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1.魔法学院1年生
(6).魔法学院入学式
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講堂へと向かうと同じ制服がずらりと並ぶ。後ろには保護者と思われる大人の姿があり、ソフィアの目の前には各分野で名を馳せる教授の姿があった。
現学長エリク・ド・バークレイ氏も魔法研究所で名を馳せた人物である。兄の大先輩にあたる人で、学院時代の恩師だと聞いている。
視線を横にずらしていくと、金髪と銀髪の容姿端麗な青年が2人。兄の友人でこの国の皇太子殿下、第1王子ランベール・ド・セウブとその側近である兄の姿である。来賓として来ている2人は圧倒的な存在感を見せていた。
学長の挨拶として、エリクが壇上に進む。きっと学院に入る者で彼の名を知らない者はいないだろう。
魔法研究所を設立し、魔法石の研究や魔法陣の解析を進めてきた彼は、書籍としてまとめた研究が全世界へと伝わっている。研究所を退いてからは、若手の育成の為、長年に渡りこの学院で教鞭をとっていたと聞く。
「新入生の皆、学院へようこそ。ここへ立つと皆の顔がよく見える。家元を離れ早速不安な者もおるじゃろう。ワクワクして眠れなかった者も、中には多いかもしれぬな。この学院では、魔法を学ぶという点で同じ立場じゃ。魔法の歴史、可能性、楽しみ方、なんでも良い。多くのことを見て、聞いて、知ることで世界が広がる。純粋に心から魔法を楽しんで欲しいと願っておる。そして、大切な友を見つけて欲しい。学院で培った友情は、その先の人生でもきっと多くのことを助けてくれるはずじゃ。悩んだ時は、寮の窓から湖を眺めると良い。キレイな景色が心を潤してくれるだろう。皆、このフィンシェイズを大いに楽しんでゆくのじゃぞ。」
ソフィアは片言も逃さず、学長の言葉を聞いていた。
朝感じていた不安も和らぎ、学院生活への期待で前向きな気持ちになっていた。
1人じゃない、誰かと一緒に学べる、というのはソフィアにとってノアとの遊びが始めてだった。あの楽しい感覚を思い出し、まずは友達を作ろうと決意するのだった。
式典が進み、国の代表としてランベールが登壇した。
「まずは新入生のみんな、入学おめでとう。私もこの学院の卒業生だ。このフィンシェイズ魔法学院では身分に拘らず、大切な仲間と切磋琢磨し合い、個々の技術を伸ばすためにしっかりと学んで欲しい。学生として学べるのはこの3年間のみとなる。でも、この3年が、その後の未来にはなくてはならない時間だった、と感じる日がきっとみなにくるだろう。将来、魔法を生かして研究するのもよし、国を守る組織に入るのもよし、家庭を築き故郷を守るのもよしだ。誰1人として同じ未来ではない。限りある学院生活を充分に楽しんで、自分の進むべき道を1人1人見つけて欲しい。」
力強い王子の言葉に新入生の瞳に輝きが増す。
話を聞きながら兄とアイコンタクトをとっていたソフィアは、わずかに口元を緩めていた。
「アル、顔がこわばってるぞ。」
壇上から戻ったランベールは隣の男に声をかける。
「うちの妹に悪い虫が…仮面が取れるのは良い事なんだが、周りの気付きが予想以上に早い。」
周囲に悟られないように取り繕いつつも、冷気を飛ばし始めたアルフレッドにランベールは呆れ顔だ。
「君の妹で、貴族として身分も高い。あれだけキレイに育ったんだ、周りがほっておくわけがないだろう?学院内なら不安も少ない。自由にさせてやれよ。」
そんな会話が飛び交っているとは知らず、2人の青年へ向かう、周りの女の子達の視線は熱い。どちらにも、学院にいる第2王子にも、まだ決まった婚約者はいない。そろそろと話は出ているものの、焦ることはない!と、ランベール自ら話を逸らし続けている為である。
社交パーティー内でも身分高き令嬢は水面下での闘いを繰り広げている。学院内とて例外ではないのであろう。
同じ貴族令嬢でもソフィアのように我関せず、と全く気にしてない娘もいるのだが…。
保護者席の中には、ソフィアとアルフレッドの父ハロルドがいた。魔法師団の仕事を抜けるのは稀なのだが、団長の密かな親心を知っている同僚達に、半ば追い出されるようにして出てきた。
会場内に見える息子と娘の姿に感慨深いものを感じていた。妻がいなくなってから数年、親として見せた姿はきっと良いものではないであろう。
マルクやエマが入るまでの我が家は、きっと子ども達にとっては辛いものだったに違いない。それでも、真っ直ぐに、元気に成長してくれて2人には感謝すら感じている。
この場にいない妻に対して、恨むことはないが、子ども達を自慢してやりたい気持ちはある。この子達は君がいなくてもこんなに立派になっているのだと、そんな姿が見れなくて残念だったな、と笑ってやりたい。
遠くにいる妻クロエは、微かな悪寒を感じた。
従者のイアンと目が合うと、何でもないと笑いかけ、書類に向かう。
イアンを見つめながら、ちょうど大きくなった娘はこれくらいかなぁと考えるのだった。
子ども達の元を離れて10年以上経つ。
会いたい気持ちがない訳ではないが、年々帰り辛さを感じ始め、ますます足が遠のいていくのであった。
入学式の間暇を持て余していたノアは、学院内を飛び回っていた。
フクロウは通信用のものもいて、学内に多く飛んでいるので幸いノアが悪目立ちすることはない。
(学長室と中庭のイチイの木の場所が空気が澄んでるな。ソフィアが気に入りそう。)
学内での避難場所を探している辺り、父兄に負けずノアもソフィアには過保護である。
イチイの木にはたまに先客がいる。王子という点を除けば、ノアは彼が嫌いではない。
鳥好きな所もソフィアと気が合いそうだし、何より餌が美味い。
一緒にいる蒼鷲もノアが普通のフクロウではないことに気づいているので接しやすく、賢いなと思う。何よりソフィアが気に入りそうな見た目である。
(いつか会うことになりそうだな。)
そんな予感を感じるノアだった。
現学長エリク・ド・バークレイ氏も魔法研究所で名を馳せた人物である。兄の大先輩にあたる人で、学院時代の恩師だと聞いている。
視線を横にずらしていくと、金髪と銀髪の容姿端麗な青年が2人。兄の友人でこの国の皇太子殿下、第1王子ランベール・ド・セウブとその側近である兄の姿である。来賓として来ている2人は圧倒的な存在感を見せていた。
学長の挨拶として、エリクが壇上に進む。きっと学院に入る者で彼の名を知らない者はいないだろう。
魔法研究所を設立し、魔法石の研究や魔法陣の解析を進めてきた彼は、書籍としてまとめた研究が全世界へと伝わっている。研究所を退いてからは、若手の育成の為、長年に渡りこの学院で教鞭をとっていたと聞く。
「新入生の皆、学院へようこそ。ここへ立つと皆の顔がよく見える。家元を離れ早速不安な者もおるじゃろう。ワクワクして眠れなかった者も、中には多いかもしれぬな。この学院では、魔法を学ぶという点で同じ立場じゃ。魔法の歴史、可能性、楽しみ方、なんでも良い。多くのことを見て、聞いて、知ることで世界が広がる。純粋に心から魔法を楽しんで欲しいと願っておる。そして、大切な友を見つけて欲しい。学院で培った友情は、その先の人生でもきっと多くのことを助けてくれるはずじゃ。悩んだ時は、寮の窓から湖を眺めると良い。キレイな景色が心を潤してくれるだろう。皆、このフィンシェイズを大いに楽しんでゆくのじゃぞ。」
ソフィアは片言も逃さず、学長の言葉を聞いていた。
朝感じていた不安も和らぎ、学院生活への期待で前向きな気持ちになっていた。
1人じゃない、誰かと一緒に学べる、というのはソフィアにとってノアとの遊びが始めてだった。あの楽しい感覚を思い出し、まずは友達を作ろうと決意するのだった。
式典が進み、国の代表としてランベールが登壇した。
「まずは新入生のみんな、入学おめでとう。私もこの学院の卒業生だ。このフィンシェイズ魔法学院では身分に拘らず、大切な仲間と切磋琢磨し合い、個々の技術を伸ばすためにしっかりと学んで欲しい。学生として学べるのはこの3年間のみとなる。でも、この3年が、その後の未来にはなくてはならない時間だった、と感じる日がきっとみなにくるだろう。将来、魔法を生かして研究するのもよし、国を守る組織に入るのもよし、家庭を築き故郷を守るのもよしだ。誰1人として同じ未来ではない。限りある学院生活を充分に楽しんで、自分の進むべき道を1人1人見つけて欲しい。」
力強い王子の言葉に新入生の瞳に輝きが増す。
話を聞きながら兄とアイコンタクトをとっていたソフィアは、わずかに口元を緩めていた。
「アル、顔がこわばってるぞ。」
壇上から戻ったランベールは隣の男に声をかける。
「うちの妹に悪い虫が…仮面が取れるのは良い事なんだが、周りの気付きが予想以上に早い。」
周囲に悟られないように取り繕いつつも、冷気を飛ばし始めたアルフレッドにランベールは呆れ顔だ。
「君の妹で、貴族として身分も高い。あれだけキレイに育ったんだ、周りがほっておくわけがないだろう?学院内なら不安も少ない。自由にさせてやれよ。」
そんな会話が飛び交っているとは知らず、2人の青年へ向かう、周りの女の子達の視線は熱い。どちらにも、学院にいる第2王子にも、まだ決まった婚約者はいない。そろそろと話は出ているものの、焦ることはない!と、ランベール自ら話を逸らし続けている為である。
社交パーティー内でも身分高き令嬢は水面下での闘いを繰り広げている。学院内とて例外ではないのであろう。
同じ貴族令嬢でもソフィアのように我関せず、と全く気にしてない娘もいるのだが…。
保護者席の中には、ソフィアとアルフレッドの父ハロルドがいた。魔法師団の仕事を抜けるのは稀なのだが、団長の密かな親心を知っている同僚達に、半ば追い出されるようにして出てきた。
会場内に見える息子と娘の姿に感慨深いものを感じていた。妻がいなくなってから数年、親として見せた姿はきっと良いものではないであろう。
マルクやエマが入るまでの我が家は、きっと子ども達にとっては辛いものだったに違いない。それでも、真っ直ぐに、元気に成長してくれて2人には感謝すら感じている。
この場にいない妻に対して、恨むことはないが、子ども達を自慢してやりたい気持ちはある。この子達は君がいなくてもこんなに立派になっているのだと、そんな姿が見れなくて残念だったな、と笑ってやりたい。
遠くにいる妻クロエは、微かな悪寒を感じた。
従者のイアンと目が合うと、何でもないと笑いかけ、書類に向かう。
イアンを見つめながら、ちょうど大きくなった娘はこれくらいかなぁと考えるのだった。
子ども達の元を離れて10年以上経つ。
会いたい気持ちがない訳ではないが、年々帰り辛さを感じ始め、ますます足が遠のいていくのであった。
入学式の間暇を持て余していたノアは、学院内を飛び回っていた。
フクロウは通信用のものもいて、学内に多く飛んでいるので幸いノアが悪目立ちすることはない。
(学長室と中庭のイチイの木の場所が空気が澄んでるな。ソフィアが気に入りそう。)
学内での避難場所を探している辺り、父兄に負けずノアもソフィアには過保護である。
イチイの木にはたまに先客がいる。王子という点を除けば、ノアは彼が嫌いではない。
鳥好きな所もソフィアと気が合いそうだし、何より餌が美味い。
一緒にいる蒼鷲もノアが普通のフクロウではないことに気づいているので接しやすく、賢いなと思う。何よりソフィアが気に入りそうな見た目である。
(いつか会うことになりそうだな。)
そんな予感を感じるノアだった。
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