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【ティアカパン】は怪しむ

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 主様と二手に分かれた妾達は、一階の入口に向かっていた。
 こやつについてきたのには理由がある。
 本当に信用できるのか見極めるためじゃ。

 主様はよく言えば純粋、悪く言えば少々鈍いところがある。
 こやつが上手いこと言って主様を利用しようと考えておるなら、妾が制裁を加えねばならない。
 その役目は妾にしかできないと考えていた。

「お主、何者じゃ?」
「何者って?」

 アルダンと名乗る魔族は、妾の質問に問い返す。
 追求するような妾の鋭い眼差しを、正面から見据えていた。

「僕は魔王復活の阻止を目論む抵抗派のグループのひとつを束ねるリーダーだよ。さっき説明したと思うけど、聞いていなかったかな?」
「とぼけおって、主様に近づいた理由は何じゃ?」
「もしかして僕を疑っているのかい? シスンを罠に嵌めるんじゃないかって?」
「妾は主様ほど純粋ではないからのう。もし主様に害をなす存在ならば容赦はせんぞ」

 その時は本当に容赦はせん。

 アルダンは口から覗かせた触手をクネクネと動かした。

 こやつの触手には見覚えがある。
 いや、こやつとういうか、触手の魔族に……か。
 しかし記憶に靄がかかってるみたいな感じじゃの?
 いつ、どこで見たかも思い出せん。

 少なくとも妾が主様に出会ってからではないのぅ。
 ということは、二千年前のどこかで……じゃな。

「なるほど、それを確認するために僕に同行したってわけだね」

 目の前のアルダンは困り顔で肩を竦めた。
 それが演技かどうかは、今の段階ではまだわからん。
 こやつが敵か味方か、それを判断するのが妾の役目じゃろう。

「わかっておるではないか。それより、もう囲まれておるぞ」
「みたいだね。さて、この扉からひとりたりとも外に出しちゃいけないけど、できるかい?」

 妾達は一階の扉を背にして吹き抜けのホールを見渡している。
 いくつかの部屋や通路から、エドマンド配下であろう魔族が顔を覗かせていた。

「結構な数じゃのぅ」
「恐いのかい?」
「馬鹿を言うでないわ。こんなもの物の数ではない」
「殺しちゃ駄目だよ。それこそシスンの意に反するからね」
「――ぬかせ」

 言うと同時に妾は魔法を放った。
 いくつもの光の矢が魔族に向かって飛んでいく。
 逃げる魔族もいたが、光の矢はどこまでも追いかけて命中する。

「死んでないだろうね?」
「わかってて聞くな。気絶させただけじゃ」

 何なんじゃ、さっきから気に障る。
 
 魔族はどこに潜んでいたのかと思うくらい、無尽蔵に湧いてくる。
 中には手強いのもいた。

「あやつは、少しばかり勝手が違うようじゃの」

 妾の三倍は身の丈がありそうな二本角の男は、手にした剣を振りかざした。

「近接タイプか。よし、あれは僕が相手しよう。君は他のを頼んだよ」
「何を勝手に……!」

 言うやいなや、アルダンは口を開いて触手を出した。
 その触手がムチのようにしなり、二本角の男に襲いかかった。
 男も簡単には倒れないようで、剣で応戦する。

 妾はアルダンと背中合わせになった。

「手を焼いておるようじゃの?」
「これほどの実力者が相手だと、大怪我させないように立ち回るのは骨が折れるんだ」

 確かに二本角の男が放つ圧は、周りの魔族と比べものにはならないほど強烈だった。
 やつの間合いでは妾とて分が悪いように思える。
 気にくわないが、ここはアルダンに任せるしかあるまい。
 妾は目の前の敵に集中しよう。

 屋敷のどこかで、衝撃音が聞こえた。
 上の方から、か。
 主様がエドマンドと戦っておるのか。

 アーシェが一緒なら問題はあるまい。
 もっとも、アーシェの手を借りずとも、主様は勝利すると信じておるがの。

 主様のことを考えていると、背後で断末魔のような叫び声があがった。
 アルダンが二本角を倒したようじゃ。

「――!?」


 眼前に触手が迫る!


 妾は素早く仰け反った。
 反転して床に伏せる。
 捉えた光景は首を切断された二本角だった。
 アルダンの触手に斬り落とされたのだと想像がつく。

 触手は二本角の首を切断したが、勢い余って妾のほうに飛んできた……と考えられんこともないが。

「ごめん、大丈夫だったかい? 勢いがつきすぎたみたいだ」

 妾が起き上がるのを手助けするように、アルダンが笑いながら手をさし伸べた。
 差し出された手を無視して立ち上がる。

「……ふん、勢い余って殺してしまったのか」
「そのつもりはなかったんだけど、相手が手強すぎて加減ができなかったんだ。手を抜けば殺されていたのは僕だったろうね」

 さて、どうじゃろうな?
 妾ほどの身体能力がなければ、間違いなく首が飛んでおった一撃。
 どさくさに紛れて妾を狙ったのか、それとも本当に加減を間違えたのか。

 万が一、主様に危害がおよびそうならその時は――。
 警戒だけはしておくか。
 妾は心の中でそう思った。
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