上 下
58 / 106

元【光輝ある剣】 再起

しおりを挟む
 【光輝ある剣】を自らの意思で脱退した俺は、王都アルングリームに訪れていた。


 エイルの街ではもう冒険者はできない。
 オイゲン達が俺の不利になるような悪評を吹聴していたからだ。
 何でも新人冒険者をカモにして使い捨てた挙げ句、有り金を巻き上げてその金で豪遊していた俺を追放したと触れ回っているらしい。
 おかげで担当者だった男も軽蔑の眼差しで睨みつけてくる。

「新しくリーダーとなったオイゲンさんからの伝言で、冒険者資格の剥奪はしないでおくから心を入れ替えて出直すようにとのことです」

 担当者はオイゲンからの伝言を早口で伝えると、他の冒険者の受付業務があるので出ていってくださいと、鬱陶しそうな表情で俺を厄介者のように追い払った。
 オイゲンのヤツめ。
 ふざけたことを言いやがって、どの口が言うんだ。

 そこで俺はネスタの街に見切りをつけて、この王都までやって来たのだ。
 なぁに、俺はAランクの冒険者だ。
 俺がパーティーの募集をかければ、向こうから入れてくれというやつはいくらでもいるだろう。
 ここから俺は出直してやる。

「エイルからアルングリームに移籍したい。手続きをしてくれ」
「かしこまりました」

 俺はアルングリームの冒険者ギルドで、移籍の手続きを申請した。
 本来ならAランクの移籍は手続きが非常に複雑だ。
 だが、俺の悪評を信じたエイルの冒険者ギルドは、あっさりと承諾した。
 あいつらもいずれ痛い目を見せてやる。
 あの担当者も俺のおかげで出世できたのに、あとになって後悔しても知らないぞ。

 窓口の男は俺の移籍の書類を見て一瞬怪訝な顔をしたものの、すぐに爽やかな笑顔に戻し手続きに取りかかった。
 どうせ書類にはよくないことが書かれているのだろう。
 しかし、俺がこの王都でSランクになれば周りの目も変わる。
 しばしの我慢だ。

「パーティー名はどうされますか?」
「ん……そうだな……」

 パーティー名は考えていなかったな。
 俺の再起に相応しい名は……。
 俺はかつて存在した超有名パーティーの名を使うことにした。
 本人達は今はもう引退しているから、俺が名乗ろうが自由だ。

「では、【剣の試練】にしてくれ」
「……え? その名前は!?」

 男は口をぽかんと開けて、不思議そうな顔で俺を見つめた。

「何だ、駄目なのか? Aランク冒険者の俺に相応しい名だろう」
「は、はぁ……」
「おい、お前。たかが冒険者ギルドの職員風情が、いちいち俺の言動に口を挟むな」

 黙って手続きを進めればいいんだ。
 ちっ、気に障るヤツだ。
 しかし男の方は、俺の言葉にムッとした表情になった。

「仕事の遅いヤツだな、Aランク冒険者の俺を待たせるんじゃない! このノロマが!」

 俺はカウンター越しに男の胸ぐらを掴んで叱責した。

「は、はい!」

 男はビビって声がうわずっていた。
 だが、男では判断できないということで、上司だという頭の弱そうな女が出てきたが、パーティー名は一旦保留にされた。
 エイルからの移籍の書類に何か書かれていたのだなと俺は察したが、今更文句を言っても仕方がない。
 エイルの街に凱旋する機会があれば、あの担当者に思い知らせてやるだけだ。

 上司の女は俺の言葉をのらりくらりと躱し、話は一向に進まない。
 周りにいる冒険者達も俺を見ていた。
 これ以上ここで話していても、俺の印象が悪くなるだけだ。
 今日のところは出直すか。

「おい、女。お前、ここの副ギルド長だと言ったな。保留にしたそのパーティー名をきちんと検討しろよ。明日、また来る」

 女が何か言っていたが、俺は無視して背を向けると南の冒険者ギルドを後にした。
 保留だか何だか知らないが、俺は勝手に名乗らせてもらう。
 俺が【剣の試練】のベルナルドだ。



 ***



 それから、俺は数日間冒険者を勧誘し続けたが思うような結果は得られなかった。
 何故だ?
 俺はAランクだぞ?
 王都の冒険者どもは俺の凄さがわかっていないのか?

「お前も光栄に思えよ、本来ならDランクごときが入れるパーティーじゃないんだからな?」

 Aランク以上の冒険者に勧誘を断られ続けた俺は、田舎から出てきたような素人に声をかけた。
 下級職の【剣士】の男で、ついさっきの話だ。
 最初が肝心だ。
 俺はこいつに上下関係をしっかり叩き込むことにした。
 だが、

「あの、やっぱり僕止めておきます。冒険者ギルドで探してみようと思います」

 男は気まずそうな顔で言った。

「はぁ? おいおいおい、今さっき入ったばかりだろう。ふざけるなよ?」
「だって、ベルナルドさんみたいな言い方だと、強い人は入ってくれませんよ? 何でそんな、入れてやろう的な言い方なんですか? 僕みたいなDランクならともかく、Aランクの人は絶対入ってくれませんよ」

 男をパーティーに加入させたあと、五人の冒険者に声をかけたが、そのことを言っているのだろう。
 勧誘の苦労も知らない雑魚が何を偉そうに。
 俺は男を手で追い払う仕草をした。
 もう行っていいぞ。
 お前なんかいらない。
 どこかで野垂れ死ねばいい。

「……え、はい。わかりました。こちらこそ、一度は入ると言ったのにすみませんでした。では、勧誘頑張ってください」

 男は頭を下げると、俺に背を向けて人混みに消えていった。
 やっぱり妥協せずにAランク以上の冒険者を探すか。
 その後も俺は勧誘を続けた。


 しかし、俺は焦っていた。
 妥協の何が悪い。
 すれ違った【神官】ふうの男に声をかける。

「どうだ? Aランク冒険者である俺のパーティー【剣の試練】に入りたくはないか? 伝説の名を継ぐ最高のパーティーだ」
「ん、何だ勧誘か? 悪いが今のパーティーに所属したばかりなんだ」
「どうせ、三流のパーティーだろう? Aランク冒険者のおこぼれに預かりたくはないのか?」
「は? お前、馬鹿にしているのか?」

 【神官】風の男は怒って行ってしまった。
 ふん、雑魚が。
 【剣の試練】の名も知らぬ田舎者が。
 死ね。
 いつまでもひとりはマズいから雑魚に声をかけ始めたが、中々上手くいかなかった。
 王都だけあって雑魚の割にプライドが高い冒険者が多い。

 俺が次の冒険者を探して振り返ると、目の前に銀髪褐色のメイド姿の少女がいた。


「ベルナルドとやら。つまらぬ真似をしてくれるのぅ」


 麗しきメイド少女は俺の名前を口にした。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...