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1.魔法学院1年生

(18).怪しい気配

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 新学期が始まりソフィアも寮に戻ってきた。

 久しぶりに談話室でジェシカと話していると、気落ちした様子のアンナとイネスがやってくる。 


「アンナどうしたの?」 


 みんなで心配していると、涙目のアンナが口を開いた。 


「リュカが冷たくて…別人みたい。」 


 泣きながら話すアンナを、落ち着かせながら聞き出した所によると、新学期に入ってからリュカと話すことが出来ず、昨日やっと捕まえたのに、ろくに話もできず突き放されたらしい。 

(家に来た時は二人共仲良く戯れてたのに…) 

 休暇最終日、アンナ達と約束してたのもあり、みんなでソフィア宅にお泊まり会になったのだ。

 リュカとランディも参加して、父ハロルドと交流出来たことに喜んでいたのを思い出す。 


「学院に戻ってから、何かあったのかな?」 

 ジェシカやイネスも一緒にお泊まりしたので、リュカ達の様子は知っている。 

「何か情報がないか、調べてみるね。」 

 情報通のジェシカの心強い言葉に、アンナも少し元気を貰ったようだ。



 翌日、実技の授業で訓練場に出るとソフィアの腕時計が淡く光り、周りに薄く結界が広がる。
 何事かと焦るも、肩にいた精霊達が素早く反応してくれた。 

「イネス達も近くに呼んで。」 

 カルディナの言葉に従って、仲良し3人を近くに呼び寄せる。
 結界の中にいると、周りに広がる怪しい影が見えた。

「「「「あれ、何?」」」」 
「あれ、精神作用の魔法。邪悪なヤツ。」 
「魔力量は少ないから誰もに影響ある訳じゃないけど、避けるのが安全ね。」 

 エンギル達の言葉にみんな顔を顰める。 

(空気の浄化が必要…) 

 カルディナと目を合わせ、そっとイヤーカフを外す。
ソフィアの浄化魔法を風の力で広げてもらう。
 エンギルには目隠し魔法を重ねがけしてもらい、周りには見えないようにした。
しばらくして怪しい光が消えた所で、ソフィアの腕時計の結界も切れた。 


「何だったんだろね、ほんと。」 
「ソフィー、ありがとね。」 


 しばらく放心状態だった4人は我にかえる。
周りのみんなは気づいてないようで、デニス先生が来たことで普通に授業は始まった。 

(授業中は何もなかったな。) 

 安心していると、カルディナがノアに知らせたようで、寮にいたハズのノアがやってきた。 


「痕跡は残ってないね。一応ハロルドやアルフレッドに知らせとくよ。」 
 

 パッと飛び立つと姿を消した。
ノアは1人だと転移も出来るので、ノアスフォード領には、頻繁に連絡係として行き来するようになった。
父兄と仲良くなって何よりである。


 それからというもの、度々授業前に怪しい影を見かけるようになった。
 エンギルの活躍でソフィアの魔法だとは気づかれないので、最近では大胆に教室内全体に浄化魔法をかけるようになっている。

 授業の終わりが近づいていた時、ふとソフィアの目の前に小さな妖精が現れた。
手紙のような紙切れを落とし、こちらを向いてニコッと笑うと去っていく。
 
 手紙を広げると、(院長室で待つ アルフレッド) とある。

 授業終わりと同時にジェシカ達にことわって、院長室に向かう。 


「失礼します。」 

 ノックをすると、温かい笑顔のエリクが迎えてくれた。後ろのソファーには兄とランベールも一緒である。 

「面と向かって話すのは初めてじゃの、学院長のエリクじゃ。ソフィア嬢、まずはかけてくれ。」 

 エリクに促され、兄達の対面でエリクの横に腰かける。 何故かこの場所でも執事テオドールがお茶出しをしていた。出張執事?学院長も公認なのだろうか… 

「彼とはお茶仲間になったんじゃよ。」 

 ソフィアの視線に気づいたエリクが笑いながら言う。 

「彼らが来たのはついさっきなんだが、王宮で働く執事が護衛ということに驚いた所じゃ。入れてくれたお茶が格別でね。」 

 のほほんとした空気に包まれる。
 ソフィアもお茶を口にして、ひと息ついたところでエリクが話しだした。 


「最近、学内でキレイな浄化魔法を感じてね。誰なのか気になっていたんだ。先ほどお兄さんから聞いたよ。光魔法も使えるんだね?」 

 急な問いかけに戸惑うが、学院長相手に隠す必要もないので頷く。 

「周りのものに気づかれないようにさりげなく、ひっそりと。とても感謝していたんだ。先生方でも気づかない人が多いんだが、デニス教授から授業前には行使されていたと報告が上がっていた。」 

「多分隠したかったんだよな?勝手にバラしてごめん。でもこの場所で話をするには伝えた方が良かったから。」 

 こちらの反応を伺う兄に苦笑いになる。 


「大丈夫ですよ、兄様。構いません。」 
「なら、良かった。」 

 ニコッと笑うソフィアに安心したアルフレッドはランベールを見る。 


「学院長やアルから状況は聞いた。学院内でよくないものが入り込むなどあってはらならない。幸い、他の学生達が気づいてないし被害も出てないと聞く。ソフィアちゃん、ちょっと協力してくれないかい?困ったらここに逃げてくればいい。僕達もすぐ集まるようにするから。」 

「ラン、分かりにくい。僕らが表立って動くと目立つから、学生達も不安になると思うんだ。ソフィーに協力してもらって、学内のことを教えて欲しい。学院長も協力してくれるけど、聞く所、向こうは先生方に見つからないように動いてるんだろう?」 

 納得したソフィアは腕時計が光った時、それ以外で浄化魔法をかけた時の状況を詳しく伝えていく。 




「なるほど、教授が来る前で新入生の合同科目の時間ばかりじゃな。」 

 エリクの言葉に、ソフィアも考えるとそうだな、と納得する。 

「でも、誰がと言うのは全く。気づいたらもう広がってる状態で、どこからっていうのは分からないんです。」 

「何か魔法具みたいなものだろうか?」 

「でも、そう何回も使える魔法具なんてあるか?ソフィアが気づいただけでも10は超えるぞ?」 

「姿を隠して入り込んでいる可能性もあるじゃろ。結界を張ることも考えねばな。」 


 男性陣の会話が続く中、ふとソフィアはイソールの会話を思い出した。 


(光の精霊なら何かしら気づいて魔法を使っているかも?) 


「あの、聖女候補の方のお力は借りれないのですか?」 

 王子に尋ねると、ランベールは苦い顔をして応える。 

「彼女には何回か会っているんだが、なんというか、あまり聞く耳を持っていなくてね。」 

 どことなく濁らし気味の言葉に首を傾げていると、 

「彼女は、ランベールの婚約者になりたくて仕方ないんだ。今回のことにも全く気づいていない。浄化魔法も掛けれるか曖昧な魔力量だしね。」 

アルフレッドの言葉に、なるほど、と思う。 


「彼女にわざわざ知らせる必要はないかと思ってな。幸いアルからソフィアちゃんの様子も聞いてたし、学院長と相談して少人数の方が良いかな、って。」 

「うむ。もう少し様子を見てみよう。ソフィア嬢、周りを客観的に見てみるのじゃ。冷静に対応している君なら何か気づくことがあるかもしれん。デニス教授には協力してもらえるよう話をしておこう。」 

「分かりました。」 

「無理はしないように。何かあればノアに伝えて。」 


 優しい兄の言葉に心が落ち着く。
 正体が分からないのは不安だが、味方がいるというのは心強いなと感じた。    
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