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ウェイン王子との対面
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翌日。
待ち合わせ場所に到着した俺達は、ウェイン王子のパーティーを待っていた。
指定された待ち合わせ場所は、街道から外れた荒野だった。
辺りにモンスターの姿はなく、ところどころに大きな岩が点在している。
その中で一際大きな岩の下に地下ダンジョンの入口はあった。
入口付近には十数人の見張りの兵士が立っている。
近くには小屋があり、交代で休憩を取りながら任務にあたっているようだ。
しばらくすると二頭立ての豪奢な馬車がやってきた。
それを見た兵士達の顔が緊張でこわばったことから、俺はあの馬車に王子が乗っているのだなと思った。
馬を操っているのはどう見ても冒険者でない青年だったので、馬車の中に王子のパーティーがいるようだ。
俺達は兵士の横に並んで馬車を出迎えた。
兵士達が揃って跪いたので、俺達もそれに習う。
こういう作法はよくわからないけれど、真似をしておけばいいだろう。
隣を見ると、アーシェ達も同じようにしていた。
「こんな登場の仕方をする冒険者ってあるかしら? 王子様だと普通なのかも知れないけれど」
「全くじゃ。妾でさえ地下ダンジョンには自らの足で赴いたというのに」
アーシェとティアが俺を間に挟んで小声で話す。
俺は視線を僅かに上げて、馬車の様子を窺っていた。
馬車からひとりの男が降りてきた。
「出迎えご苦労」
最初に降りてきたのは白銀の鎧を纏った二十代の男だった。
長い金髪を首の後ろで結んでいる。
眼光は鋭く、兵士達は萎縮してしまっていた。
次に降りてきたのは漆黒の鎧を纏った男。
しかも、最初に降りてきた男と同じ顔をしていた。
双子なのかな?
違うのは鎧の形状と色だけで、顔立ちや髪型は全く同じだった。
その二人が三人目の登場を迎えるように跪くと、馬車からゆっくりと男が降りてきた。
意匠の凝らした金色の鎧に身を包み、腰にはこれまた豪奢な装飾の施された剣を携えている。
凜々しい顔立ちの金髪碧眼の青年……この人がきっとウェイン王子だろう。
「みんなご苦労。楽にしてくれ」
「はっ!」
兵士達が顔を上げたので、俺も顔を上げた。
ウェイン王子が腕を組んで立ち、その三歩後ろに他の二人が立っている。
ウェイン王子は俺達を一瞥した。
一瞬だけ目が合った。
「お前達が今日の護衛か?」
「はい、そうです。宜しくお願いします」
「そうか、任せたぞ」
「はい!」
ウェイン王子は笑顔で言った。
王族と言うからもっと堅苦しい人だと想像していたが、そうでもないようだ。
普通に同年代の冒険者みたいな感じだった。
他の二人はウェイン王子のパーティーメンバーで、白銀の鎧の男は【聖騎士】のアルスさん。
漆黒の鎧の男は【暗黒騎士】のカルスさんというそうだ。
やはり二人は双子だった。
ウェイン王子が幼少の頃から仕えているらしい。
彼らの父親はシーヴァル王国の将軍で、ウェイン王子の剣の師でもあるとエステルが小声で教えてくれた。
将軍はかなりの実力者のようだった。
そして、ウェイン王子の職業は【竜騎士】というらしい。
転職条件はひとりでドラゴンを討伐することだとアルスが自慢げに教えてくれた。
「なによ、シスンだってドラゴンぐらい倒せるわ」
アーシェは不満そうに小声でつぶやいた。
互いに自己紹介を終えて、早速地下ダンジョンに入った。
ティアが無言で《ライティング》を使うと、地下ダンジョン内が明るくなった。
「明かりは助かる。しかも無詠唱か?」
「わら……ぶっ」
「はい、無詠唱です」
ティアが何を言おうとしたのかはわからないが、アーシェが咄嗟に口を塞いでくれたので、俺が代わりに答えた。
「中々優秀なのだな。冒険者ランクは?」
「滅相もありません。まだBランクパーティーです」
「……Bランクか。アルス、冒険者ギルドへの募集はどうなっているのだ?」
「はっ。ギルド長のグレンデルにはAランク以上、もしくはそれに相当するパーティーを手配するように伝えています」
「そうか。グレンデルが寄越したのなら心配せずともよいか」
ウェイン王子はBランクパーティーでは不服だったのだろうか。
だが、アルスさんからグレンデルさんの名前が出ると、納得したようだった。
グレンデルさんはウェイン王子から信用されているようだ。
「ウェイン王子に伺っても宜しいですか?」
「何だ?」
「隊列はどうしましょう?」
ウェイン王子が右隣にいたアルスの方を見る。
すると、アルスは頷いて答えてくれた。
「最下層まではお前たちに任せる。我々が王子をお守りするので、そちらはモンスターの排除だけしてくれればいい。間違っても広範囲魔法などで王子に火の粉が降りかかるような真似はしてくれるなよ」
「わかりました」
俺達はいつもの隊列でいくことにした。
先頭は俺で、その後ろにティア、エステル、アーシェが続く。
更にその後ろにウェイン王子、アルスさん、カルスさんの順番だ。
後方にも光源があることから、恐らくアルスさんあたりが《ライティング》を使っているのだろう。
無詠唱だった。
流石、Sランクパーティーといったところか。
「順路はこちらで指示する」
アルスさんが言った。
彼が言うにはこの地下ダンジョンには何度も足を運んでいる為、構造は把握しているらしい。
グレンデルさんの話では、ウェイン王子はレベル上げの為にこの地下ダンジョンを訪れているらしいから、何度も来ていてもおかしくはないか。
それにしても、最下層のモンスターはよっぽど経験値効率がいいのか?
爺ちゃんとの地下ダンジョン巡りを思いだすなぁ。
トラウマも多いけど。
しばらく進むと、モンスターが現れた。
ミノタウロスだとティアが教えてくれた。
体は人間のようだが、頭は牛だ。
手には俺の太ももくらいはある棍棒を持っている。
あれで殴られたら痛そうだが、受ける気はさらさらない。
俺はドラゴンブレードを抜くと、ミノタウロスに斬りかかった。
地下ダンジョンにミノタウロスの断末魔が響いた。
俺はその返り血を避けると、剣を鞘に収めた。
「ミノタウロスを一撃か。腕がいいのか、剣がいいのかどっちだ?」
「それはシス……んー!」
「多少腕に覚えもありますが、この剣はドラゴンの牙から作られたものなので非常に強力です」
アーシェが何を言おうとしたのか想像はできるが、ティアが咄嗟に口を塞いでくれたので、俺が代わりに答えた。
本当にこの二人はいいコンビだな。
地下一階はミノタウロスとリザードマンがたまに出現した。
どちらも単独で現れたので、俺ひとりで片付けた。
地下二階にはミノタウロスとリザードマンがそれぞれ複数で襲ってきた。
アーシェやティアが出るまでもなく、俺が斬り伏せていた。
幸いにも今のところ、背後からの奇襲はなかった。
「地下三階です」
「シスンとやら、ここからは今までと出現モンスターが変わる。デスタランチュラという巨大な蜘蛛だ。糸を吐き出しこちらの動きを封じてくるぞ。そして厄介なのはその猛毒だ。初級や中級の解毒では治らない」
ウェイン王子が丁寧に説明してくれる。
猛毒か。
俺には毒は効かないが、他のみんなは危ないな。
ティアの上級魔法なら解毒は可能だろうが、用心するにこしたことはない。
俺はティアに目配せすると、彼女は頷いた。
大丈夫なようだ。
「次の三叉路を右だ」
「わかりました」
後方からアルスさんの指示が飛んだ。
俺達は警戒をしつつ足早に進んで行く。
地下二階までと打って変わって、まるで迷路のような造りだ。
もし俺達だけで攻略しようとしたら、いくらエステルが地図を作成してくれるといっても相当な時間がかかったに違いない。
その後もアルスさんの指示どおりに進んで行く。
これが最下層を目指す為の最短ルートなのだろう。
「デスタランチュラ、出てきませんね」
俺は歩きながら後方に向けて言った。
別にウェイン王子に尋ねたわけではなく、半分は独り言のつもりだった。
「この先を左に曲がると開けた場所に出る。そこにデスタランチュラの巣がある。少し手前から出現し始める筈だ」
質問と受け取ってくれたのか、アルスさんが答えてくれた。
デスタランチュラの巣。
ということは数も多いのだろうか?
考えながら通路を進み角を左に曲がると、向こうからカサカサカサと耳障りな音が聞こえ、人間の子どもくらいの大きさの蜘蛛が向かって来た。
デスタランチュラだ。
ウェイン王子の話では、糸を吐き出して体を絡め取ってくるらしい。
その糸の強度や粘着性はわからないが、敢えて食らう必要はないだろう。
拘束された隙に猛毒攻撃をされたら面倒臭い。
ということで、その前に仕留める。
デスタランチュラは一心不乱に通路を移動している。
まだ距離はあった。
どの程度近づいたら糸を吐くかわからない以上、むやみに接近しない方がいいだろう。
俺は魔法を使うことにした。
剣を抜いたまま、左手をデスタランチュラに向ける。
次の瞬間、ベチャンと、デスタランチュラは石と土の塊に押し潰された。
しかし後続がいたようで、潰れた死骸の影から新たなデスタランチュラが現れた。
「はあっ!」
俺はさっきと同じ《ストーンフォール》で、デスタランチュラを潰した。
「気色の悪いモンスターじゃ」
「あの二匹だけだったようだ。先へ進もう」
通路を進んで行くと開けた場所に出た。
そこにはアルスさんの言ったとおり、デスタランチュラの巣があった。
そこかしこに糸が張り巡らされ、床を這うのや天井からぶら下がったり、見た範囲でも三十匹はデスタランチュラが徘徊していた。
「こんなに多いのか……?」
二匹は倒したが単体での登場だった。
これだけ数がいるとどんな動きをしてくるか予想しづらい。
しかも張り巡らされた糸の向こうにも影が見えるから、実際にはまだいるのだろう。
スキルを使うか、それとも魔法でいくか。
俺は攻撃を仕掛けてこないデスタランチュラの様子を見ながら、床の一点を注視した。
「…………あれは!?」
床には鎧を纏った骸骨が横たわっていた。
近くには剣と盾が無造作に落ちている。
アンデッド……スケルトンか?
「あれは、先日死んだ冒険者だろう。遺体をそのままにしておいたから食われたのだろうな。他にも同じようなのが三つほどあるはずだ。よくある光景で我々が気に留める必要はない」
「そのとおり。王子を護衛するはずの冒険者がこんなところでくたばっては、全く思いやられる」
アルスさんとカルスさんが淡々と会話をしている。
……え?
俺は耳を疑った。
待ち合わせ場所に到着した俺達は、ウェイン王子のパーティーを待っていた。
指定された待ち合わせ場所は、街道から外れた荒野だった。
辺りにモンスターの姿はなく、ところどころに大きな岩が点在している。
その中で一際大きな岩の下に地下ダンジョンの入口はあった。
入口付近には十数人の見張りの兵士が立っている。
近くには小屋があり、交代で休憩を取りながら任務にあたっているようだ。
しばらくすると二頭立ての豪奢な馬車がやってきた。
それを見た兵士達の顔が緊張でこわばったことから、俺はあの馬車に王子が乗っているのだなと思った。
馬を操っているのはどう見ても冒険者でない青年だったので、馬車の中に王子のパーティーがいるようだ。
俺達は兵士の横に並んで馬車を出迎えた。
兵士達が揃って跪いたので、俺達もそれに習う。
こういう作法はよくわからないけれど、真似をしておけばいいだろう。
隣を見ると、アーシェ達も同じようにしていた。
「こんな登場の仕方をする冒険者ってあるかしら? 王子様だと普通なのかも知れないけれど」
「全くじゃ。妾でさえ地下ダンジョンには自らの足で赴いたというのに」
アーシェとティアが俺を間に挟んで小声で話す。
俺は視線を僅かに上げて、馬車の様子を窺っていた。
馬車からひとりの男が降りてきた。
「出迎えご苦労」
最初に降りてきたのは白銀の鎧を纏った二十代の男だった。
長い金髪を首の後ろで結んでいる。
眼光は鋭く、兵士達は萎縮してしまっていた。
次に降りてきたのは漆黒の鎧を纏った男。
しかも、最初に降りてきた男と同じ顔をしていた。
双子なのかな?
違うのは鎧の形状と色だけで、顔立ちや髪型は全く同じだった。
その二人が三人目の登場を迎えるように跪くと、馬車からゆっくりと男が降りてきた。
意匠の凝らした金色の鎧に身を包み、腰にはこれまた豪奢な装飾の施された剣を携えている。
凜々しい顔立ちの金髪碧眼の青年……この人がきっとウェイン王子だろう。
「みんなご苦労。楽にしてくれ」
「はっ!」
兵士達が顔を上げたので、俺も顔を上げた。
ウェイン王子が腕を組んで立ち、その三歩後ろに他の二人が立っている。
ウェイン王子は俺達を一瞥した。
一瞬だけ目が合った。
「お前達が今日の護衛か?」
「はい、そうです。宜しくお願いします」
「そうか、任せたぞ」
「はい!」
ウェイン王子は笑顔で言った。
王族と言うからもっと堅苦しい人だと想像していたが、そうでもないようだ。
普通に同年代の冒険者みたいな感じだった。
他の二人はウェイン王子のパーティーメンバーで、白銀の鎧の男は【聖騎士】のアルスさん。
漆黒の鎧の男は【暗黒騎士】のカルスさんというそうだ。
やはり二人は双子だった。
ウェイン王子が幼少の頃から仕えているらしい。
彼らの父親はシーヴァル王国の将軍で、ウェイン王子の剣の師でもあるとエステルが小声で教えてくれた。
将軍はかなりの実力者のようだった。
そして、ウェイン王子の職業は【竜騎士】というらしい。
転職条件はひとりでドラゴンを討伐することだとアルスが自慢げに教えてくれた。
「なによ、シスンだってドラゴンぐらい倒せるわ」
アーシェは不満そうに小声でつぶやいた。
互いに自己紹介を終えて、早速地下ダンジョンに入った。
ティアが無言で《ライティング》を使うと、地下ダンジョン内が明るくなった。
「明かりは助かる。しかも無詠唱か?」
「わら……ぶっ」
「はい、無詠唱です」
ティアが何を言おうとしたのかはわからないが、アーシェが咄嗟に口を塞いでくれたので、俺が代わりに答えた。
「中々優秀なのだな。冒険者ランクは?」
「滅相もありません。まだBランクパーティーです」
「……Bランクか。アルス、冒険者ギルドへの募集はどうなっているのだ?」
「はっ。ギルド長のグレンデルにはAランク以上、もしくはそれに相当するパーティーを手配するように伝えています」
「そうか。グレンデルが寄越したのなら心配せずともよいか」
ウェイン王子はBランクパーティーでは不服だったのだろうか。
だが、アルスさんからグレンデルさんの名前が出ると、納得したようだった。
グレンデルさんはウェイン王子から信用されているようだ。
「ウェイン王子に伺っても宜しいですか?」
「何だ?」
「隊列はどうしましょう?」
ウェイン王子が右隣にいたアルスの方を見る。
すると、アルスは頷いて答えてくれた。
「最下層まではお前たちに任せる。我々が王子をお守りするので、そちらはモンスターの排除だけしてくれればいい。間違っても広範囲魔法などで王子に火の粉が降りかかるような真似はしてくれるなよ」
「わかりました」
俺達はいつもの隊列でいくことにした。
先頭は俺で、その後ろにティア、エステル、アーシェが続く。
更にその後ろにウェイン王子、アルスさん、カルスさんの順番だ。
後方にも光源があることから、恐らくアルスさんあたりが《ライティング》を使っているのだろう。
無詠唱だった。
流石、Sランクパーティーといったところか。
「順路はこちらで指示する」
アルスさんが言った。
彼が言うにはこの地下ダンジョンには何度も足を運んでいる為、構造は把握しているらしい。
グレンデルさんの話では、ウェイン王子はレベル上げの為にこの地下ダンジョンを訪れているらしいから、何度も来ていてもおかしくはないか。
それにしても、最下層のモンスターはよっぽど経験値効率がいいのか?
爺ちゃんとの地下ダンジョン巡りを思いだすなぁ。
トラウマも多いけど。
しばらく進むと、モンスターが現れた。
ミノタウロスだとティアが教えてくれた。
体は人間のようだが、頭は牛だ。
手には俺の太ももくらいはある棍棒を持っている。
あれで殴られたら痛そうだが、受ける気はさらさらない。
俺はドラゴンブレードを抜くと、ミノタウロスに斬りかかった。
地下ダンジョンにミノタウロスの断末魔が響いた。
俺はその返り血を避けると、剣を鞘に収めた。
「ミノタウロスを一撃か。腕がいいのか、剣がいいのかどっちだ?」
「それはシス……んー!」
「多少腕に覚えもありますが、この剣はドラゴンの牙から作られたものなので非常に強力です」
アーシェが何を言おうとしたのか想像はできるが、ティアが咄嗟に口を塞いでくれたので、俺が代わりに答えた。
本当にこの二人はいいコンビだな。
地下一階はミノタウロスとリザードマンがたまに出現した。
どちらも単独で現れたので、俺ひとりで片付けた。
地下二階にはミノタウロスとリザードマンがそれぞれ複数で襲ってきた。
アーシェやティアが出るまでもなく、俺が斬り伏せていた。
幸いにも今のところ、背後からの奇襲はなかった。
「地下三階です」
「シスンとやら、ここからは今までと出現モンスターが変わる。デスタランチュラという巨大な蜘蛛だ。糸を吐き出しこちらの動きを封じてくるぞ。そして厄介なのはその猛毒だ。初級や中級の解毒では治らない」
ウェイン王子が丁寧に説明してくれる。
猛毒か。
俺には毒は効かないが、他のみんなは危ないな。
ティアの上級魔法なら解毒は可能だろうが、用心するにこしたことはない。
俺はティアに目配せすると、彼女は頷いた。
大丈夫なようだ。
「次の三叉路を右だ」
「わかりました」
後方からアルスさんの指示が飛んだ。
俺達は警戒をしつつ足早に進んで行く。
地下二階までと打って変わって、まるで迷路のような造りだ。
もし俺達だけで攻略しようとしたら、いくらエステルが地図を作成してくれるといっても相当な時間がかかったに違いない。
その後もアルスさんの指示どおりに進んで行く。
これが最下層を目指す為の最短ルートなのだろう。
「デスタランチュラ、出てきませんね」
俺は歩きながら後方に向けて言った。
別にウェイン王子に尋ねたわけではなく、半分は独り言のつもりだった。
「この先を左に曲がると開けた場所に出る。そこにデスタランチュラの巣がある。少し手前から出現し始める筈だ」
質問と受け取ってくれたのか、アルスさんが答えてくれた。
デスタランチュラの巣。
ということは数も多いのだろうか?
考えながら通路を進み角を左に曲がると、向こうからカサカサカサと耳障りな音が聞こえ、人間の子どもくらいの大きさの蜘蛛が向かって来た。
デスタランチュラだ。
ウェイン王子の話では、糸を吐き出して体を絡め取ってくるらしい。
その糸の強度や粘着性はわからないが、敢えて食らう必要はないだろう。
拘束された隙に猛毒攻撃をされたら面倒臭い。
ということで、その前に仕留める。
デスタランチュラは一心不乱に通路を移動している。
まだ距離はあった。
どの程度近づいたら糸を吐くかわからない以上、むやみに接近しない方がいいだろう。
俺は魔法を使うことにした。
剣を抜いたまま、左手をデスタランチュラに向ける。
次の瞬間、ベチャンと、デスタランチュラは石と土の塊に押し潰された。
しかし後続がいたようで、潰れた死骸の影から新たなデスタランチュラが現れた。
「はあっ!」
俺はさっきと同じ《ストーンフォール》で、デスタランチュラを潰した。
「気色の悪いモンスターじゃ」
「あの二匹だけだったようだ。先へ進もう」
通路を進んで行くと開けた場所に出た。
そこにはアルスさんの言ったとおり、デスタランチュラの巣があった。
そこかしこに糸が張り巡らされ、床を這うのや天井からぶら下がったり、見た範囲でも三十匹はデスタランチュラが徘徊していた。
「こんなに多いのか……?」
二匹は倒したが単体での登場だった。
これだけ数がいるとどんな動きをしてくるか予想しづらい。
しかも張り巡らされた糸の向こうにも影が見えるから、実際にはまだいるのだろう。
スキルを使うか、それとも魔法でいくか。
俺は攻撃を仕掛けてこないデスタランチュラの様子を見ながら、床の一点を注視した。
「…………あれは!?」
床には鎧を纏った骸骨が横たわっていた。
近くには剣と盾が無造作に落ちている。
アンデッド……スケルトンか?
「あれは、先日死んだ冒険者だろう。遺体をそのままにしておいたから食われたのだろうな。他にも同じようなのが三つほどあるはずだ。よくある光景で我々が気に留める必要はない」
「そのとおり。王子を護衛するはずの冒険者がこんなところでくたばっては、全く思いやられる」
アルスさんとカルスさんが淡々と会話をしている。
……え?
俺は耳を疑った。
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