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1.魔法学院1年生

(13).サラの思惑

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 サラは小さな村の平民出だ。

 父親はわからず、酒場で働く母のもと育ってきた。母の職場から賄いとして食べ物があったため飢えてはいなかったが、1人親としての収入は多くなく、寒さに凍える日々もあった。

 魔力があると分かったのは偶々である。
 酒場に出入りしていた貴族の使用人から魔力があれば学院に入れると聞き、子どもの魔力を調べに街に役人が来る日を心待ちにしていた。
 街中の子ども達が集められた中で魔力が1番だと分かった時は安堵した。
 男爵家からお金が渡される事も聞き、母が1人でも困ることはないのだと理解した。
 けれど、男爵家へと向かう馬車に乗り、母に見送られた時は涙が止まらなかった。


 パーヴァス男爵家の人達は優しい。
 子どもがいなかった夫人はサラのことを可愛がってくれる。サラ自身の問題なのだ。
 この家に来て良かったと思う反面、頑張らなくちゃとプレッシャーを感じてしまう。

 学院に入り、寮で1人だけの時間になった時、気負いが不安に変わった。
 入学式の日、自分だけというのはみんな同じハズなのに、周りが輝いて見えた。

 貴族のご令嬢の中に紛れ込んだ、サラ。

 まるでキレイな色の中に混ざっていく黒色のようで、自分が汚い存在に思えていた。




 王子との対話を済ませ、教室から出てきたサラは落ち着かなかった。
 国の保護、王子の婚約者、自分には程遠いと思っていた出来事が、目の前に見えてきている。


 ルーシェと契約できて嬉しかった。
 デニス先生にも褒められ、周りのみんなにも注目されて心地よかった。
 その後、貴族のご令嬢が注目を集めたことで、自分の手柄を横取りされたような悔しさに近い感情が芽生えた。それでも光の精霊との契約は自分だけだ。


(この場所は取られたくない。王子の婚約者になりたい。)
 
 ランベールはキラキラしていた。
 サラに対して優しく、笑顔を向けてくれた。
 この人の婚約者になれたら、お姫様のように守って包んでくれるのだろうか…と想像してしまうくらいに、サラの心に張り付いた。

 1人の少女が恋をし、強く、醜くなる瞬間だった。



 光の精霊と契約すると、魔法での治癒や浄化が期待される。教会に光魔法の使い手が多いのは、必要とされる場所だからというのもある。国の保護の元、教会で指南を受けるうちに神官になったという者もいる。
 サラは教会を訪ねてみたいと先生に相談した。学院での授業に支障のない程度にすることを約束し、予定を立ててもらった。


 教会を訪ねる日、王子が一緒に来てくれないかなと期待したが、多忙なようで、今回はサラと教会の孤児院出身で光魔法に詳しい歴史の先生ルイーズとの訪問となった。

 初めて訪れる教会。
白く神聖な建物の中に一歩足を踏み入れた時、サラ自身も清められた気分になった。

 対面したのはカミユという若い男性神官だった。
 礼拝堂に案内され、女神像の前でお祈りするよう促される。ルイーズを真似て一緒に女神に向かう。


 その様子を、光の精霊王イソールは見つめていた。
ソフィアの前では他の精霊王達に配慮して少女姿だったが、女神像の姿がイソールの本来の姿に近い。
 サラの精霊ルーシェを通して様子を見てきた彼女はサラの姿にソフィアを重ねてしまっていた。


(ここに来たのがソフィアだったら…なんでクジは外れなのよ。)

 精霊王達の間ではイソールは1番幼く、立場も弱い。
クジだったらと期待して臨んだのが悪かった。 
 自分と同じ立場の幼いエンギルが当たりだったのも要因で、契約を勝ち取れなかったショックを引きずっていた。
 
 この日も、学院の子と契約が結べないかとサラを見定めにきたのである。あわよくば、ソフィアと友達になれないかと。


(心はキレイだけど、魔力の量は低いわね。私じゃ負担になるだろうから、ルーシェを育てるしかないわ。)

 軽く祝福を送り、自分の配下のルーシェにエールを送る。



 神官カミユに光の精霊王イソールへの教えを説かれ、光魔法の使い方のノウハウを聞いたサラは疲れきっていた。  
 慣れない場所というのもあるが、カミユやルイーズ先生の話を聞くうちに、信仰心がないとこの場にいてはいけないような気がしてしまい、気後れするようになってしまっていた。
 帰りの馬車では、側にいるルーシェを抱きしめて励まされていた。




 学院の長期休暇が近づいていた。
 入学からしばらくは寮にいた生徒も多くが帰省する。
 
 慣れない学院生活に休憩を、と定められたこの休暇では親元に戻り心を整えることと共に、友人宅を訪ねて家同士の交流を図る事も推奨されている。
 ソフィアは兄と共にしばらく休暇を過ごし、その後アンナ達と約束したように友人達を家に招くことにしている。

 魔法師団に憧れている2人を悲しませないように、父ハロルドに約束を取り付けるのが今回の最大のミッションである。それ以外にもカルディナからティーパーティーの催促も受けている。


 休暇前の挨拶に、と精霊達を連れて中庭を訪れる。
 今日はジルベールは遅れてくるようで、レオが待っていた。
 先に昼食をとりノア達と戯れていると、声が聞こえてきた。


「待って下さい、ジルベール様。せめて、お約束だけでも。休暇中、どの日でも構いません。お会い頂けませんか?」
「…断る…」

 冷たくあしらうジルベールに、負けじと令嬢が話しかけている。


(あれは、いつだか囲まれた時のご令嬢のメアリー様だ。ジルベール様と言っていた…)

 見ちゃいけないものを見たようで気まずい。目眩しの魔法をかけていて良かった。




 人目がないのを確認して、ジルベールが上がってくる。

「聞こえた、よな?」
 
 気まずそうにしている様子でソフィアが見ていたことを確信している。

「ジル先輩、王子様だったんですね…今まで申し訳ありませんでした。」

 隠し通せないことを悟り、ジルベールは苦悩する。

「ジルでいい。今までと同じで構わない。」
「でも…。」
「俺は今のままがいい。休暇が終わってもレオとここにいるから…今日は戻る。」

 レオを呼び、足早に戻っていく。



「レオのご主人、王子様だったのね。」

カルディナの言葉にソフィアは頷く。

 去っていく時に見せた寂しそうな、悔しそうな表情が忘れられない。休暇前なのにこんな別れ方になるなんて想像してなかった。


「でも、隠してた訳じゃないんじゃ?自分は王子ですって普通言わないよ。」
「ジルはジル。」


 ノアやエンギルの言葉にソフィアは納得する。
 王子様でも彼は彼だ。
 婚約者が出来たらその時離れれば良い。
 自分はただの友人としていよう。

 次会うときにはそう伝えたい、と思うソフィアだった。



 
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