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四天王二人目

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「まだ終わっていない。邪魔をするな、ゲルビョルン」
「ふん、実力差も読めないのか、未熟者が。南の街を統治していたエドマンドが抵抗派に敗れて死んだと報告が入っている。お前は知っていたか?」
「エドマンドが……? 知らん、何の話だ?」
「俺の知るところでは、抵抗派にエドマンドに勝てる者はいなかったはずだ。エドマンドを殺したのはそいつではないのか?」

 ゲルビョルンが俺に視線を叩きつけた。

 エドマンドが死んだという情報は、ゲルビョルンの耳に入っていたか。
 それを成したのが俺だと気づいたか?

「シスン、ゲルビョルンが言った話は本当か? お前がエドマンドを倒したのか?」
「さぁな、何のことだ。そんな名前初めて聞いたが」

 正直に答える必要はない。
 俺は剣を振るって、シリウスをじりじりと後方へと押しやった。

「いい加減、俺と代われ。こんなもの余興にすらならんぞ」
「まだだ、邪魔するな」

 ゲルビョルンは腕を組んで、その場に立っている。
 俺達とはまだ距離がある。

「シリウス、お前も落ちたものだな」
「……何が言いたい?」

 シリウスは苛ついたようにゲルビョルンに問い返した。
 その間も俺の剣を捌き続けている。
 俺はゲルビョルンの含みのある言葉に興味をもった。

「五十年前、魔王様と戦ったお前には当時未熟だった俺も恐怖を抱いたが、今となってはその程度か。やはりデスの力が大きかったのか?」
「俺が弱くなったと?」

 デス……八本目の触手の名前だ。
 これで確信した……間違いない。
 シリウスは再生能力持ちの六本目の触手だ。

 しかし、デスか。
 アルダンの話では強さ的には、八本の触手の中でも最強だった。
 その強さはアルダンの倍で、シリウスの四倍か。
 それが本当なら、その強さは未知数だ。

「そう言っているのがわからないのか? あの当時ならいざ知らず、今の弱体化したお前に何の興味もないわ」
「……好き放題言ってくれるな。その時の俺を見て恐怖したガキが、今や四天王を名乗るか……。俺も老いたな。しかし、黙って見ておけゲルビョルン。これは俺の戦いだ」

 あくまでもシリウスは俺との戦いを続行するようだ。
 ゲルビョルンも何も言わなかった。

 ゲルビョルンは既にシリウスに勝ち目がないことを悟っている。
 これ以上長引かせるのは危険だな。
 だが、もう少し近づかないと《星河剣聖》が届かない。

 しばらく、シリウスと剣を交えながら位置調整を図る。
 徐々に俺の作戦は進んでいた。

 あと五歩、

 四歩、

 三歩――

 というところで、ゲルビョルンが歩き出した。
 上手い具合に、シリウスの斜線上に入ってくれる。

「もう十分待った。俺と代われ、そいつは俺が殺す」
「うるさいぞ! 貴様は黙っていろ!」

 シリウスが怒鳴りながら俺の剣を受けて一歩後ろに退いた。

 ――今だ!

 今なら《星河剣聖》で二人まとめて斬れる!

 俺は力強くドラゴンブレードの柄を握りしめると、それを振り上げた。

「はあああああああああああああっ!」

 【剣聖】最強のスキル、《星河剣聖》を迷わず使う!

 俺は渾身の力を込めて、一気に振り下ろした!

「ぐはああああああっ!」
「な、何ぃぃぃっ!?」

 前者はシリウスの叫び、後者はゲルビョルンの戸惑った声だった。
 ゲルビョルンは目を見開いたが、それは一瞬のことだった。


 俺のドラゴンブレードはシリウスもろとも、ゲルビョルンをブッた斬った!


「「ゲルビョルン様!」」

 側近二人が同時に叫ぶが、俺は素早く《地走り》からの《乱れ斬り》で昏倒させる。
 気を失わせたが、大怪我はしていないはずだ。

「おおおおおおっ! ゲルビョルン様がやられた!?」
「馬鹿な! あいつは何なんだ!?」
「それよりあいつを逃がすな!」
「「「あいつを殺せぇぇぇぇぇっ!」」」

 観客席から割れんばかりの怒号が飛んだ。
 次々に観客席にいた魔族が柵を乗り越えて、なだれ込んでくる。
 その顔はどれも憎悪に満ちていた。

 やはり狙われるか。
 想定していたとはいえ、数が多すぎる!
 アーシェ達がいた辺りを見るが、もうその姿は見当たらない。

「上手く逃げてくれよ」

 そうつぶやいて、俺もこの街から脱出することにした。

 目的地は北東だ。
 アーシェ達もわかっているはずだ。
 俺はその方角を見る。
 魔族がこちらに向かって来ている。

「ん……あれは……」

 シリウスの死体から、蛇のようなモンスターが顔を出した。
 触手だった。
 なるほど……再生できないシリウスの宿主は死んだが、触手の方は生きていたか。
 一瞬追いかけようとしたが、俺が向かう方角とは逆方向に向かって地面を素早く這って遠ざかっていく。

「追いかけている時間はないか……!」

 ゲルビョルンに目をやる。
 目を見開いた状態で、仰向けに倒れている。
 胸には《星河剣聖》で斬り裂かれた傷から血が流れていた。
 地面の血だまりは徐々に広がっている。

 それを確認して俺は北東に向けて走り出した。
 迫り来る魔族を殺さないように上手くいなしながら、俺は北東に向かって走った。



 闘技場から何とか脱した俺は、街の中を疾走する。
 しばらく走ると大きな壁が立ちはだかった。

 そこには門もある。
 門番らしき魔族がいたが、闘技場でのことはまだ伝わっていない。
 俺は即座に二人の門番を気絶させ、残るひとりの首筋に剣を触れさせた。

「急いでここを開けてくれ。外に出たい」
「ななな、何だお前は!? 馬鹿な真似はしないで、つ、通行料を払え!」
「悪いが金はない。さっさとしてくれ。できれば手荒な真似はしたくない」
「無理だ! お前が張り倒してそこで伸びてるやつが、扉の開け方を知っているんだ!」
「何だって……?」

 誰でも開けられるんじゃないのか?
 魔族を放り出して、扉の開閉装置らしきレバーに近づいて行く。
 そこには見たこともない複雑奇怪な盤面があった。
 マス目があり、ところどころ窪みがある。
 以前、地下ダンジョンでエステルと見た謎解きのようだ。

「おい、これは何だ!」
「ひ、ひぃ……っ!」

 門番の魔族は答えることなく、逃げていった。
 これはまいった。
 おそらく謎解きかなんかだろう。
 エステルがいれば何とかなったかも知れないが、俺には解けそうもない。

「ぶっ潰すか……」

 俺は門を見上げてつぶやいた。
 剣を振りかぶって振り下ろす。
 キィン、金属音が耳を打った。
 しかし扉はビクともしない。

「力が足りないか」

 俺は二つ目までの鍵を開けて、力を解放する。
 本日二度目の《星河剣聖》だった。
 門を容易く斬った。

 だが、突然の目眩。
 今まで感じたことのない急激な疲労感に襲われる。

「はぁ……。はぁ……。なん……だ?」

 体にどっと疲れが押し寄せる。
 軽く頭痛もする。
 考えられるのは《星河剣聖》の連続使用による体力と魔力の消耗。
 思えば一日に二度も使ったのは初めてだった。
 とにかく、体への負担が大きいようだ。

「「「いたぞぉぉぉっ! 街から出すなぁあぁあっ!」」」

 背後からは闘技場から俺を追いかけてきたであろう魔族の声が聞こえる。

「もう追いつかれたのか……!」

 俺は力を振り絞り門をくぐると、荒野を北東に向かった。
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