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1.魔法学院1年生

(16).悪役登場?

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 水鏡を眺めていた男は驚いていた。

 本来の【コンダルク】ではヒロイン、サラを中心に話が進む。
 今回、番人ノアの契約は創造主の意表をつく形となった。これから話がどう展開していくのか、予想できないところが面白い。


(そろそろこっちのヤツらも動き出してもらおうかな。)

 創造主が手をつけ始めたことで、物語の状況も複雑化していきそうである。



 魔法師団の執務室にて、ハロルドは思案していた。
ノアスフォード領で頻繁に報告されていた怪しい人影と謎の魔法の痕跡が、王都でも見つかるようになったのである。


(国内での反乱分子は今のところ聞かない。そうなると他国になるが、この国を狙う目的はなんだろう?)

 近年、周辺諸国との和睦も進み、今の陛下の治世になってから国内情勢も落ち着いている。
 何かしらヒントがあれば対策の取りようがあるものの、共通点すらなく、足取りが掴めない。

(何事もなければ良いが…)



 その頃、休暇中のソフィアはノア達を連れて森へと向かっていた。
 兄アルフレッドがマルクに呼ばれ、ティータイムの予定がなくなってしまったのである。


(珍しくあわててたな。)

 兄らしくない姿だった…と思いながら歩いていると、人影が見える。

 茶髪にシャツとスラックス姿の男性。

 使用人にしては見た事がないし、来客があるとも聞いていないけれど。
 この屋敷に不審者が入ることはないだろうし、男性の整った顔立ちには、どこかで見たことあるような既視感を感じた。


「こんにちは、君がソフィア嬢かい?」
「はい。あなたは?」

「警戒しないで、君のお兄さんの友人さ。散歩しながら待ってたんだけどすれ違ったかな?」

(噂通りキレイだな。肩に精霊達もいる。報告よりも多いな…アルフレッドに見つかる前に会えて良かった。ゆっくり話が出来そうだ。)


 彼は執事に玄関で待つように言われていたが、素直に待つ気もなかったので散歩に出た。
 休暇中ならその辺に出てるかも、と歩き回っていたのが正解だった。


「研究所の方ですか?」
「そうだねえ。学院には慣れたかい?」


 曖昧な答えではあるが、見た目から歳は近そうなので、兄の友人なのは間違いないと思う。


「はい。友人と楽しく過ごしてました。」
「そうか。肩の子達もお友達かい?可愛いね。」


 ノア達が褒められて嬉しかったソフィアは、いっきに彼に親近感が湧いた。


「どこに向かうところなの?」
「この奥に森があるんです。いつもこの子と遊んでた場所で。」

「へえー。一緒に行ってもいいかい?」
「どうぞ。」



(きっとどこにいてもアルは見つけるだろう。)

 ソフィアが歩き出すと、ノアが先に飛び立っていく。兄の友人はキョロキョロと周りを見渡しながら後ろをついてくる。

(空気が澄んでる。魔力の流れも良くなってるようだし…ここはすごい。)




「で、何してんの?」


 大木の影から、肩にノアを乗せた兄が現れた。ビクッとしたご友人は兄と目を合わせず固まっている。


「兄様、ノアと一緒だったんですね。」
「ソフィー、知らない人間と一緒は危ないだろう?森まで来てるとは…ノアが教えてくれなかったら気づかなかったよ。」
「ごめんなさい。ご友人だって聞いたので」


 少し怒った様子の兄に怯えつつも、手を伸ばしてノアを受け取る。ソフィアはふわふわのノアに頬を寄せて、癒された所で顔を上げた。


「悪いのはこいつなんだけどな。変装までして紛らわしい。」


 首根っこを掴んで逃げられないようにした所で、変身解除の魔法をかける。
 茶髪は鮮やかな金髪になり、きちんと整えられた服になった。


「この髪色気に入ってたのに」


 ちょっぴり拗ねながら話すのは、第1王子ランベールだった。


(えっ。)

 驚き過ぎてソフィアは固まってしまった。


「来るなら先触れくらいしてくれよ。いったい何しに来たんだ。」
「ん?お忍び探検?」
「…ラン…」

 ギラっとした目でアルフレッドが睨むと、さすがにランベールもマズイと感じたようでしょんぼりする。


「ソフィアちゃんに会ってみたかったんだよ。アルが全然紹介してくんないから、内緒で来てみた。」

 テヘッと笑う姿は王子だから許されるのだろうな、と呆れるアルフレッドだった。


(キレイな金髪だなー。)
 2人の会話を聞きながら、ソフィアはのんびり第1王子を観察するのであった。




 みんなで屋敷に戻り、エマ達にお茶の準備をしてもらう。お忍びとはいえ、第1王子の訪問に使用人達は緊張しているようだ。

「改めて、妹のソフィアだ。ソフィー、分かってると思うけど、変装してたこの男が第1王子ランベールだ。」
「はじめまして。ソフィアです。」
「さっきはごめんね、ランベールです。ランって呼んでもいいよ?」

 ベシッ。素早くアルフレッドの手が王子の頭に飛んだ。

「調子にのるな」
「痛いよ、アルー。」


(なんか、思いのほか、ゆるい人なのかも)

 兄達2人の軽いやりとりに、ソフィアの緊張もほぐれてきた。



「んで、何が目的なの?」

 真面目な表情のアルフレッドにつられて、ランベールも真顔になる。


「聖女候補の様子見だよ。ソフィアちゃんも精霊召喚したんでしょ?確認ついでに会いたいなあと思って。」


(マズいな。まだ魔法具は出来上がってないし、ラン相手に隠すのは難しいぞ。)

(小さいままなら大丈夫かな?)

 兄と妹は目を合わせて会話をする。
バレたらその時ってことで、


「風の精霊カルディナと闇の精霊エンギルです。」


 ソフィアの言葉に合わせて2人はお辞儀をする。妖精とフクロウの姿のままである。


「そっちの子は?」
「私の昔からの友達、ノアです。」
「その子は精霊ではないんだね?お仲間かな??」


 ランベールの影から黒いものが伸びてきて、人型をとる。執事のような服装で、キリッとした表情の男性が眼鏡ごしにソフィア達にお辞儀した。


「護衛のテオドールだよ。彼は番人の1人で、僕が正しい道を進めるように見張っているんだけど…彼は鑑定眼の持ち主で、相手の情報を見抜くことが得意なんだ。ソフィアちゃんは精霊王達を召喚したんでしょ?」


 ニコニコと笑う王子の後ろに何かが見える。
 まるで嘘は許さないと言われているような、圧を感じた。3人目の番人の登場に驚いたのはソフィアだけでなく兄もノアも同じで、言葉が出ず固まっている。
 テオドールと目が合ってしまったソフィアは、じっと見つめる彼の視線に耐えることが出来ず、


「はい。」


と答えたのだった。
 





 
  

 
 


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