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ガツンと殴られたような…

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 「すまないが、一緒に授業を受けても構わないか?」

「バルド様⁈」

 妹シャルロッテに非難と助言を受けた翌日、思い立ったら即行動の男、バルドは授業を受けているサラのもとを訪れていた。
 突然の王子の訪問に指導していた教師は驚きを見せたが、ここは現状を知ってもらう機会だ、と気持ちを切り替えた。一方、男爵令嬢サラは少し焦ったように手元の教科書やノートをつついて落ち着かない。

「構いませんよ、こちらのお席にどうぞ。」


 午後からの授業。バルドの組んだ日程では歴史と作法は毎日ある。重要だからもあるが、繰り返すことで覚えられる科目。歴史は1ヶ月もあれば教科書の内容は済んでいるハズだ。復習したり、内容を掘り下げて深く学ぶ時期なので、バルドが参加することで、内容理解を深めていければと思っている。

「では、昨日の復習から参りましょうか。」

教師が配る用紙の内容で、最も内容が濃い近世の時代だと分かる。戦の時代が終わり、友好関係を築き始めた時代。他国からの文化も多く入り、多くの功績を残した人物が沢山出てくる。バルドはこの時代は覚えやすく、掘り下げ過ぎて教師と熱く語り合った事もある。

(今の時代にも影響が多いし、学んでて楽しいと思うけどな。)

スラスラと問題を解きながら自分の学んだ頃を懐かしんでいた。基礎教育を終えてからだいぶ経つが、1度学んだことを忘れる人間は王家にいない。

「そこまでにしましょうか。」

 教師の解答に合わせ自己採点をする。流れにのって簡単な解説も加えて話す様子を見る限り、この教師は優秀だと思う。きっと知識の引き出しは多く、状況に応じて出し入れ出来る人間は頭の回転も早いと思う。彼と討論出来たら楽しそうだ。
 そんなことを考えながら、ふと、サラの様子を見る。用紙の半分もないだろうか、丸の数が少なく必死に解答を書き入れている。

(昨日の復習なんだよな?覚えきれていないのか?)

満点と言わずとも、せめて7割くらいは覚えないと教えている側は次に進むのを躊躇うだろう。教師の苦労を感じて労るような視線を向けると、苦笑いしていた。サラの用紙には解答だけの書き込みで、丁寧に解説していた内容や覚えるためのコツなどのメモは見当たらない。

(本人の意欲の問題、か…直接目の当たりにすると自分もそう感じる。)

本人が悪びれもなくケロッとしている事も気になる。勉強熱心な人であれば気まずいような表情になるものではないだろうか…

「では、今日の内容に参りましょう。王子も参加されているので気楽に会話形式で出来ればと思います。この時代は多くの文化が他国から入りました。王子はバルバド王朝の発展はどれだと思われますか?」

「難しいね、ロマネ地方の美術品は有名だし、ブァロアの彫刻品は後々の宗教にも影響がある。まとめてルノーア文化かな。」

「そうですね、バルバド政権では多くの骨董品が残されております。当時のティナ皇后はキレイなものを集めるのが好きな方でした。サラ様、どんな物を集めておられたかご存知ですか?」

「んーなんでしょう?宝石かしら?」

きゃっきゃっと効果音でも聞こえてきそうだ。
ガクッと落とされた。ルノーア文化の話から何故そうなる?勉強不足以上に考えナシだな…呆れてしまう。

「キラキラしてますもんね…ティナ皇后は絵画や彫刻品の繊細さをキレイと感じておられたんですよ。王子が仰ったルノーア文化の芸術品が数多く見つかっております。皇后の持っていた骨董品を追う事で、どの国と交流していたのなどんな信仰だったのか分かるんですよ。」

そうそう。とバルドは感じていたが、サラの表情は冴えない。理解が浅いのか、勉強不足が否めない。
 もどかしい思いを抱えながら授業を終えた。

「急な参加で悪かったな。知識豊富な先生とは語り合うだけでも勉強になりそうだ。楽しませて貰ったよ。」

バルドは誠意をもってお礼を伝え、教師を送り出した。
 次の作法までしばらく時間がある。

「バルド様、今日は時間がございますの?」

急に元気になり、腕を絡めてきたサラに対して頭を抱えたくなってしまった。

「今日は君の勉強姿を見るために午後は空けてきたんだ。」

サラは嬉しそうな笑顔で話しかけてきたが、バルドは途中で遮った。

「サラ、君はこの王宮ですでに1ヶ月は過ごしているんだ。この教科書の内容くらいは覚えていないと認めて貰えない。昨日の復習を間違っているようじゃダメだ。」

「私、歴史は苦手なんです。いろいろな方の名前がごちゃ混ぜになっちゃって。」

テヘッと可愛らしく伝えてくるサラ。歴史以外なら、と言うのでその後も見守っていたが作法の授業も散々であった。


(いや、なんだそのフラフラは!)
(音を立てすぎだ。自分で気にならないのか?)
(あのキレイな姿勢が見本でどうしてそうなる?)


ツッコミどころが多すぎて、作法の授業では黙っていることで精一杯だった。ようやく自室に戻った時には疲れきっていた。作法の教師と話した所、彼女の中では予習、復習は皆無だという。出来ることが当たり前ではなく、出来ないことが当たり前、という前提での勉強姿勢だという。高位貴族のお嬢様であれば幼児期に身についております。と言われ、サラは幼女以下のレベルだと伝えられた。バルド自身もその言葉に納得してしまう。
 頭をガツンと殴られた気分だった。
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