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2.魔法学院2年生

(42).国王陛下の誕生祭

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 国王陛下の誕生祭。この祭は3日間に渡って開催される。国外のお客様を待つ、という意味で始めの2日は市民向けの祭となっている。
 広場には屋台や露店が並び、子どもから大人まで楽しめるイベントが続く。そして、最終日。王宮にて舞踏会が行われる。他国からも集まってくるため国内の夜会としては最大の規模になる。

 今回の夜会では何があるか分からないため、ブレイユのメンバーが裏で動き、近衛騎士や魔法師団員は王宮内の警備にあたる。
 ホスウェイト家のメンツには前回の教会訪問の時と同様、それぞれで連絡がとれるよう精霊がつくことになっている。
 ハロルドにはノアが、アルフレッドにはカルディナが、ソフィアにはエンギルとイソールがつく。
 途中からはランベールとソフィアは合流するので、テオドールとノアを通して、王子と陛下も連絡がとれる。


「さて、行きますか。戦場へ。」


 アルフレッドにエスコートされながら王宮へ向かう。
今回ソフィアはランベールのパートナーとして参加するため、王族と同時に入場となる。
貴族たちが名前を呼ばれ、入場し終わるまでの間待合室での待機となる。
 ランベールは先に到着しているハズなので待合室へと向かった。


「失礼します。」


アルフレッドがノックし、2人で中に入ると、しっかりと正装に着飾ったランベールと国王陛下、皇后がいた。


「大切なご令嬢を託してくれたこと、礼を言うぞ。」

「会えるのを楽しみにしてたのよ。」


国王夫妻にはアルフレッドが対応する。


「国王陛下お誕生日おめでとうございます。特別な日ですので許可が出ましたが、正式な形ではございませんのでホスウェイト家の1人娘として尊重して頂けるとありがたく思います。」

「勿論、本日のみです。学院卒業までは自由にさせてやって下さい。」


護衛についていたハロルドまで陛下に対して強気でソフィアは少し焦る。


「陛下、お誕生日おめでとうございます。今日が良き日になりますよう祈っております。」

「うむ。今の所満足しておるぞ。2人が並ぶ姿を楽しませて貰う。」


にっこりと笑う陛下はランベールとよく似ていた。


「ラン、今日1日任せたぞ。」「おう。」 


 (今日はいちだんとキレイだ。)

ランベールは陛下と話しているソフィアをじっくりと見た。自分のプレゼントしたドレスをまとい、普段はおろしている髪をしっかりまとめ上げている。
 花模様を複雑に模した髪飾りで髪を留め、パールのイヤリングとネックレスをつけた肌は透き通るような白さで輝いている。
 自分の欲で色味は選んでしまったのだが、このドレスにアメジストを贈れなかったことだけが悔やまれた。


(いつか、正式な時にはアメジストのピアスを付けてもらおう。)

婚約者となった時にはしっかりと自分の色を身につけて貰いたい。現時点で独占欲が出てしまうのは、それだけ強い想いなのだと理解して貰いたい。


「今日はありがとう。よく、似合っている。1日よろしくね。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ドレス、ありがとうございました。…緊張しますね。」

「エンギルは一緒じゃないの?」


側で聞いていたアルフレッドが得意げに答える。


「イヤーカフ改良版ソフィアバージョン。精霊たちの姿を隠す機能を追加したんだ。エンギルとイソールはいつも通り肩にいるんだけど、分からないだろう?」


ニヤッと笑うアルフレッドの胸ポケットにはカルディナが顔を出している。


「ドレス姿にフクロウだとさすがにまずいかなーと思って。しっかり機能しているみたいで嬉しいよ。」


イヤーカフを外すと、エンギルと手を振るイソールの姿が見えた。


「なるほどねー。僕もそのイヤーカフ欲しいな。」

「いや、君のテオはいつでも見えないからな。陰の中だろう?」


「そうなんだけどさ、付けたらお揃いになるし?」

「そんな目的じゃ、作ってやらん。」


いつもの2人のやり取りに笑ってしまう。
アルフレッドは先に会場入りするためひと足先に部屋を出る。
 入れ違うようにしてジルベールが入室し、陛下に挨拶している。カルレイの皇女のエスコートをするため先に会場入りするようだ。


「今日は頼んだぞ。どんな皇女なのか、しっかりと調べてきてくれ。」

「はい。注視しておきます。父上も誕生祭楽しまれますよう。」


チラッとこちらを向いたが、そのまま会場へと向かっていった。何も起きないと良いな…


「私たちは壇上から見ることしか出来ぬ。ジルにも任せているが、ランベールも気をつけてやってくれ。」

「はい、分かりました。」



主役の陛下は最後の入場なので、ソフィアとランベールはひと足先に会場へ向かう。


「表情が硬いなぁ。緊張してる?」

「だいぶ…」

もともと夜会自体あまり得意な方ではない。ランベールの隣なら尚更である。


「心配しないで。噂はだいぶ軽減されてるから、今日敵視してくるご令嬢はだいぶ絞られてる。警備にも伝えてあるし、僕もフィー1人にしないようにするから。」


優しく語りかけてきたランベールは、ソフィアの頭をポンっと撫でる。


「頼りなくは見えるかもだけど、一応皇太子なんでね。使える力は使うし、味方も多い。歳下なんだし、もっと甘えてくれたらいい。」


そう言いながらソフィアの手を取り、自分の腕に引き寄せるとエスコートの形をとり歩き始めた。


「今はお兄さん的な感じかもしれないけど、今日は1人の男として隣にいさせてね。」


(フィー以外は考えられない。彼女が過ごしやすくなるように動き回ってきたつもりだ。外堀を埋めるにはあの父兄が厳し過ぎるけど、他に譲る気もないからね。今日はアピールさせて貰うよ。)


ゆっくりと歩き、扉の前へつくと名前が呼ばれた。


「第一王子ランベール様、ホスウェイト家長女ソフィア様。」


ランベールの腕を頼りにソフィアは会場へと歩き出す。


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