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2.魔法学院2年生

(49).出し尽くされた膿

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 留学編入試験当日。ジルベールから渡された試験内容をしっかり覚えたシンシアは自信をもって回答することができた。
 順調にコトが進み、大満足の彼女はもうひとつの作戦も早急に進めることにする。


 事前にレイチェル嬢にお茶会と称してソフィアを呼び出して貰っていた。離宮の庭園にシンシアを囲む会を開く。ジルベールにも指示を出しており、事前に渡した薬をお茶に入れるように伝えた。
 シンシアとレイチェルでソフィアを挟む形で座っているので様子を逐一見る事ができるのがありがたい。レイチェルと目配せをしながら腰を下ろす。


「学院では先輩としてよろしくお願いします。」


 1度誕生祭で会っている分、簡素な挨拶を済ませ会話を進める。彼女はしおらしくソフィアへと告げた。


「今日はゲストとして第二王子もお越し頂いてますの。」


そう言う彼女の横の椅子には、扉からまっすぐ入ってきたジルベールが座った。
 お茶が配られ、飲もうとした時、

「そこまで。」

という声と同時にランベールとアルフレッドがノアと共に現れた。ジルベールは既に立ち上がり、ソフィアの前のカップを横に避けた。


「えっ、どこから?」

「急に現れましたゎ…」


突然現れた王子の姿にシンシアとレイチェルは完全に動揺している。
その間に、2人の後ろには近衛兵がついていた。


(きっとノアの転移ですね。昨日からレオに呼び出されたりバタバタしてると思えば…兄様たちに借り出されてたのね。)


状況は掴めていないものの、身内が多いこの場でソフィアが焦ることはない。


「ちょっとおイタが過ぎましたね、シンシア嬢。あまりにも杜撰な計画でこちらとしては楽しませて貰ってましたが、手を出してはいけないところに進んでしまったようで、残念ですよ。」


(ランベール様の笑みが怖い。怒ってる?)


チラッと兄に目配せすると、困ったように笑っていた。
何が起こっているのか、ソフィアにはさっぱり分からない。


「何のことでしょう?何故そのように言われるのか分かりませんわ。」


しらを切るつもりのシンシアに、側にいたジルベールは馬鹿にしたような笑みを向ける。


「昨日、学院長室の金庫へ試験内容を盗みに行くように伝えたのはお前だろ?違うとは言わせない。他でもない、俺に指示したのだから。」

「貴方…なんで…?指示なんてしてないわ。」


怯えた表情で答えている彼女は、動揺を隠しきれてない辺り、意外と素直なのかもしれない。



「試験内容を見れば分かる。学院長に頼んで問題はそのままにしてもらった。順番だけ変えてな。だから回答を見れば分かるんだよ。ちゃんと勉強してれば気づいて満点なんだがな、お前じゃ無理だろ?」

「なっ。そんな…問題は同じだったゎ。順番なんて。」

「きっとそのまま丸暗記したんだろ?回答と問題並べたらズルしてるのが分かるはずさ。」


シンシアはキーッとでも声が出そうなくらい、悔しそうな表情をしている。



「そもそも貴女は誰に薬を盛ったのか分かってる?ジルはうちの第2王子だよ?王族に手を出して平気だと思ってるあたりが普通じゃないんだよ。」

「普通は即斬首刑。よくて終身刑?」


アルフレッドの言葉にシンシアがブルッと震える。


「レイチェル嬢もただでは済まないからね。この場にいることが既に共犯者の証拠だから。」

「そんな…私は参加しただけです。何も罪に問われることはしておりませんわ。」

「それじゃ、このお茶飲んでくれる?ソフィア嬢のお茶だ。」

「そ、それは…」

「何故戸惑う?少し冷めてはいるが、ただのお茶だ。」

「……」

「飲もうとしないのは、シンシア嬢の計画を知ったうえで見ないふりをしていたからだろう?」


側で聞いていたソフィアは不思議に思う。
そっと手を伸ばしてお茶を口に含んだ。


「こらっ、ソフィー。」

「だって兄様、これただのお茶ですよ?」


ケロっと言うソフィアに、周りの男性陣一同呆れてため息を吐く。


「当たり前だ。そもそもジルベールがお前に薬を盛る訳がないだろ?」

「え?ジル先輩がそんな役だったんですか?」


ランベールは決着は着いたものとして、縮こまった令嬢たちは無視して、状況説明をする事にした。


「シンシア嬢はジルベールに薬を盛って自分の思いのままにしようとしていたんだ。ただね、ジルベールには効かなかったんだ。フィーがお守りあげてたんでしょ?」

「…?あ、カフス?」

「そう、口にする前に反応してくれてたから、避けれたし、すぐに調べることもできた。」

「そんな…始めから騙されてたの…」

「いろいろ計画してそうだって、ジルが協力してくれたんだ。試験問題盗むのは知ってたけど、このお茶会までは知らなかったから焦ったよ。」

「ソフィーまで狙われるとは思ってなかったからね。ジルがノアに知らせてくれて良かったよ。」


どうやら兄様たちは番人のノアたちや精霊との繋がりを大いに利用しているようだ。

「ひとまず、無事で良かったよ。」


シンシアは両親のいる離宮の警備隊へ、レイチェルは父親のいる官僚棟の警備隊へと引き渡されることになった。報告も兼ねて陛下のもとへ向かうと、そのままお茶室へと通される。テオドールに迎えられた面々はゆっくりと腰を落ち着けた。


「ソフィー制のカフス、僕にもちょうだい?多分父上も欲しがるよ?」

「兄様たちの色のカフス探さないとですね…たまたま見つけて思いつきで始めたので。」


兄妹で話していると、ランベールたちが入室してきた。
遅れてハロルドと陛下も入ってくる。


「迷惑をかけたな、ソフィア嬢。シンシア皇女は両親と共に帰国することになった。留学はもちろん取り止めだ。」

「いぇ、私は何も。王子様方が動いて下さったので。」


皆が席につき落ち着いた所で陛下が話し始めた。


「今回の件は周辺国にも広まっていてな、留学希望者も増えてきていたんだ。1度正式な試験を設けて、合格者を受け入れたいと思っている。シンシア嬢のような者がこの先何度も現れるのも厄介なのでな。」

「では、留学は来年からですか?」

「あぁ、そうなる。ソフィー嬢も最高学年ならば、いろいろと対応しやすかろう?」

「問題が起きない事が1番ですがね。」


ハロルドはソフィーに迷惑がかからないようにチクッと刺すことを忘れない。


「それと、これは本人の希望なんだが、ジルベールは隣国ガンダルグへ留学することになった。おそらく交流の意味も込めて、試験には向こうの王族が来るだろう。」

「今は王位継承争いも落ち着いてますし、あの大国の様子も見たいので。最近活躍と噂の魔法師にも会いたいですしね。」

「確かに、あの国は伝統ある分学ぶことは多そうだな。」

「魔法が弱い分、それ以外の事が特化してそうですしね。」

「それと、ソフィア嬢の成人に合わせて婚約を発表する。できれば1年半後の卒業に式が挙げられれば完璧だな。」


嬉しそうに語る陛下に、渋い顔のハロルドが並ぶ。


「来年からは王太子妃教育も始まるぞ。離宮で皇后様が直々にして下さるそうだ。」

「はい、頑張ります。」

それぞれの進む道、新たな生活が始まっていく。
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