13 / 86
1.魔法学院1年生
(12).聖女候補の確認
しおりを挟む
セウブ王国では光の精霊を伴う人物は数少なく、保護対象となる。過去の聖女も国で保護され、当時の王子の婚約者とされた。
彼女は傷ついた人々を癒し、乾いた土地を潤し、国の繁栄を導いたとされ、国民からも敬われていた。
今年光の精霊を召喚した者がいると報告を受け、第1王子ランベールは学院へ来ていた。
国での保護は決定事項ではあるが、その人物の特徴や人間性を確認するため事前に面会が必要とされている。
婚約者候補ともなり得るのだから、彼自身も自分の目で確認したいと思っていた。
今日は研究所での会議のためアルフレッドは参加出来ず、代わりにソフィアによろしく伝えてくれと頼まれている。
彼女が呼ばれた訳ではないので会えるかは分からないのだが、話題に出すあたり、やはり妹バカなのだと笑ってしまう。
「ランベール様、こちらです。」
待ち合わせの場所まで誘導してくれたのは、幼い頃からの護衛レイモンドだ。
剣の指南も受けており、王城内では常に彼が護衛に立つ。歳があまり離れていないことから、こっそり兄のように思っている。
部屋に入ると、実技担当のデニスと少女が並んで待っていた。
「殿下、お越し頂きありがとうございます。こちらが今回光の精霊を呼び出した、サラ・ド・パーヴァスです。」
デニスに促され、サラが挨拶する。
「パーヴァス男爵家のサラと申します。お会いできて光栄です。」
辿々しい話し方と慣れてない様子から、平民出身というのは本当のようだ。
「初めまして。第1王子のランベールです。早速だけど、光の精霊を呼んで貰えるかな?」
なるべく優しいおっとりした声色で、相手を怯えさせないように話しかける。
「分かりました。」
召喚魔法を使い、光の精霊を呼び出したサラは小さな妖精を手の上に載せていた。
「光の精霊のルーシェです。まだお喋りは出来ないですけど、こちらが話しかけている事は分かるみたいです。」
「なるほど。可愛いね。サラは何か光魔法は試してみた?」
「試してみてはいますが、魔力の多い方ではないので要領を掴むまで時間がかかると思われます。」
恐縮した様子のサラの代わりにデニスが応える。
「分かった。教会の方にも声をかけておくよ。光魔法の使い手は多いに越した事はないからね。もし彼女の時間がとれるなら、教会に行ってみるのもいいかもしれない。」
いくつか話した後、デニスがサラに声をかけ教室に戻るように伝える。
「先生、他にも何か報告が?」
「はい。殿下はホスウェイト家のアルフレッド様と親しくされてましたよね?妹のソフィア嬢とは面識はありますか?」
「いや、見た事があるくらいだな。アルから話は聞いてるけど、直接会った事はまだないんだ。彼女が何か?」
「いえ、既にご存知ならと思い確認しました。ソフィア嬢は魔力も多く、魔法の扱いに長けています。光ではなく残念でしたが、今回の召喚では風と闇の二精霊を呼び、とても優秀です。」
(無詠唱で基本属性の四種とも魔法が使え、精霊達は人型をとり、話も出来てます。って言ったらハロルドさんに怒られそうだよな…)
王子への報告と先輩への忠誠を天秤にかけながら、義務として必要な情報に絞り伝える。
デニスはハロルドへ先に報告し、事実確認が済むまでなるべく王家には秘匿して欲しいと頼まれていた。デニスにとって尊敬する先輩からの頼みは断りようがない。
「なるほど。ソフィア嬢とも話してみたいな。デニス教授、報告ありがとう。」
(家としての交流があれば、すぐに分かりそうなものだが。王子との交流も、兄としては妹優先なのかな。)
王子への報告を済ませ、デニスも教室へと戻る。
「レイモンド、どう思う?」
1人になったランベールは思案していた。
「光の精霊は確かに貴重ですが、あの娘はまだまだ未熟かと。この学院でどこまで伸びるかお待ちになっては。」
「待つね…ソフィア嬢が気になるな。アルに会えるよう頼んでみようかな。」
「アルフレッド様が協力して下さるでしょうか?」
レイモンドが苦笑しながら応える。
普段王子の側で仕事をするアルフレッドのことをレイモンドも学院時代から知っている。
王子が気楽に話せる相手として貴重な人材なのではあるが、同時に妹を溺愛していることも知っている。
「王子としてはダメだろうね。友人としてお家訪問なら許してくれないかな。」
笑って話すランベールは部屋の外に目を向けた。
「こんにちは、ジル先輩、レオ」
学院の中庭でソフィアはいつもの2人に会っていた。
ちょくちょく共に休憩するようになって、お互いに名乗り、暗黙の了解で木の上の定位置で会うようになっている。
目眩しの魔法は重ねがけしている為、ソフィア以上の魔力の持ち主が来ない限り安全なのだ。
「それ、ノアじゃないフクロウ?」
ソフィアの肩の黒フクロウにジルベールが気づく。
「そうなんです。この間召喚の授業で仲間が出来まして。この子も一緒ですよ。」
ノアの上に翠緑髪の小さな妖精がのっている。カルディナは最近妖精姿がお気に入りなのだ。彼女のフクロウ姿も見たかったが、断られた。誰かの上に乗れるというのが利点らしい。ノアやエンギルが嫌がらないのならと自由にさせている。
「風の精霊カルディナと闇の精霊エンギルです。」
カルディナがエンギルの上に移り、共にジルベール達に礼をする。一緒にいたレオは精霊王達に気付いたのだろう。腰低く礼を返している。
ジルベールに気づかれないかヒヤヒヤしたが、王とは分かっていないようだ。仲良くしているようで精霊達同士で話がついたのだと分かる。
「2人共召喚とは凄いな。」
ジルベールは意外と鳥好きなようで目がノアとエンギルを追っている。
「魔力だけはありますので。」
少し自信げに返してくるソフィアにジルベールは笑う。
「ここも上手く隠してくれよ。昼寝には丁度いいんだ。」
木の上の空間で共に昼食を済ませ、ソフィアが精霊達と遊んだり、のんびりしている間、ジルベールは休息をとる。
毎日ではないが、ノアやレオの姿が見えた時はジェシカ達と別に昼食をとっている。寮でノアのことも紹介したので、今のところ特に怪しまれずいる。
森のような居心地の良さがソフィアには安心できるのだった。
彼女は傷ついた人々を癒し、乾いた土地を潤し、国の繁栄を導いたとされ、国民からも敬われていた。
今年光の精霊を召喚した者がいると報告を受け、第1王子ランベールは学院へ来ていた。
国での保護は決定事項ではあるが、その人物の特徴や人間性を確認するため事前に面会が必要とされている。
婚約者候補ともなり得るのだから、彼自身も自分の目で確認したいと思っていた。
今日は研究所での会議のためアルフレッドは参加出来ず、代わりにソフィアによろしく伝えてくれと頼まれている。
彼女が呼ばれた訳ではないので会えるかは分からないのだが、話題に出すあたり、やはり妹バカなのだと笑ってしまう。
「ランベール様、こちらです。」
待ち合わせの場所まで誘導してくれたのは、幼い頃からの護衛レイモンドだ。
剣の指南も受けており、王城内では常に彼が護衛に立つ。歳があまり離れていないことから、こっそり兄のように思っている。
部屋に入ると、実技担当のデニスと少女が並んで待っていた。
「殿下、お越し頂きありがとうございます。こちらが今回光の精霊を呼び出した、サラ・ド・パーヴァスです。」
デニスに促され、サラが挨拶する。
「パーヴァス男爵家のサラと申します。お会いできて光栄です。」
辿々しい話し方と慣れてない様子から、平民出身というのは本当のようだ。
「初めまして。第1王子のランベールです。早速だけど、光の精霊を呼んで貰えるかな?」
なるべく優しいおっとりした声色で、相手を怯えさせないように話しかける。
「分かりました。」
召喚魔法を使い、光の精霊を呼び出したサラは小さな妖精を手の上に載せていた。
「光の精霊のルーシェです。まだお喋りは出来ないですけど、こちらが話しかけている事は分かるみたいです。」
「なるほど。可愛いね。サラは何か光魔法は試してみた?」
「試してみてはいますが、魔力の多い方ではないので要領を掴むまで時間がかかると思われます。」
恐縮した様子のサラの代わりにデニスが応える。
「分かった。教会の方にも声をかけておくよ。光魔法の使い手は多いに越した事はないからね。もし彼女の時間がとれるなら、教会に行ってみるのもいいかもしれない。」
いくつか話した後、デニスがサラに声をかけ教室に戻るように伝える。
「先生、他にも何か報告が?」
「はい。殿下はホスウェイト家のアルフレッド様と親しくされてましたよね?妹のソフィア嬢とは面識はありますか?」
「いや、見た事があるくらいだな。アルから話は聞いてるけど、直接会った事はまだないんだ。彼女が何か?」
「いえ、既にご存知ならと思い確認しました。ソフィア嬢は魔力も多く、魔法の扱いに長けています。光ではなく残念でしたが、今回の召喚では風と闇の二精霊を呼び、とても優秀です。」
(無詠唱で基本属性の四種とも魔法が使え、精霊達は人型をとり、話も出来てます。って言ったらハロルドさんに怒られそうだよな…)
王子への報告と先輩への忠誠を天秤にかけながら、義務として必要な情報に絞り伝える。
デニスはハロルドへ先に報告し、事実確認が済むまでなるべく王家には秘匿して欲しいと頼まれていた。デニスにとって尊敬する先輩からの頼みは断りようがない。
「なるほど。ソフィア嬢とも話してみたいな。デニス教授、報告ありがとう。」
(家としての交流があれば、すぐに分かりそうなものだが。王子との交流も、兄としては妹優先なのかな。)
王子への報告を済ませ、デニスも教室へと戻る。
「レイモンド、どう思う?」
1人になったランベールは思案していた。
「光の精霊は確かに貴重ですが、あの娘はまだまだ未熟かと。この学院でどこまで伸びるかお待ちになっては。」
「待つね…ソフィア嬢が気になるな。アルに会えるよう頼んでみようかな。」
「アルフレッド様が協力して下さるでしょうか?」
レイモンドが苦笑しながら応える。
普段王子の側で仕事をするアルフレッドのことをレイモンドも学院時代から知っている。
王子が気楽に話せる相手として貴重な人材なのではあるが、同時に妹を溺愛していることも知っている。
「王子としてはダメだろうね。友人としてお家訪問なら許してくれないかな。」
笑って話すランベールは部屋の外に目を向けた。
「こんにちは、ジル先輩、レオ」
学院の中庭でソフィアはいつもの2人に会っていた。
ちょくちょく共に休憩するようになって、お互いに名乗り、暗黙の了解で木の上の定位置で会うようになっている。
目眩しの魔法は重ねがけしている為、ソフィア以上の魔力の持ち主が来ない限り安全なのだ。
「それ、ノアじゃないフクロウ?」
ソフィアの肩の黒フクロウにジルベールが気づく。
「そうなんです。この間召喚の授業で仲間が出来まして。この子も一緒ですよ。」
ノアの上に翠緑髪の小さな妖精がのっている。カルディナは最近妖精姿がお気に入りなのだ。彼女のフクロウ姿も見たかったが、断られた。誰かの上に乗れるというのが利点らしい。ノアやエンギルが嫌がらないのならと自由にさせている。
「風の精霊カルディナと闇の精霊エンギルです。」
カルディナがエンギルの上に移り、共にジルベール達に礼をする。一緒にいたレオは精霊王達に気付いたのだろう。腰低く礼を返している。
ジルベールに気づかれないかヒヤヒヤしたが、王とは分かっていないようだ。仲良くしているようで精霊達同士で話がついたのだと分かる。
「2人共召喚とは凄いな。」
ジルベールは意外と鳥好きなようで目がノアとエンギルを追っている。
「魔力だけはありますので。」
少し自信げに返してくるソフィアにジルベールは笑う。
「ここも上手く隠してくれよ。昼寝には丁度いいんだ。」
木の上の空間で共に昼食を済ませ、ソフィアが精霊達と遊んだり、のんびりしている間、ジルベールは休息をとる。
毎日ではないが、ノアやレオの姿が見えた時はジェシカ達と別に昼食をとっている。寮でノアのことも紹介したので、今のところ特に怪しまれずいる。
森のような居心地の良さがソフィアには安心できるのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる