それぞれ複雑な思いを抱え、モンティ家の人々は本日も憂鬱な日々を過ごしておられます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

処理中です...