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【選ばれし者】功績
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目の前でシスンが《ドラゴニックモード》発動した。
俺が【勇者】になる前【竜騎士】のときに取得したスキルだが、ただの一度も使ったことはない。
今まで習得したスキルの中で、俺が唯一、禁忌としたスキル。
《ドラゴニックモード》。
過去に殺したドラゴンの力をその身に宿す。
習得したはいいが、どうも謎に包まれたスキルで得体が知れない。
なにしろ、国中の【竜騎士】にも習得した者がいなかったからだ。
さすがの俺も試すことに躊躇した。
それから情報を求め、あらゆる過去の文献を読みあさった。
そして王都の王族だけが許される歴史書に目を通したとき、その答えはあった。
過去に存在したとされる【竜騎士】の末路だ。
三百年前、王族の【竜騎士】が《ドラゴニックモード》なるスキルを習得し使用した。
その結果、【竜騎士】は莫大な力を手にすると同時に、ドラゴンへと変貌を遂げた。
一時は王都が陥落しかけたほどの、破壊の限りを尽くしたそうだ。
歴史書によると、世界各地に存在するドラゴンは【竜騎士】のなれの果てとも記されてあった。
全部が全部そうではないだろうが、ドラゴンの中には元々人間やエルフ、ドワーフだった者がいるということらしい。
その事実を知ったとき、俺は《ドラゴニックモード》を禁忌とし、二度と使うまいと決めた。
「これが……《ドラゴニックモード》によるドラゴン化か」
目の前のシスンは、もはや人間の容姿ではない。
巨大なドラゴンではないが、全身の皮膚は鱗に覆われている。
顔などはもはや人間のそれを保ってはいない。
完全にドラゴンの頭だ。
顎を突き出し、口元からは獰猛な牙を覗かせている。
二本の足で立ってはいるが、これはドラゴンといって差し支えないだろう。
両手の指からは鋭い爪が伸びていた。
「シスン! ねぇ、どうしちゃったのよっ!」
仲間の声を無視して、ドラゴンと化したシスンは一歩前へ踏み出した。
「ドラゴン化じゃと……!? お主、これを知っておったのか!」
今はこいつらに邪魔をさせるわけにはいかない。
シスンの力はあのモンスターを弱体化させるために必要だ。
俺が勝利を勝ち取るために、利用させてもらう。
どうしても俺がアレを倒したという事実が必要だからだ。
後方には我がシヴァール王国の軍を率いるマルス将軍がいる。
やつは兄上、第一王子派だからな。
軍を動かさずに静観しているのにも、何か思惑があるのだろう。
構うものか。
そこで、高見の見物をしているがいい。
マルス将軍は俺を監視するために、アルスとカルスという二人の息子を俺の傍へ置いた。
おそらく兄上の指示もあったのだろうが、そのアルスたちも今や俺に心酔しきって懐柔されていることには気づいていないだろう。
俺はこの戦いに勝利して、後継者争いを優位に進めるつもりだ。
各国やマルス将軍の前で決定的な事実を突きつけてな。
「邪魔だ!」
俺は目障りな女どもを蹴散らした。
シスンの仲間といえど、こいつに比べれば力の差は歴然だ。
所詮、俺の敵ではない。
だが、その後ろからやって来た女は二人を助け起こすと、俺に非難の目を向けた。
「ウェイン王子、シスンさんはどうなるのです? もちろん、解除する方法あるのでしょうね?」
「マリー、何を言うかと思えばそんなことか」
「そんなこと?」
「いや、すまない。安心しろ、方法はある」
元に戻す方法など歴史書には記載されていなかった。
つまり、シスンはもう人間に戻ることはない。
だが、今のシスンの力は俺の手に余る。
あのモンスターをできるだけ弱らせてから死んでもらうのが都合がいい。
「信じていいんですね? ですが、いくらなんでもこんな手は」
「シスンが望んだのだ。満身創痍の体で戦うには、これしか手段がない。シスン自らが決断したことだ」
「……アレを倒すためだけとは思えませんが。ひょっとして、後方に控えているマルス将軍にも関係があるのでしょうか?」
マリーめ、たかがギルド職員がどこまで知っている。
ギルド長のグレンデルにでも聞いたのか。
あいつはどの派閥にも属さない中立派だが、俺の考えには賛同していなかったからな。
「ふん、グレンデルにでも聞いたか? おまえも、そう易々とギルド職員に戻れると思うなよ?」
「……それは脅しでしょうか?」
反抗的な目だ。
グレンデルといい、マリーといい、どうもエルフは気にくわない。
「エルフごときが、俺に口を聞くなと言っている」
「……ようやく本心が出ましたか。あなたは人間以外の種族に排他的ですが、何を考えているのです」
「あまり俺を怒らせるな。しかし今ので次の指針を決めた。魔族を根絶やしにしたあとは、エルフだ。この世界からエルフを排除する」
「なっ……!」
マリーは怒りからか表情を一変させるが、その間に割って入ったのはシスンだった。
「グルルルルルルルルルルルルッ!」
こいつ、まだ自我が残っているのか?
いや、そんなはずはない。
もはやシスンは人間を辞めたのだ。
身も心も失って、ドラゴンに成り果てたはずだ。
「シスン!」
「主様!」
やはり、仲間の言葉にも反応しない。
では、これならどうだ?
「来い、シスン!」
俺はありったけの殺気をシスンに放つ。
シスンは体を震わせて鼻息を荒くした。
殺気は伝わるか。
俺はそれを確認すると、モンスターに向けて駆け出した。
予想どおり、シスンは追ってくる。
このままではモンスターに辿り着くまでに、俺が追いつかれてしまう。
体への負担は大きいが、ここで死ぬわけにはいかない。
「《ブレイブモード》ッ!」
俺の足は爆発的に加速する。
その速度にシスンはついて来る。
アルスとカルスが上手いこと冒険者を退かせている。
すぐ目の前には一本の触手が待ち構えていた。
「それ、おまえの標的はあそこだ!」
俺はモンスターの直前で横に跳んだ。
衝撃を殺すために体を回転させ地面を転がる。
直後、シスンは走って来た勢いで触手に体当たりを敢行した。
本体まで押しつけてから、触手に噛みついた。
暴れるモンスターを両腕でしっかり掴み、触手を噛みちぎらんと牙を立てる。
なんというおぞましい光景だろうか。
まさしくモンスター同士の共食いを見ているようだ。
「これは、なんだ……!」
すぐ近くにいたゴリラスが駆けつける。
「よく聞けゴリラス。今からシスンがあのモンスターを弱らせる。そしたら、俺とおまえで同時に攻撃を仕掛ける」
「……! あれは【剣聖】なのか!? でも、おでの攻撃だとあのドラゴン……シスンも巻き添えになる!」
「構わん。どっちにしろ、ああなったシスンは元には戻らん。放っておいたら、おまえの村まで飛んでいってブレスで灼き尽くしてしまうかもしれないぞ?」
「……! おでの村を!?」
村の話を出しておけば、ゴリラスは大人しく従うだろう。
シスンに配慮して、攻撃の手を弛められたら困るからな。
凄まじい破壊音が響き、俺はそれに目をやった。
シスンが触手を噛みちぎったのだ。
その上、モンスター本体に両手を突っ込み風穴を開けていた。
さらにその穴を広げようと両手を目一杯広げようとしている。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「よくやったぞ、シスン! おまえの役目はここまでだ!」
あと一息でモンスターは沈む。
俺は剣を持つ手に力を込めた。
《ブレイブモード》の効果はまだ残っている。
今なら勝てる!
「行くぞ、ゴリラス! ありったけの力を放てえぇぇっ!」
俺は剣を振るう。
【勇者】最大のスキルで決める!
「《シャイニング》ッ!」
俺の《シャイニング》と同時に放たれたゴリラスの拳は、モンスターの巨体を震わせた。
モンスターは咆哮を上げる。
ふふっ、これで功績は俺のものだ。
皆の者見るがいい。
そして、この場に居合わせたことを幸せに思うがいい。
俺は勝利を確信した。
俺が【勇者】になる前【竜騎士】のときに取得したスキルだが、ただの一度も使ったことはない。
今まで習得したスキルの中で、俺が唯一、禁忌としたスキル。
《ドラゴニックモード》。
過去に殺したドラゴンの力をその身に宿す。
習得したはいいが、どうも謎に包まれたスキルで得体が知れない。
なにしろ、国中の【竜騎士】にも習得した者がいなかったからだ。
さすがの俺も試すことに躊躇した。
それから情報を求め、あらゆる過去の文献を読みあさった。
そして王都の王族だけが許される歴史書に目を通したとき、その答えはあった。
過去に存在したとされる【竜騎士】の末路だ。
三百年前、王族の【竜騎士】が《ドラゴニックモード》なるスキルを習得し使用した。
その結果、【竜騎士】は莫大な力を手にすると同時に、ドラゴンへと変貌を遂げた。
一時は王都が陥落しかけたほどの、破壊の限りを尽くしたそうだ。
歴史書によると、世界各地に存在するドラゴンは【竜騎士】のなれの果てとも記されてあった。
全部が全部そうではないだろうが、ドラゴンの中には元々人間やエルフ、ドワーフだった者がいるということらしい。
その事実を知ったとき、俺は《ドラゴニックモード》を禁忌とし、二度と使うまいと決めた。
「これが……《ドラゴニックモード》によるドラゴン化か」
目の前のシスンは、もはや人間の容姿ではない。
巨大なドラゴンではないが、全身の皮膚は鱗に覆われている。
顔などはもはや人間のそれを保ってはいない。
完全にドラゴンの頭だ。
顎を突き出し、口元からは獰猛な牙を覗かせている。
二本の足で立ってはいるが、これはドラゴンといって差し支えないだろう。
両手の指からは鋭い爪が伸びていた。
「シスン! ねぇ、どうしちゃったのよっ!」
仲間の声を無視して、ドラゴンと化したシスンは一歩前へ踏み出した。
「ドラゴン化じゃと……!? お主、これを知っておったのか!」
今はこいつらに邪魔をさせるわけにはいかない。
シスンの力はあのモンスターを弱体化させるために必要だ。
俺が勝利を勝ち取るために、利用させてもらう。
どうしても俺がアレを倒したという事実が必要だからだ。
後方には我がシヴァール王国の軍を率いるマルス将軍がいる。
やつは兄上、第一王子派だからな。
軍を動かさずに静観しているのにも、何か思惑があるのだろう。
構うものか。
そこで、高見の見物をしているがいい。
マルス将軍は俺を監視するために、アルスとカルスという二人の息子を俺の傍へ置いた。
おそらく兄上の指示もあったのだろうが、そのアルスたちも今や俺に心酔しきって懐柔されていることには気づいていないだろう。
俺はこの戦いに勝利して、後継者争いを優位に進めるつもりだ。
各国やマルス将軍の前で決定的な事実を突きつけてな。
「邪魔だ!」
俺は目障りな女どもを蹴散らした。
シスンの仲間といえど、こいつに比べれば力の差は歴然だ。
所詮、俺の敵ではない。
だが、その後ろからやって来た女は二人を助け起こすと、俺に非難の目を向けた。
「ウェイン王子、シスンさんはどうなるのです? もちろん、解除する方法あるのでしょうね?」
「マリー、何を言うかと思えばそんなことか」
「そんなこと?」
「いや、すまない。安心しろ、方法はある」
元に戻す方法など歴史書には記載されていなかった。
つまり、シスンはもう人間に戻ることはない。
だが、今のシスンの力は俺の手に余る。
あのモンスターをできるだけ弱らせてから死んでもらうのが都合がいい。
「信じていいんですね? ですが、いくらなんでもこんな手は」
「シスンが望んだのだ。満身創痍の体で戦うには、これしか手段がない。シスン自らが決断したことだ」
「……アレを倒すためだけとは思えませんが。ひょっとして、後方に控えているマルス将軍にも関係があるのでしょうか?」
マリーめ、たかがギルド職員がどこまで知っている。
ギルド長のグレンデルにでも聞いたのか。
あいつはどの派閥にも属さない中立派だが、俺の考えには賛同していなかったからな。
「ふん、グレンデルにでも聞いたか? おまえも、そう易々とギルド職員に戻れると思うなよ?」
「……それは脅しでしょうか?」
反抗的な目だ。
グレンデルといい、マリーといい、どうもエルフは気にくわない。
「エルフごときが、俺に口を聞くなと言っている」
「……ようやく本心が出ましたか。あなたは人間以外の種族に排他的ですが、何を考えているのです」
「あまり俺を怒らせるな。しかし今ので次の指針を決めた。魔族を根絶やしにしたあとは、エルフだ。この世界からエルフを排除する」
「なっ……!」
マリーは怒りからか表情を一変させるが、その間に割って入ったのはシスンだった。
「グルルルルルルルルルルルルッ!」
こいつ、まだ自我が残っているのか?
いや、そんなはずはない。
もはやシスンは人間を辞めたのだ。
身も心も失って、ドラゴンに成り果てたはずだ。
「シスン!」
「主様!」
やはり、仲間の言葉にも反応しない。
では、これならどうだ?
「来い、シスン!」
俺はありったけの殺気をシスンに放つ。
シスンは体を震わせて鼻息を荒くした。
殺気は伝わるか。
俺はそれを確認すると、モンスターに向けて駆け出した。
予想どおり、シスンは追ってくる。
このままではモンスターに辿り着くまでに、俺が追いつかれてしまう。
体への負担は大きいが、ここで死ぬわけにはいかない。
「《ブレイブモード》ッ!」
俺の足は爆発的に加速する。
その速度にシスンはついて来る。
アルスとカルスが上手いこと冒険者を退かせている。
すぐ目の前には一本の触手が待ち構えていた。
「それ、おまえの標的はあそこだ!」
俺はモンスターの直前で横に跳んだ。
衝撃を殺すために体を回転させ地面を転がる。
直後、シスンは走って来た勢いで触手に体当たりを敢行した。
本体まで押しつけてから、触手に噛みついた。
暴れるモンスターを両腕でしっかり掴み、触手を噛みちぎらんと牙を立てる。
なんというおぞましい光景だろうか。
まさしくモンスター同士の共食いを見ているようだ。
「これは、なんだ……!」
すぐ近くにいたゴリラスが駆けつける。
「よく聞けゴリラス。今からシスンがあのモンスターを弱らせる。そしたら、俺とおまえで同時に攻撃を仕掛ける」
「……! あれは【剣聖】なのか!? でも、おでの攻撃だとあのドラゴン……シスンも巻き添えになる!」
「構わん。どっちにしろ、ああなったシスンは元には戻らん。放っておいたら、おまえの村まで飛んでいってブレスで灼き尽くしてしまうかもしれないぞ?」
「……! おでの村を!?」
村の話を出しておけば、ゴリラスは大人しく従うだろう。
シスンに配慮して、攻撃の手を弛められたら困るからな。
凄まじい破壊音が響き、俺はそれに目をやった。
シスンが触手を噛みちぎったのだ。
その上、モンスター本体に両手を突っ込み風穴を開けていた。
さらにその穴を広げようと両手を目一杯広げようとしている。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「よくやったぞ、シスン! おまえの役目はここまでだ!」
あと一息でモンスターは沈む。
俺は剣を持つ手に力を込めた。
《ブレイブモード》の効果はまだ残っている。
今なら勝てる!
「行くぞ、ゴリラス! ありったけの力を放てえぇぇっ!」
俺は剣を振るう。
【勇者】最大のスキルで決める!
「《シャイニング》ッ!」
俺の《シャイニング》と同時に放たれたゴリラスの拳は、モンスターの巨体を震わせた。
モンスターは咆哮を上げる。
ふふっ、これで功績は俺のものだ。
皆の者見るがいい。
そして、この場に居合わせたことを幸せに思うがいい。
俺は勝利を確信した。
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