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阿修羅の如き王女たち

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「「バカじゃないの⁈」」

王宮奥、王族しか入ることの出来ないプライベートな空間に、姉妹の声は揃って響いた。

甲高い声にこっそり耳を塞いでいたバルドは、大きくため息をついた。

(なんで2人ともこんなに怒っているんだ?)

「何のために早くから令嬢たちを集めて指導してきたと思ってるの⁈貴方は多くの令嬢を敵に回したも同然なの。ちゃんとその意味理解しているの⁈」

姉からの厳しい指摘にバルドは首をひねる。

「それは、サラを選んだから?」

「「当たり前じゃない‼︎」」



バルドは幼い頃から後継者と言われ続け、厳しい教育を受けてきた。剣の稽古も、皇太子としての勉強も力を抜いたことはない。自分に相応しい相手なら婚約者は誰でも良いと思っていた。
 だが、息抜きにと出た街へのお忍びで、不意にぶつかった彼女に一目惚れした。守ってあげたくなるようなか弱い姿。お淑やかに話す彼女に惹かれて仕方がなかった。
 5個離れた姉も、3個下の妹も王家の人間として育てられ、自分の意思をはっきりと言える女性だった。言い換えるならば、強気な女性。そのため、突然目の前に現れたサラは新鮮で、自然と目で追っていた。

 側近の中では意見は真反対に分かれていた。男爵令嬢など王子に相応しくない、早く目を覚ませと怒る人間。王子だって自由に恋愛すべきだ、男を見せろと応援してくれる人間。バルドは後者の意見を優先した。一生を共にする相手。自分で決めて、足りない所は自身が補えば良いとすら思っていた。そのため、徹底的に隠し通した。王家の人間は反対すると思っていたから。その場でサラが婚約者だと決まれば、誰も反対などできないと分かっていたから。


(ここまで怒らなくても。2人とも彼女と仲良くなれば問題ないだろう?)

バルドは全く理解していなかった。
 社交界で高嶺の花と言われるシャルノアは、王女たちにとっても憧れだったこと。なかなか話す接点のない2人が、婚約者として決まったシャルノアを迎えるのをとても楽しみにしていたこと。何より、シャルノアが優秀で王家には必ず必要な人材だということを。



(兄様が分からないのも仕方ないかもしれない。王太子になるのは決まっていて、自分を脅かす存在なんていないのだもの。)

第1王女 第1子 アメリア
第1王子 第2子 バルド
第2王女 第3子 シャルロッテ

同腹の兄妹で、父母とも仲が良く、
愛情も同じように受けて育った。

だが、周りから見れば違う。王女たちはいずれ嫁ぐ身。
王子は1人、優秀な彼の力になれば出世出来る。
王子たちと歳の近い貴族の子どもたちは、親の背中を見て育ち、顔色を伺うことにも、機嫌を取ることにも必死だった。そんな姿を見てきた王女たち。特に姉や兄と比べて…と教師から言われ続けたシャルロッテは、誰よりも努力し、己の力を過信することなく磨き続けてきた。

 大きくなってからは、嫁ぐ、ということが目に見えてきたため、社交を共にする中で姉との距離も縮まり、王家の責任や役割、貴族との繋がりなどを共有してきた。
 そんな2人が一目置く存在。基礎教育をトップで潜り抜けてなお、王宮での知識を貪欲に求め続けて励む姿。王太子妃として相応しい姿だった。他の貴族と違い、王家の人間にも媚を売らず、他人を貶したりする事もなく凛とした姿。王女である自分たちを差し置いて高嶺の花と言われるのにも納得できる。そんな彼女を誰もが認めていた。ただ1人バルドを除いて。


「これ、見て!」

姉の広げた紙面に目を向ける。

【高嶺の花の伯爵令嬢、冴えない男爵令嬢に敗北した。】

夜会の翌日、平民を中心に広がった紙面だ。

「冴えないって何だよ、何も知らずに。」

「「そこじゃない!!!」」」

見当違いな発言をする弟に、アメリアはキレた。

「こんな醜聞が広げられた彼女がこの後どうなると思う?下手したら結婚もできずに修道院へ直行よ⁈あのシャルノア様が。令嬢たちの憧れの彼女が!何の落ち度もない彼女に対してアンタは死刑宣告をしたも同然なのよ⁈ちゃんと分かってるの、バカルド‼︎」

「彼女は候補の1人ってだけだろ?」

「兄様の選んだ令嬢は候補にも上がってないのよ?身分も実力も容姿も何もかも足りないの!候補者教育の厳しさを知らないの?今からでも最愛の人と一緒に受けてくれば⁈1日ももたずに逃げ出すでしょうよ。」

「ただの基礎教育だろ?」

「「アンタ(兄様)とは違うの、地獄よ!」」

王女たちは近くで見てきたので知っている。足の引っ張り合い、女同士の嫉妬や妬みの怖さ、女の戦いの怖さ。
 母に連れられ見せられた、貴族、マジョリティ社会の怖さ。唯一の王子として甘やかされたバルドに分かる訳がない。
 母はそんなバルドの立場を不安に思い、王女たちに先に知らせたのだ。兄妹で支え合えるように、婚約者の令嬢と協力し合えるように。そんな母の思いを彼は無碍にしたのだ。自分の欲のために。
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