双剣魔眼の剣術学院クロニクル~剣は一本だと物足りない、双剣を手にした俺は無敗伝説を背負いながら、学院生活を謳歌する~

ユズキ

文字の大きさ
上 下
49 / 67
第二章 死竜の砦

第十三話「ミリカ団の情報」

しおりを挟む
 昨晩の仕事で走り回ったせいで俺は疲れていた。
 人の魔眼を何だと思ってるんだ、とブランドン先生の顔を思い浮かべ悪態をつく。 
 剣術学院から学院寮に帰宅した俺は、着替えもせずにベッドで眠っていたようだ。
 その貴重な睡眠時間をあざ笑うかのように、部屋のドアがノックされた。

「ん……誰だよ。俺にも休息の権利はあるだろう……無視だ」

 睡眠は一時的に邪魔されたが、どうせ寮生の誰かだろうと無視して布団を頭から被った。
 しかしノックは止まない。
 それどころか、拳を叩きつけるような激しい音に変化する。

「あー! うるさいって!」

 仕方なくベッドから起き上がり、ドアに近づいていく。

「俺だ。開けてくれるかい」

 今一番聞きたくない声を聞いて、俺は渋々ドアを解錠しノブをひねった。
 そこにいたのは、声の主ブランドン先生の他に寮生が二人。
 両隣の部屋の二年生と三年生の少年だった。
 あまりに激しいノックの音だったので何事かと思い、部屋から出てきたらしい。
 二年生の少年がブランドン先生に尋ねる。

「先生、どうしたんですか? わざわざ学院寮まで訪ねて来られるなんて。何かあったんですか?」

 まだ十三歳の少年だ。
 不思議そうにブランドン先生を見上げて首を傾げている。

「ああ、大きな音を立ててすまないね。きみたちの先輩である五年生アルバート・サビアくんが、忘れ物をしたのでわざわざ届けに来たんだよ」
「そうなんですね。わかりましたー」
「アル兄ちゃん、忘れ物だって。もう、しっかりしろよなー」

 二人の少年は頷くと、それぞれの部屋に戻っていった。
 そして、にこやかに手を振って少年たちを見送っていたブランドン先生の表情が真顔になり、視線だけを俺に向けた。

「部屋に入れてくれるかな。きみに頼まれていた件、調べてきたよ」
「本当か!? 仕事が早くて助かる」
「取りあえず、中で話そう」

 有無を言わせない勢いで俺を部屋の中へと押し戻しながら、ブランドン先生は後ろ手でドアを閉めた。
 ブランドン先生は壁に目をやると、目を細めて訊いてきた。

「ここでの会話、隣に筒抜けじゃないだろうね? 俺が学院寮に住んでた頃は、それはもう薄い壁だったからさ」

 学院寮は年季の入った建物だ。
 俺はベッド脇の壁をちょっと強めにノックする。
 それほど間を置かずに、壁の向こうから声がした。

「アル兄ちゃん、何ー?」

 さっきの三年生の声だ。
 俺は心持ち大きな声で返答する。

「ごめん、何でもないぞー。ちょっと足伸ばしたら当たっただけだから気にするなー」
「うんー、わかったー」

 俺は視線を壁からブランドン先生に戻すと、口調を変えて言う。

「ブランドン先生が住んでた頃と変わってないみたいだな。でも、大きな声を出さなければ大丈夫だろ。それで、何かわかったのか?」

 ブランドン先生は、困ったような顔でうなずいた。

「授業が終わってから声をかけようと思っていたのに、きみは俺に目もくれずにそそくさと帰ってしまうんだからまいったよ」
「……悪かったな。昨晩、誰かさんにこき使われたおかげで、眠くて仕方がなかったんだ。だから、みんなとの話し合いもできなかったんだぞ。それで、情報は?」
「まさか、闇ギルドを調べてくれなんて言われると思わなかったよ。まず左目の下に傷のある男だけど、こいつはミリカ団の一員だね。入って五年ほどだが一応幹部らしい」
「そいつ、剣術学院の卒業生か?」
「……よくわかったね。ひょっとして知り合いかい?」
「いや、何となくそう思っただけだ」
「そうかい。続けるよ、名はトラヴィス・ミリカ」
「ミリカ?」
「団長のジム・ミリカの息子だね」

 トラヴィス・ミリカ二十三歳。
 団長ジム・ミリカの七男で、ミリカ団の幹部。
 六人の兄は他の闇ギルドとの抗争で全員亡くなっている。
 ウルズ剣術学院死竜クラスの卒業生だ。
 剣術はグラナート流の初級。

「団長の息子か。もう一人は?」
「そっちは幹部でも団長のジムに次ぐ副団長という地位だね。リチャード・フィークス」

 リチャード・フィークス四十三歳。
 この男もウルズ剣術学院の出身で、死竜クラスだったようだ。
 ただし四年で中退している。
 その後、冒険者になったが三年で廃業し、様々な職を転々とする。
 金に困って食い詰めていたところをミリカ団のボス、ジムに拾われた。

 リチャードは持ち前の腕っ節からメキメキ頭角を現わし、ジムの右腕にまで成り上がった。
 ちなみに剣術の腕前はグラナート流の中級。
 しかし、これは二十年以上前の冒険者だった頃の話なので、いまは当てにならない。

「最後に一つ、母親は違うが、ジェラルドもジムの末の息子だよ。ジェラルドは母方の家名を名乗っているようだけどね」
「ジェラルドが……!? じゃあ、腹違いの兄と会ってたってことか?」
「目撃情報が確かなら、そうなるね。兄弟が会うことは別におかしなことじゃない。単に仲良く話していただけかもしれないよ」
「…………ちょっと整理させてくれ」

 死竜の砦の一階には様々な店がある。
 その店で売られている商品の仕入れ先は、すべてこのウルズ剣術学院の卒業生でいずれも死竜クラス出身者だ。
 そして、ジェラルドが密会していた相手は、腹違いの兄であるトラヴィス。
 そのトラヴィスはミリカ団の団長ジムの息子で、ジェラルドもそうだという。

「集めた情報では少なすぎる。これでは、ジェラルドの目的はわからない」
「死竜の砦内部の構造はどこまでわかったんだい?」
「そっちは全然だ。職人は足がつかないように他の町から集めたらしい。設計図は複数存在しているということしか……」

 明日にでもみんなの持っている情報をまとめる必要があるな。

「まさか、ミリカ団に忍び込もうなんて考えていないよね?」
「ロイドにも同じこと言われたよ。いくら俺でもそんな無茶はしないさ」

 俺が欲しいのはジェラルドが何を企んでいるのかと、死竜の砦二階以上の内部構造の情報だ。
 ミリカ団の屋敷にその答えがあると確定じゃない以上、忍び込むメリットはない。
 仮に俺がミリカ団の屋敷で大立ち回りを演じても勝つ自信はあるが、他の闇ギルドや警察、軍に目を付けられるといったデメリットが大きすぎる。

「それを聞いて安心したよ」
「……というと?」
「そんなこと教師として許可できるわけないからね。きみは大丈夫でも、彼らの報復は尋常じゃないよ。きみは仲間全員を守りきることができるかい? 下手をすれば殺される。一応、念のため忠告しておくよ」

 そうだな、狙われるのは俺だけじゃない。
 ミリカ団に近づくのは、やめておいたほうがいいだろう。

「ところで、エドガーの様子はどうだい? ダリア先生も心配していたよ」
「ああ、今日も食堂ですれ違ったけど変化はない。学院長への話はどうなってる?」
「……ふむ。エドガーに変化はなかったかい? 今朝の段階で、学院長からエドガーのほうに死竜の砦の話はされているはずなんだけどね」
「そうか。昼に見た時は、エドガーはいつもどおりだったな。やっぱり、そう簡単にはいかないか」

 ブランドン先生が帰った後、俺は今後の動きをまとめるために机に向かった。
 さて、明日からどうするか……。
 平穏を望む俺に、どうも周りはそっとしといてくれないようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

エテルノ・レガーメ

りくあ
ファンタジー
主人公の少年“ルカ”は森の中で目覚め、心優しい青年に拾われてギルドに入る事に。記憶を無くした彼が、ギルドの仲間達と共に平穏な生活を送っていた。 ある日突然現れた1人の吸血鬼との出会いが、彼の人生を大きく変化させていく。 ■注意■ ・残酷な描写をしている場面や、血を連想させる言い回しをしている部分が若干含まれています。 ・登場人物イメージ絵は、作者自ら簡単に描いています。若干ネタバレを含んでいるので、ご注意下さい。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...