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タイムリミット
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その後も、バルドは時間を見つけてはサラの様子を見に行った。どれか得意な科目があるのかもしれない、と期待したこと。彼の姿を見て、少しは良い所を見せようとやる気を出すかもしれない、と期待したからだ。だが、ことごとく裏切られた。
妹に言われた、現実を見るべきだという言葉が頭の中に流れている。バルド自身の目で、彼女に王太子妃は無理だと確認してしまった。だが、国王に伝えた自分の言葉が思い出される。責任をもつ、この言葉がもつ重みをバルドは今更ながら感じた。このままではダメだ、自分自身の立場が脅かされている事実を目の当たりにして、ようやくバルドは危機感が芽生えた。
その日バルドは、午前中で授業を終えたサラをお茶に呼び出した。
温室に来たサラはキレイに着飾り、嬉しそうに笑っている。
(この笑顔に癒されたかったんだな、俺は。)
今となっては、厄介なお荷物のようにしか感じていない。百年の恋も目覚めた、というような気分で自己嫌悪にすらなる。
「座ってくれ。」
メイドにお茶を淹れてもらい、テーブルに茶菓子を並べ終わった所で皆に席を外して貰った。
「嬉しいですわ、2人きりなんて。どんなお話でしょう?」
頭に花でも湧いてんじゃ…
ネジが緩んでるんじゃ…
バルドの頭の中では彼女を詰るような言葉が浮かんでしまう。ここまで酷いとは…と投げ出したくなる気持ちでいっぱいだ。
「誤解のないよう、単刀直入に伝えよう。僕はゆくゆく皇太子になる。その為に勉強してきたし、そう言われて育ってきた。だから、僕の隣に並ぶのは王太子妃となる人物だ。だが、今の君には無理だ。とても想像つかない。」
「な、どうしてですか?バルド様が選んで下さったのに。」
「ここ最近、君の授業の様子を見させて貰った。男爵令嬢である君に負担のないよう、僕なりに配慮した内容で、優秀な人材で固めていた。だが、いっこうに基礎教育が終わる気配がない。」
「…未熟なのは認めます。苦手な分野が多くて…でも、バルド様を支えていく気持ちは負けてません。」
「君は、教えてもらうことが当たり前になっていないか?本来今行われている教育は大金が必要だ。それを僕の未来の伴侶となる君に無償で与えている。何故だか分かるか?未来の王太子妃が無能じゃ困るからだよ。僕を支える?そんな頼りない支えなどいらない。1人でしっかり立てれる人間でないと王子の横には立てないんだ。」
「それは…私、頑張ります。ここから挽回しますんで。」
「……」
「私が良いと言って下さったのはバルド様じゃないですか。」
「……」
(分かっている。私自身後悔している。すごく。)
婚約者候補を不要としてしまった。
優秀な人材を追い払ってしまった。
今なら分かる。
彼女が高嶺の花と呼ばれていた理由も、
この王宮内で一目置かれた存在だったことも。
「…選んだ僕に後悔させないで欲しい。君を選んだことに僕は責任を持たなければならない。だからこそ、きつく言わせてもらう。あと半月。半月後に基礎教育を終えていなければこの王宮には留まれない。オーロ男爵に連絡して、迎えに来てもらおう。」
「それは…追い出されるということですか?」
「無知な人間が権力を持つこと程恐ろしいことはない。自発的に考える人間でなければ、ただの傀儡とされるだけだ。そんな婚約者は必要ない。」
バンッ。
テーブルに数冊のノートや本が置かれる。
「これは私が基礎教育を受けていた時の教科書やノートだ。こちらは妹の分。こちらは親戚である公爵家のお嬢様の物を借りている。君のものと比べたら一目瞭然だろう。
努力しない人間など王家にはいない。基礎教育は本来10歳までに高位貴族が身につけている内容だ。出来ないこと、分からないことを恥ずかしく思わなければならないんだ。」
「…はい。」
「ここからの君の努力を見させてもらう。君が良いと言った僕の言葉を信じさせて欲しい。」
そう伝え、早々と自室へ戻る。
どうなるか不安ではあるが、ここまで言って改善しない相手を守れるほどバルドはお人よしではない。ただ、自分の発言には責任をもちたい。最後のチャンス。しっかりと見させてもらう。タイムリミットはあとわずか。
妹に言われた、現実を見るべきだという言葉が頭の中に流れている。バルド自身の目で、彼女に王太子妃は無理だと確認してしまった。だが、国王に伝えた自分の言葉が思い出される。責任をもつ、この言葉がもつ重みをバルドは今更ながら感じた。このままではダメだ、自分自身の立場が脅かされている事実を目の当たりにして、ようやくバルドは危機感が芽生えた。
その日バルドは、午前中で授業を終えたサラをお茶に呼び出した。
温室に来たサラはキレイに着飾り、嬉しそうに笑っている。
(この笑顔に癒されたかったんだな、俺は。)
今となっては、厄介なお荷物のようにしか感じていない。百年の恋も目覚めた、というような気分で自己嫌悪にすらなる。
「座ってくれ。」
メイドにお茶を淹れてもらい、テーブルに茶菓子を並べ終わった所で皆に席を外して貰った。
「嬉しいですわ、2人きりなんて。どんなお話でしょう?」
頭に花でも湧いてんじゃ…
ネジが緩んでるんじゃ…
バルドの頭の中では彼女を詰るような言葉が浮かんでしまう。ここまで酷いとは…と投げ出したくなる気持ちでいっぱいだ。
「誤解のないよう、単刀直入に伝えよう。僕はゆくゆく皇太子になる。その為に勉強してきたし、そう言われて育ってきた。だから、僕の隣に並ぶのは王太子妃となる人物だ。だが、今の君には無理だ。とても想像つかない。」
「な、どうしてですか?バルド様が選んで下さったのに。」
「ここ最近、君の授業の様子を見させて貰った。男爵令嬢である君に負担のないよう、僕なりに配慮した内容で、優秀な人材で固めていた。だが、いっこうに基礎教育が終わる気配がない。」
「…未熟なのは認めます。苦手な分野が多くて…でも、バルド様を支えていく気持ちは負けてません。」
「君は、教えてもらうことが当たり前になっていないか?本来今行われている教育は大金が必要だ。それを僕の未来の伴侶となる君に無償で与えている。何故だか分かるか?未来の王太子妃が無能じゃ困るからだよ。僕を支える?そんな頼りない支えなどいらない。1人でしっかり立てれる人間でないと王子の横には立てないんだ。」
「それは…私、頑張ります。ここから挽回しますんで。」
「……」
「私が良いと言って下さったのはバルド様じゃないですか。」
「……」
(分かっている。私自身後悔している。すごく。)
婚約者候補を不要としてしまった。
優秀な人材を追い払ってしまった。
今なら分かる。
彼女が高嶺の花と呼ばれていた理由も、
この王宮内で一目置かれた存在だったことも。
「…選んだ僕に後悔させないで欲しい。君を選んだことに僕は責任を持たなければならない。だからこそ、きつく言わせてもらう。あと半月。半月後に基礎教育を終えていなければこの王宮には留まれない。オーロ男爵に連絡して、迎えに来てもらおう。」
「それは…追い出されるということですか?」
「無知な人間が権力を持つこと程恐ろしいことはない。自発的に考える人間でなければ、ただの傀儡とされるだけだ。そんな婚約者は必要ない。」
バンッ。
テーブルに数冊のノートや本が置かれる。
「これは私が基礎教育を受けていた時の教科書やノートだ。こちらは妹の分。こちらは親戚である公爵家のお嬢様の物を借りている。君のものと比べたら一目瞭然だろう。
努力しない人間など王家にはいない。基礎教育は本来10歳までに高位貴族が身につけている内容だ。出来ないこと、分からないことを恥ずかしく思わなければならないんだ。」
「…はい。」
「ここからの君の努力を見させてもらう。君が良いと言った僕の言葉を信じさせて欲しい。」
そう伝え、早々と自室へ戻る。
どうなるか不安ではあるが、ここまで言って改善しない相手を守れるほどバルドはお人よしではない。ただ、自分の発言には責任をもちたい。最後のチャンス。しっかりと見させてもらう。タイムリミットはあとわずか。
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