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4.魔法学院3年生 後編

帰国、縮まる心の距離

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 ガンダルグ国とヴィレス国の両国の帰国の日になった。

 リュディガーとイアンは1度帰国し、休暇終了と共に戻ることになる。ダレンは学院に残るので、そちらは使節団だけの帰国となる。



「結局、アイツについては様子見か?」

不貞腐れたような表情で、ノアはランベールに話しかける。

「仕方ない。現時点では記憶もないし、怪しい所はあれど、危険はない。そう、テオの判断だからね。」

「ったく、ホントにちゃんと見たのかよ…普通に怪しいだろうが。」

「まあまぁ。ちゃんと気をつけて見ておくから。」

最近のノアは、ランベールやハロルドの連絡係のためソフィアの近くに居られず、不機嫌な事が多い。フクロウ姿もめっきり見ていないのでソフィアとしても寂しい限りである。

「いや、近づかないでいてくれるのが安心だ。」

「「「俺もそう思う。」」」


ノアの発言に、両王子と護衛についていたクレイグまで声を揃えるものだから驚きだ。みんなの視線が集まって、辛い。

「留学生だもの。先輩後輩として関わる事は必然です。」

得意気に言い返すソフィアだが、再び呆れたような視線を向けられてしまう。

「危険だってことは理解しているなら、なるべく1人にならないことだ。」

心配そうなジルベールに言われ、ソフィアは頷くしかない。彼はガンダルク御一行と共にセウブ国を離れるため、側にいられない分余計に心配なようだ。

「私にはみんな付いてますから。」

ソフィアの肩口には妖精イソールを乗せたエンギルが陣取っている。カルディナは兄アルフレッドの元にいるが、ノアやランベール、クレイグに見守られているソフィアは誰よりも安全だと言えるだろう。そんなソフィアを見て、フッと笑ったジルベールは、レオを連れてガンダルクへと向かう船へと歩き出す。
 国王エドガーを始め、リュディガーやイアンも乗り込んだ船はもうすぐ出航だと知らせる汽笛を鳴らした。
 船の見送りのため港付近にいたソフィアは、ジルベールと入れ替わりで降りてきた人に気付き、戸惑っていた。
 相手は船員にひと声かけてから、ソフィアの元へと向かって来ている。

(どうしよ…逃げちゃダメかな。)
身体が逃げ腰になり、後ろに下がった所でトンッと背中を押される。後ろにいたのはランベールだった。

「…一緒にいるから。話くらいは聞いたげようよ。」


コツッ。コツッ。
聞こえていた足音は目の前で止まる。


「ソフィア。少し話せるかしら?」

母クロエは真っ直ぐにソフィアを見つめていた。小さく頷くと、微かに口元が緩んだように見えた。
 

「私はガンダルクに戻るわ。しばらく居るかもしれないし、そのうちまた旅に出るかもしれない。だから、会えて良かったわ。こんなにたくましくなってるとは思わなかったけど…。」

(しなくていい苦労も、きっとたくさんしてきたのよね…。)

言葉を止めじっと見つめられていることに、ソフィアは返事を返すべきなのか迷う。この人は何を伝えたいのだろうか…


「精霊から愛されていることも、周りの仲間に恵まれていることもよく分かったわ。だけどね、どれだけしっかりしてても心配なものよ。私は貴女の母親だから。今さらっても思うし、怒られても仕方がないと思うわ。貴女たちにはその権利がある。親としての仕事を放り出したのは私だからね…。だから怒って良いの。恨んでいいの。貴女の気持ちを教えて欲しい。」

(そう言われても…何も出てこないわ。)

しばらく俯いたまま、沈黙が続く。ソフィアは何か言おうと思うのだが、うまく言葉にならなかった。


「…そろそろ時間ね。また、会えると思うから。」

ソフィアが何も返せないまま、母クロエは船へと戻り始めた。

「あのっ…。」

呼び止める声に、クロエは振り返った。

「今は上手く伝えれそうにないので、…手紙を書いても良いですか?」

「待ってるわ。返事を書くから。」

そう応えて、ニコリと笑うとクロエは来た道を戻っていった。
 
 ポンッ。
ソフィアの頭に大きな手がのる。

「頑張ったな。」

(この人の笑顔は本当に暖かい。)

ランベールに微笑みで応えると、みんなの元へと戻る。
船の上からは、ジルベールやガンダルクの面々が手を振っていた。

(ゆっくり書いてみよう。今までの気持ちを。)

船を見送りながら、ソフィアはそう思っていた。
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