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032 最終確認

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「ヒナ、ちょっと訊きたいんだけど。あのドワーフとあのまま戦っていたら勝てたのか?」
「うん……どうかしら? レベルは私のほうが上だと思うけれど、向こうは戦い慣れしていたように思うわ。正直、どっちが勝ってもおかしくなかったと思うけれど」

 ヒナにそう言わしめたドワーフ。俺なんかじゃ逆立ちしたって勝てそうもない。

「ヒナちゃん、レベルはいくつなんだ?」
「私はレベル50よ」
「カンストか」

 シマンはヒナのレベルを聞いても、さほど驚かなかった。

「その装備見たら納得って感じだな。相手の山賊も花シリーズで固めてたし、なによりPKしてるだけあって対人戦に慣れてる動きだったな。ありゃあ、俺でも厳しいわ」

 シマンでもキツいのか。

「レベル差って絶対じゃないんだな」

 俺のつぶやきにシマンが反応する。

「アバターの動きってのはプレイヤーの身体能力も反映されるみたいなんだな、これが」
「えっ……? それって、どういう……?」
「仮に現実世界で武術の達人とズブの素人が、この<DO>内で全く同じステータスという条件で戦った場合、間違いなく武術の達人が勝つ。まぁ、さすがにレベル1の達人とレベル50の素人なら、ステータスの差で素人が勝つけどよ」
「タイガくん、一度その場でバック宙してみてくれる?」
「えっ!? なんで急に……というかできないよ。そもそもやったことがないし」
「いいから、ヒナちゃんの言うとおりやってみろって」

 シマンは腕を組んでニタニタ笑っている。
 なんだよ二人して……。
 どうせ、無様に地面に落ちたところで痛みはない。
 俺は意味もわからないまま、言われたとおりにすることにした。

「というか、こんな鎧着たまま無理に決まって――」

 俺はジャンプして空中で回転し、見事に着地を決めた。

「お、お、おおおおおおおっ! 何これ、何これ! 俺、バック宙できたんだけどっ!」
「現実世界で運動音痴だったとしても、レベルを上げてステータスを上げれば身体能力は向上するんだ。だから、現実ではできなかった動きも可能になる。俺ぐらいになれば、体操選手ばりに空中三回転ひねりみたいなことも可能なんだぜ」
「マジか! それは凄いな!」

 俺はヒナに目をやった。そしてヒナがオリンピックの体操選手のように華麗な空中回転を決める姿を思い浮かべた。

「どうしたの?」

 ヒナが不審がって首を傾げた。

「いや、ヒナならもっと凄いジャンプができるのかなって思ってさ。というか見てみたいなぁって」
「うん、それは俺も気になるな。獣人の俺がジャンプしたところでむさ苦しいだけだが、エルフのヒナちゃんならきっと可憐なんだろうなー」

 シマンも同意してきた。
 ただ、少しばかり鼻の穴を膨らませているのが気になった。

「しかも、ヒナの鎧って重そうじゃん。その鎧着て本当にジャンプできるのか、俺も気になってきたし」

 見た目から判断すると、絶対無理だ。でも<DO>では可能と言うならば、見てみたい。

「えっ……。嫌よ、だって宙返りなんかしたら……そのスカートが……」
「あ……!」

 俺はそこまで言われてやっと気づいた。【精霊の鎧】のデザインだ。ヒナの上半身は重厚な鎧で覆われているが、下半身の装甲は厚くない。むしろ太ももなんかはほぼ露出していた。スカートも見えているし、空中で回転しようものならあられもない姿を晒すことになる。

「ご、ごめん! そこまで気が回らなかった」
「いいわよ、もう」

 ヒナはそれほど怒った風ではなかった。
 横目でシマンを見ると凄く悔しそうな顔をしていたので、こいつは確信犯だなと思った。



 しばらく森を進むと、事前の情報どおり山賊の根城とおぼしき小屋を見つけた。
 小屋の周りには人影はない。
 俺たちは小屋が見える位置に陣取って、木の陰に身を隠した。

「本当にあったんだな……!」
「ええ、そうね。おそらくあれで間違いないわ」
「よし、それなら踏み込む前に最終確認すっか。ヒナちゃんとタイガの詳細ステータスは今どんな感じなんだ?」

 シマンがお互いのステータスを確認しておこうと提案したので、それぞれメニュー画面から詳細ステータスを呼び出して見せ合うことにした。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 タイガ
 人間
 レベル:35
 職業: 重戦士
 職業レベル:110
 HP(生命力):3,852
 MP(魔力):434
 SP(技力):184
 STR(筋力):262
 VIT(体力):109
 INT(知力):83
 MND(精神力):35
 DEX(器用度):105
 AGI(敏捷度):70
 LUK(幸運度):106


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「俺はレベル35だな。メインジョブに【重戦士】、サブに【騎士】【薬師】【狩人】【狂戦士】だ。装備はヒナに借りた【菫の剣+2】と【鋼の鎧】、あとアクセが【自制心の指輪】【守りの指輪】【中和の指輪】だな」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ヒナ
 エルフ
 レベル:50
 職業: 精霊騎士
 職業レベル:157
 HP(生命力):6,930
 MP(魔力):950
 SP(技力):375
 STR(筋力):350
 VIT(体力):138
 INT(知力):120
 MND(精神力):56
 DEX(器用度):150
 AGI(敏捷度):109
 LUK(幸運度):150


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「私はメインジョブは【精霊騎士】でサブが【聖騎士】【竜騎士】【狩人】よ」
「マジか!? クラス3ジョブが三つも!」

 【聖騎士】【竜騎士】はクラス3のジョブらしい。

「装備は【精霊の剣】【精霊の鎧】【タリスマン】【癒やしの指輪】【抵抗の指輪】にしているわ」
「おおお! 【タリスマン】をドロップしたのか……! レベルカンストしているだけあって、相当やり込んでるなぁ。俺も百戦以上したけど、ドロップしなくて諦めたぜ」
「そうなのね。【タリスマン】は私の場合どうしても入手しておきたかったから、何日も通ったわ」

 シマンとヒナの会話についていけない勉強不足の俺だった。
 【タリスマン】はドロップ品で、魔法攻撃力に+500の補正とMPの最大値が+50になるアクセサリだ。ちなみに、シマンは持っていないらしい。しかし、物理攻撃特化のシマンにはあまり需要がないのだそうだ。

 【抵抗の指輪】は混乱、睡眠、毒に対する抵抗力アップという破格の性能だ。なんたって、【自制心の指輪】【目覚めの指輪】【中和の指輪】三つのアクセの効果が一つになっているのだから。
 現在、最前線周辺の町で普通に売られているそうだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 シマン
 獣人
 レベル:42
 職業: 侍
 職業レベル:155
 HP(生命力):6,433
 MP(魔力):413
 SP(技力):265
 STR(筋力):350
 VIT(体力):152
 INT(知力):66
 MND(精神力):41
 DEX(器用度):126
 AGI(敏捷度):96
 LUK(幸運度):126


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 STRはヒナと同じ350もある。HPもヒナに迫りそうだ。俺もレベル35になって強くなったと思っていたが、まだまだこの二人には追いつけそうにない。

「俺はこんな感じだ。メインに【侍】、サブに【忍者】【拳闘士】【鍛冶師】【密偵】。全部クラス2ジョブにしてる。【侍】のレベルが今57だから、クラス3ジョブの【剣豪】まであと少しってところだ」
「装備は星シリーズだったわね」
「ああ、さっき見せた【星辰刀】と今着てる【明星の甲冑】、アクセは【自制心の指輪】【目覚めの指輪】【短縮の宝石】だ」

 【目覚めの指輪】は睡眠に対する抵抗力アップ、【短縮の宝石】はスキル発動後の硬直時間を一秒短縮できる効果があるそうだ。
 やはりスキルが強力になるほど、硬直時間は長くなる傾向にあるらしい。たった一秒でも接戦時には大きな差になるようだ。

「ジョブや装備の変更はするのか? 俺は武器だけ【無銘】から【星辰刀】に変更するぜ。正直、《ウェポンブレイク》は恐いが、装備するとしないじゃ攻撃力がダンチだからな」

 【星辰刀】の攻撃力補正は+500。これは現在の店売り最強の剣である【真銀の剣】に匹敵する。

「私はこのままでいくわ。慣れているジョブや装備じゃないと不安なの」
「わかるわー。俺も一生【侍】系しか考えられないしな。タイガは?」

 ヒナとシマンが俺のほうを見た。

「俺は……」

 当初から考えていたとおり、俺は【狂戦士】というジョブに大きな期待を寄せていた。
 さっきの山賊戦でも思ったが、やはり俺のレベルでは厳しい戦いになるだろう。ならば、少しでも攻撃力を上げて戦いたい。それが諸刃の剣だったとしても。

 環のバフはチート級に強力だったが、【狂戦士】の《底力》も負けていないはずだ。
 HP管理は難しいが、今の俺が山賊相手に効果的なダメージを重ねるにはどうしても《底力》が必要になってくる。

「俺はジョブを【狂戦士】に変更しようと思う」
「……やっぱり、そうするのね」
「タイガ、おまえが決めたことに口出しはしないが、ジョブの入れ替えには――」
「これだろ?」

 俺はアイテムストレージから【職石】を取り出して、シマンに見せた。

「へっ、【職石】まで用意してたってことは、ハナからそのつもりだったな?」

 シマンがどこか楽しそうに微笑む。

「ああ、俺も活躍してみたくなった。ヒナに庇ってもらうばかりじゃ、情けないからな」
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