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3.魔法学院3年生 前編
(51).他国への留学
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隣国ガンダルグ。
魔法を使うことなく、武力で国家を作り上げてきた歴史ある国である。数年前までは屈強な体格と頭脳で国王ダグラスが治めていたが、老衰のため亡くなった。
彼は武力をもって平和を作り上げた尽力者なのだが、その能力は息子たちには受け継がれなかった。
後継者を決めかねていた所で倒れてしまったため、どの王子が受け継ぐのか話し合いでは決まらず、臣下たちも巻き込んだ争いとなってしまった。兄弟喧嘩は長引き、国民の支持は底辺まで落ちてしまう。
そんな王子たちを退け、新たな王として立ち上がったのは当時の騎士団長エドガー・デ・ヴォルグである。
いくつもの戦争で国王ダグラスの補佐を務めてきた彼は、後継者争いによる国の疲弊を誰よりも嘆いていた。
どちらにつくことなく中立の立場で、有志で集まった騎士を率いて国民の避難を手助けしていた。
国外への避難も視野に入れ始めた頃、彼の前に1人の魔法使いが現れた。
セウブ国出身の彼女は何も言わずとも現状をしっかりと把握しており、エドガーが助けて欲しい場所に次から次へと魔法を行使した。
国民たちの避難が落ち着き、ひと通りの生活が出来るようになった頃、現王権を倒すのはどうかと持ちかけられたのである。国王ダグラスを慕っていたエドガーとしては全く考えもしなかったことである。
その後、魔法使いの手助けもあり無事に王権を奪取することに成功した。王子たちは島へと流され、新ガンダルグ王国誕生となった。
ちょうど1年前の話である。
「兄ちゃん、そろそろ見えてくるぜ。」
船員さんの声にジルベールは外の景色を眺める。広大な海の向こうに町らしき建物が多く並ぶ島が見えてきた。隣国ガンダルグの港町ルーパである。
(いよいよガンダルグへ入国か。)
半年前、ノアスフォード領の港から出港した船は北航路をとり、各国の港に寄っては積荷を下ろし、新しい品を載せていった。
ジルベールは長い船旅に揺られながら、時には港町の酒場へと繰り出し、情報収集していた。ガンダルグ国内は新王の統治のもと、落ち着いてきたらしい。セウブ国の情報は流れてこないものの、悪い噂話がないのは平和な証拠と思うことにした。
船が港につくと、多くの船員が積荷を下ろし始めた。ここが折り返し地点であり、次からは南航路を戻る。再び海の上へと戻る前に、街へ出て日常品を買いまとめ旅に備えるのである。
ジルベールも荷下ろしを手伝い、終わった所で街へと向かった。留学の話は通っているけれども、自分の目で、耳で、この国の状況を知りたいと思っていた。
大きめの食事処に入り、注文を済ませて聞き耳をたてる。
「王子が流された街って環境最悪なら所らしいぞ。」
「こないだうちの娘が見たらしいんだけど、国王の愛人、若くてキレイなんだって。魔法も使える他国の人だとか。」
「また値上がりかい?この辺りじゃ安くしてもらわんとやってけんぞ。」
いろいろと話が流れ込む。
話の信頼度は半分くらいか…いつかは王城にも顔を出さないとならないが、今の王は初めて会うので不安でもある。
「こないだ国王が街に偵察来た時さ、女も子どもも連れてたんだよ。女は歳も近いように見えたが、子どもはもう成人真近って感じでさ。連れ子かな?」
「髪の色も違うし、他人みたいだったけどな。」
どうやら、今の国王の側には魔法が使える女性と、その世話をする従者の格好をした青年かいるようだ。
噂の魔法使いだろうか?確認しなければ。
ガンダルグ内の学校は少ないが、唯一大きい学校として、ディール騎士学校がある。ジルベールもその学校の3年生に留学予定である。
魔法がないこの国では武力に秀でた者が優遇される。剣術、武道、どこをとってもセウブ国に恥じない姿でありたいと願う。
(今頃兄上たちは何やってんのかな?向こうも留学者が決まる頃だよな…)
魔法を使うことなく、武力で国家を作り上げてきた歴史ある国である。数年前までは屈強な体格と頭脳で国王ダグラスが治めていたが、老衰のため亡くなった。
彼は武力をもって平和を作り上げた尽力者なのだが、その能力は息子たちには受け継がれなかった。
後継者を決めかねていた所で倒れてしまったため、どの王子が受け継ぐのか話し合いでは決まらず、臣下たちも巻き込んだ争いとなってしまった。兄弟喧嘩は長引き、国民の支持は底辺まで落ちてしまう。
そんな王子たちを退け、新たな王として立ち上がったのは当時の騎士団長エドガー・デ・ヴォルグである。
いくつもの戦争で国王ダグラスの補佐を務めてきた彼は、後継者争いによる国の疲弊を誰よりも嘆いていた。
どちらにつくことなく中立の立場で、有志で集まった騎士を率いて国民の避難を手助けしていた。
国外への避難も視野に入れ始めた頃、彼の前に1人の魔法使いが現れた。
セウブ国出身の彼女は何も言わずとも現状をしっかりと把握しており、エドガーが助けて欲しい場所に次から次へと魔法を行使した。
国民たちの避難が落ち着き、ひと通りの生活が出来るようになった頃、現王権を倒すのはどうかと持ちかけられたのである。国王ダグラスを慕っていたエドガーとしては全く考えもしなかったことである。
その後、魔法使いの手助けもあり無事に王権を奪取することに成功した。王子たちは島へと流され、新ガンダルグ王国誕生となった。
ちょうど1年前の話である。
「兄ちゃん、そろそろ見えてくるぜ。」
船員さんの声にジルベールは外の景色を眺める。広大な海の向こうに町らしき建物が多く並ぶ島が見えてきた。隣国ガンダルグの港町ルーパである。
(いよいよガンダルグへ入国か。)
半年前、ノアスフォード領の港から出港した船は北航路をとり、各国の港に寄っては積荷を下ろし、新しい品を載せていった。
ジルベールは長い船旅に揺られながら、時には港町の酒場へと繰り出し、情報収集していた。ガンダルグ国内は新王の統治のもと、落ち着いてきたらしい。セウブ国の情報は流れてこないものの、悪い噂話がないのは平和な証拠と思うことにした。
船が港につくと、多くの船員が積荷を下ろし始めた。ここが折り返し地点であり、次からは南航路を戻る。再び海の上へと戻る前に、街へ出て日常品を買いまとめ旅に備えるのである。
ジルベールも荷下ろしを手伝い、終わった所で街へと向かった。留学の話は通っているけれども、自分の目で、耳で、この国の状況を知りたいと思っていた。
大きめの食事処に入り、注文を済ませて聞き耳をたてる。
「王子が流された街って環境最悪なら所らしいぞ。」
「こないだうちの娘が見たらしいんだけど、国王の愛人、若くてキレイなんだって。魔法も使える他国の人だとか。」
「また値上がりかい?この辺りじゃ安くしてもらわんとやってけんぞ。」
いろいろと話が流れ込む。
話の信頼度は半分くらいか…いつかは王城にも顔を出さないとならないが、今の王は初めて会うので不安でもある。
「こないだ国王が街に偵察来た時さ、女も子どもも連れてたんだよ。女は歳も近いように見えたが、子どもはもう成人真近って感じでさ。連れ子かな?」
「髪の色も違うし、他人みたいだったけどな。」
どうやら、今の国王の側には魔法が使える女性と、その世話をする従者の格好をした青年かいるようだ。
噂の魔法使いだろうか?確認しなければ。
ガンダルグ内の学校は少ないが、唯一大きい学校として、ディール騎士学校がある。ジルベールもその学校の3年生に留学予定である。
魔法がないこの国では武力に秀でた者が優遇される。剣術、武道、どこをとってもセウブ国に恥じない姿でありたいと願う。
(今頃兄上たちは何やってんのかな?向こうも留学者が決まる頃だよな…)
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