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さようならネスタ
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森を抜けた俺達は、予定より早くネスタの街に辿り着いた。
そして今は、王都への引っ越し作業の真っ最中だ。
ティアは今メイド服を着ている。
何故そうなったかと言うと、元々着ていたドレスは旅をするには不向きだからアーシェと服を買いに行った。
帰って来たらメイド姿のティアがいた。
何でも、店に着くと一目で気に入ってしまったのだという。
メイド服はどういった者が着るのかアーシェが説明すると、「それは主様に仕える妾に相応しいではないか」と益々気に入ってしまったらしい。
家は引き払い、家財道具などは売るつもりだ。
その辺の手続きは苦手なので、全てアーシェに任せてある。
「じゃあ、行ってくるわねシスン」
「ああ、頼んだよ」
「じゃあその間、妾は主様と魔法の特訓をしようかの」
「あんたも私と一緒に来るのよ」
「何でじゃ?」
「シスンと二人っきりにさせると、危ないからに決まっているでしょ」
「いーやーじゃー!」
アーシェは抵抗するティアを連れて行ってしまった。
イゴーリ村からネスタの街までの道中で、ティアには上級魔法と古代魔法を教えてもらっていた。
だが、結論から言うと習得には至っていない。
やはり、上級ともなると今までのように感覚だけで魔法を発動するのが難しくなった。
試しに魔法を発動させるための呪文を教えてもらうと、何とか形にはなったが威力はティアのそれに比べると数段どころか天と地ほどの差があった。
しかも詠唱する呪文が長いので、前衛の俺としては非常に使い勝手が悪いのだ。
無詠唱で使えるのならば【剣聖】のスキルの合間に使用できて有用なのだが、そうでなければ剣術に絞ったほうがいいだろう。
中級までなら無詠唱で使えるので、今までどおり臨機応変に活用しようと思った。
古代魔法に至っては呪文を詠唱しても魔力のコントロールが難しく、どうしても力が分散してしまう。
自称世界最強の魔法使いであるティアを以てしても、古代魔法や上級魔法は呪文の詠唱を必要とするようだ。
それを聞いて、俺は現段階での習得を諦めることにした。
まぁ……ティアがパーティーにいる以上、俺は剣と中級魔法で十分だろう。
ティアが上級や古代魔法を行使する時が来たら、俺が彼女を援護するように立ち回ればいい。
爺ちゃんとの戦いで折れてしまったドラゴンブレードは、ドワーフのオヤジさんに預けてある。
その際、一緒に持っていった火竜の牙で新しい剣を作ってくれるよう頼んである。
そんなに日も経っていないのに剣を折ってしまい怒られるかもと思って、俺はオヤジさんへの手土産に高価な酒を持参していた。
しかし、オヤジさんは眉間の皺をいつもより深くしただけで、すぐに工房にいた職人達を呼んで火竜の牙に見入っていた。
それほど、火竜の牙に興味をそそられたらしい。
「火竜なんて千年以上前にほとんど絶滅したと思っていたが、どこでこんなものを手に入れた?」
「……ああ、ええと、地下ダンジョンで出くわしたんだ。ひっそりと生き延びていたんだろう」
「そうか。それにしてもこの間のドラゴンといい立て続けにドラゴンを倒すなんて、お前にはたまげたよ。この素材なら前以上の剣が作れるぞ。俺も興奮してきたわ!」
オヤジさんには十日待てと言われたので、その間はネスタの街にいるつもりだ。
エステルの家は王都にあるが、今はティアとともに俺の家に一緒に住んでいる。
今頃、遺跡調査の書類をまとめているところだろう。
道中でも宿で仕事をしていたみたいだが、時間のかかる作業のようだ。
ティアのことを上手く誤魔化さないといけないから頭を悩ませていることだろう。
「そうだ。他の冒険者達にも挨拶しないといけないな」
その後、俺はアーシェ達と合流して食事を済ませ、冒険者ギルドへと向かった。
顔見知りの冒険者を見つけては、王都に行くことを説明した。
何組かのパーティーに挨拶を済ませたところで、スコット達【希望の光】を見つける。
今しがた依頼を終え、帰って来たようだった。
「えっ!? 王都に行くのか! 本当かよ?」
「ああ、向こうの冒険者ギルドに移籍するつもりだ」
「そうなのか。まぁ、Aランクに昇格したら気軽に移籍できないしな」
「そうらしいな」
スコット達【希望の光】のメンバーは、全員生まれも育ちもこのネスタの街だ。
だから、ずっとここで冒険者を続けていくそうだ。
「でもさ、同じBランクの仲間がいなくなるのは寂しいな」
そう言ったスコットの肩に、【魔法使い】は手を置いた。
「スコットくん、同じと言ってもシスンくん達はAに近いB。対して僕達はCに近いBですよ」
「おま……! わかってるけどそれを言うなよなー」
あ、後はパーティー名を言わないといけないな。
「それから、パーティー名を付けたんだ。【剣の試練】って言うんだけど」
俺がさらっと言うと、【希望の光】全員の顔がこわばった。
「シスン。それはマズいぞ。本物が聞いたら怒るかも知れないぞ」
「どうして?」
「シスンくん、ひょっとして知らないんですか? そのパーティー名は昔いたSランクパーティーの名ですよ。しかも、リーダーは【剣聖】だったそうです」
「あー。実は……」
スコット達なら偏見は持たないだろうと、俺は自身が【剣聖】になったことも含めて説明する。
やはりというか、スコット達は俺が無詠唱で魔法を放った時と同じ反応になった。
「け、けけけ【剣聖】!?」
「あの時シスンくんの魔法の才能にも驚きましたが、剣の才能もあったんですね。スコットくん、彼は雲の上の存在です」
「そんなことないよ。俺はみんなのこと友達だと思っているし、拠点は変わるけど今後も宜しく頼むよ」
「シスンー! お前ってやつは! 住むとこが見つかったら手紙くれよな!」
「もちろんだよ」
スコット達は俺達ずっと友達だぞと言わんばかりに握手を求めてきたので、俺は笑顔でそれに応える。
俺の両脇を固めるアーシェとティアがとっても誇らしげだった。
「ところで、そこの二人は新しい仲間なのか?」
スコットがティアとエステルを見て言った。
そうか、この二人は初めてだったな。
「気づくのが遅いわ。シスンの妻、ティアカパンという。宜しくの」
ティアには二千年前の人間という話は伏せるように言ってある。
だからといって、これを言うとは思わなかった。
すぐにアーシェが訂正し、いつもの小競り合いが始まった。
「おい、あの二人止めなくていいのか?」
「……ああ、大丈夫。いつものことだから」
その後、取り留めのない話を交してスコット達と別れた。
「ミディールさん達には、今日は会えそうにないな」
「そうねー。さっきマリーさんに聞いたら、しばらく留守にするみたいだったわ」
「またギルド直通のクエストかな?」
「そこまでは聞いていないけれど、そうかもね。私達もAランクになったらそういうクエストがあるのかしら?」
そうだな、王都でAランクに昇格したらギルド直通のクエストがあるんだろう。
今までは自分たちでクエストを探していたが、今度は向こうから頼まれるようになるんだな。
それだけAランク冒険者は頼りにされているんだろう。
***
それから三日が過ぎた。
今日は午前中に一件だけクエストをした。
たった3,000点の採取クエストだったが、中々収穫はあった。
ポーションを調合するための素材集めだ。
エステルはやはり博学だった。
彼女の言うまま、あれやこれやを採取して完了。
俺が褒めると、「え、そんなことないですよ」と謙遜していたが嬉しそうだった。
本来なら素材集め自体がDランク以下の内容だが、目的地にいるモンスターが手強いというのでBランクに回ってきたのだ。
エステルのマッピングの手際もよかった。
モンスターはオーガやジャイアントスネイクが出たくらいで、すぐに片付いた。
俺はドラゴンブレードがないので、以前使っていた予備を帯剣していた。
だけど、俺が剣を抜く前にアーシェとティアが競うように殲滅してしまうのだ。
意外といいコンビだった。
冒険者ギルドに達成報告に向かい昼食を摂った後、午後からはアーシェはティアを伴って旅の買い物に出かけた。
俺は遺跡調査の書類が完成しそうだというエステルの隣で、それを眺めながらお茶を飲んでいた。
「もうすぐ完成しそう?」
「ええ、あと少しです」
「ティアの件はどういう風になっているんだ?」
「えっと、それは……いなかったことにしています」
「つまり地下ダンジョンの最下層には、火竜グラドルウィンしかいなかったことにしたのか?」
エステルは頷いた。
まぁ、そうするのが自然だろうな。
真実はあの場にいた者だけしか知らないことだし。
後はティアと火竜を氷漬けにした何者か。
その人物も普通に考えれば生きてはいないか。
いや……エルフだとあり得るのか?
「エステル、そんな作業ばかりじゃ気が滅入るだろう? 息抜きに剣の稽古でもしないか?」
「え、私剣術は……」
「ああ、エステルは短剣だったな。よし、それでやろう」
「あううう……」
「体を動かすと気分転換にもなるしさ。ほら、行こう」
「は、はいっ」
戸惑いながらも嬉しそうにしているエステルの手を取って、俺は家を出た。
***
俺達がネスタの街を発つ日がやって来た。
新しい剣も完成している。
名前は前と同じドラゴンブレードだ。
オヤジさんが言うには、やはり強度が上がっているという。
これなら俺の力にも耐えられそうだ。
王都にオヤジさんの弟さんがやっている工房があるらしいので、紹介状を書いてもらった。
これは非常に助かる。
困ったことがあれば気軽に相談しろと、最後に握手を交した。
昨日はスコット達が送迎会を催してくれたので、みんなで楽しみ会話も弾んだ。
最後はまた会おうと再会の約束も交してある。
結局、ミディールさん達には会えず終いだった。
やはりAランクともなると忙しいのだろう。
彼らへの手紙をマリーさんに預けてきてある。
王都からも手紙を出そう。
思えば、このネスタの街は本当の意味での冒険者としての始まりだった。
クエストに明け暮れてBランクまで昇格し、ドラゴン討伐まで達成した。
メルティは今頃どうしているかな。
彼女は今も旅芸人として、どこかの街を回っているのだろう。
王都に来ることもあるのだろうか。
マリーさんにはさっき冒険者ギルドで挨拶をしてきた。
彼女には本当にお世話になった。
もしマリーさんが担当じゃなかったら、こうも順調に事が運ばなかったかも知れない。
またいつか会えると信じよう。
俺は【剣の試練】の仲間をひとりずつ眺める。
アーシェ。
幼馴染みで俺のことを一番わかってくれている彼女は、本当に頼りになる。
「アーシェ、俺もっと頑張るよ。だから、これからも宜しくな」
「え、何よ急に。シスンが頑張っているのは私が一番わかっているわ。王都で活躍してお爺ちゃん達に胸を張って報告できるように、みんなで頑張りましょ」
ティア。
まだこの時代に慣れないことも多いだろうけど、一緒に頑張ろうな。
いつか、彼女が二千年の時を超えた謎を解明してあげたいな。
「ティア、お前の魔法に期待してるぞ。それから、この時代のことも色々勉強していこうな。俺も世間知らずだから、一緒に勉強するよ」
「ふっ、主様は勉強なぞせんでもよい。妾の持つ知識は全て主様のものなのじゃからな」
「……お、おう」
エステル。
ちょっとドジなところや他の二人に比べると戦力不足なところはあるけれど、彼女の知識は俺達の要だ。
これから先、火竜の迷宮レベルの地下ダンジョンが出現したら、力だけのゴリ押しだけでは厳しいだろう。
きっとエステルの力が必要だと思う。
「エステル、王都に行っても俺やみんなを助けてくれな。もちろん、エステルは俺が守るから」
「あ、え、私を守る……ですか? そ、それは……どういう?」
「ちょっとシスン! 今の言い方は……」
「何じゃ、何を盛り上がっておるのじゃ?」
「え、いや……誤解だ! 落ち着け、アーシェ!」
三人にわーわー言われながら揉みくちゃにされて、俺は何とか逃げ出した。
最後に、ネスタの街を目に焼き付けておこうと眺めた。
俺達はこれから王都に行く。
しばらくは、このネスタの街ともお別れだ。
王都で一回りも二回りも成長して、いつかここに帰ってこよう。
そうして、ひとりで納得すると、
「さよなら、ネスタ。またいつか」
俺達は新たな一歩を踏み出した。
そして今は、王都への引っ越し作業の真っ最中だ。
ティアは今メイド服を着ている。
何故そうなったかと言うと、元々着ていたドレスは旅をするには不向きだからアーシェと服を買いに行った。
帰って来たらメイド姿のティアがいた。
何でも、店に着くと一目で気に入ってしまったのだという。
メイド服はどういった者が着るのかアーシェが説明すると、「それは主様に仕える妾に相応しいではないか」と益々気に入ってしまったらしい。
家は引き払い、家財道具などは売るつもりだ。
その辺の手続きは苦手なので、全てアーシェに任せてある。
「じゃあ、行ってくるわねシスン」
「ああ、頼んだよ」
「じゃあその間、妾は主様と魔法の特訓をしようかの」
「あんたも私と一緒に来るのよ」
「何でじゃ?」
「シスンと二人っきりにさせると、危ないからに決まっているでしょ」
「いーやーじゃー!」
アーシェは抵抗するティアを連れて行ってしまった。
イゴーリ村からネスタの街までの道中で、ティアには上級魔法と古代魔法を教えてもらっていた。
だが、結論から言うと習得には至っていない。
やはり、上級ともなると今までのように感覚だけで魔法を発動するのが難しくなった。
試しに魔法を発動させるための呪文を教えてもらうと、何とか形にはなったが威力はティアのそれに比べると数段どころか天と地ほどの差があった。
しかも詠唱する呪文が長いので、前衛の俺としては非常に使い勝手が悪いのだ。
無詠唱で使えるのならば【剣聖】のスキルの合間に使用できて有用なのだが、そうでなければ剣術に絞ったほうがいいだろう。
中級までなら無詠唱で使えるので、今までどおり臨機応変に活用しようと思った。
古代魔法に至っては呪文を詠唱しても魔力のコントロールが難しく、どうしても力が分散してしまう。
自称世界最強の魔法使いであるティアを以てしても、古代魔法や上級魔法は呪文の詠唱を必要とするようだ。
それを聞いて、俺は現段階での習得を諦めることにした。
まぁ……ティアがパーティーにいる以上、俺は剣と中級魔法で十分だろう。
ティアが上級や古代魔法を行使する時が来たら、俺が彼女を援護するように立ち回ればいい。
爺ちゃんとの戦いで折れてしまったドラゴンブレードは、ドワーフのオヤジさんに預けてある。
その際、一緒に持っていった火竜の牙で新しい剣を作ってくれるよう頼んである。
そんなに日も経っていないのに剣を折ってしまい怒られるかもと思って、俺はオヤジさんへの手土産に高価な酒を持参していた。
しかし、オヤジさんは眉間の皺をいつもより深くしただけで、すぐに工房にいた職人達を呼んで火竜の牙に見入っていた。
それほど、火竜の牙に興味をそそられたらしい。
「火竜なんて千年以上前にほとんど絶滅したと思っていたが、どこでこんなものを手に入れた?」
「……ああ、ええと、地下ダンジョンで出くわしたんだ。ひっそりと生き延びていたんだろう」
「そうか。それにしてもこの間のドラゴンといい立て続けにドラゴンを倒すなんて、お前にはたまげたよ。この素材なら前以上の剣が作れるぞ。俺も興奮してきたわ!」
オヤジさんには十日待てと言われたので、その間はネスタの街にいるつもりだ。
エステルの家は王都にあるが、今はティアとともに俺の家に一緒に住んでいる。
今頃、遺跡調査の書類をまとめているところだろう。
道中でも宿で仕事をしていたみたいだが、時間のかかる作業のようだ。
ティアのことを上手く誤魔化さないといけないから頭を悩ませていることだろう。
「そうだ。他の冒険者達にも挨拶しないといけないな」
その後、俺はアーシェ達と合流して食事を済ませ、冒険者ギルドへと向かった。
顔見知りの冒険者を見つけては、王都に行くことを説明した。
何組かのパーティーに挨拶を済ませたところで、スコット達【希望の光】を見つける。
今しがた依頼を終え、帰って来たようだった。
「えっ!? 王都に行くのか! 本当かよ?」
「ああ、向こうの冒険者ギルドに移籍するつもりだ」
「そうなのか。まぁ、Aランクに昇格したら気軽に移籍できないしな」
「そうらしいな」
スコット達【希望の光】のメンバーは、全員生まれも育ちもこのネスタの街だ。
だから、ずっとここで冒険者を続けていくそうだ。
「でもさ、同じBランクの仲間がいなくなるのは寂しいな」
そう言ったスコットの肩に、【魔法使い】は手を置いた。
「スコットくん、同じと言ってもシスンくん達はAに近いB。対して僕達はCに近いBですよ」
「おま……! わかってるけどそれを言うなよなー」
あ、後はパーティー名を言わないといけないな。
「それから、パーティー名を付けたんだ。【剣の試練】って言うんだけど」
俺がさらっと言うと、【希望の光】全員の顔がこわばった。
「シスン。それはマズいぞ。本物が聞いたら怒るかも知れないぞ」
「どうして?」
「シスンくん、ひょっとして知らないんですか? そのパーティー名は昔いたSランクパーティーの名ですよ。しかも、リーダーは【剣聖】だったそうです」
「あー。実は……」
スコット達なら偏見は持たないだろうと、俺は自身が【剣聖】になったことも含めて説明する。
やはりというか、スコット達は俺が無詠唱で魔法を放った時と同じ反応になった。
「け、けけけ【剣聖】!?」
「あの時シスンくんの魔法の才能にも驚きましたが、剣の才能もあったんですね。スコットくん、彼は雲の上の存在です」
「そんなことないよ。俺はみんなのこと友達だと思っているし、拠点は変わるけど今後も宜しく頼むよ」
「シスンー! お前ってやつは! 住むとこが見つかったら手紙くれよな!」
「もちろんだよ」
スコット達は俺達ずっと友達だぞと言わんばかりに握手を求めてきたので、俺は笑顔でそれに応える。
俺の両脇を固めるアーシェとティアがとっても誇らしげだった。
「ところで、そこの二人は新しい仲間なのか?」
スコットがティアとエステルを見て言った。
そうか、この二人は初めてだったな。
「気づくのが遅いわ。シスンの妻、ティアカパンという。宜しくの」
ティアには二千年前の人間という話は伏せるように言ってある。
だからといって、これを言うとは思わなかった。
すぐにアーシェが訂正し、いつもの小競り合いが始まった。
「おい、あの二人止めなくていいのか?」
「……ああ、大丈夫。いつものことだから」
その後、取り留めのない話を交してスコット達と別れた。
「ミディールさん達には、今日は会えそうにないな」
「そうねー。さっきマリーさんに聞いたら、しばらく留守にするみたいだったわ」
「またギルド直通のクエストかな?」
「そこまでは聞いていないけれど、そうかもね。私達もAランクになったらそういうクエストがあるのかしら?」
そうだな、王都でAランクに昇格したらギルド直通のクエストがあるんだろう。
今までは自分たちでクエストを探していたが、今度は向こうから頼まれるようになるんだな。
それだけAランク冒険者は頼りにされているんだろう。
***
それから三日が過ぎた。
今日は午前中に一件だけクエストをした。
たった3,000点の採取クエストだったが、中々収穫はあった。
ポーションを調合するための素材集めだ。
エステルはやはり博学だった。
彼女の言うまま、あれやこれやを採取して完了。
俺が褒めると、「え、そんなことないですよ」と謙遜していたが嬉しそうだった。
本来なら素材集め自体がDランク以下の内容だが、目的地にいるモンスターが手強いというのでBランクに回ってきたのだ。
エステルのマッピングの手際もよかった。
モンスターはオーガやジャイアントスネイクが出たくらいで、すぐに片付いた。
俺はドラゴンブレードがないので、以前使っていた予備を帯剣していた。
だけど、俺が剣を抜く前にアーシェとティアが競うように殲滅してしまうのだ。
意外といいコンビだった。
冒険者ギルドに達成報告に向かい昼食を摂った後、午後からはアーシェはティアを伴って旅の買い物に出かけた。
俺は遺跡調査の書類が完成しそうだというエステルの隣で、それを眺めながらお茶を飲んでいた。
「もうすぐ完成しそう?」
「ええ、あと少しです」
「ティアの件はどういう風になっているんだ?」
「えっと、それは……いなかったことにしています」
「つまり地下ダンジョンの最下層には、火竜グラドルウィンしかいなかったことにしたのか?」
エステルは頷いた。
まぁ、そうするのが自然だろうな。
真実はあの場にいた者だけしか知らないことだし。
後はティアと火竜を氷漬けにした何者か。
その人物も普通に考えれば生きてはいないか。
いや……エルフだとあり得るのか?
「エステル、そんな作業ばかりじゃ気が滅入るだろう? 息抜きに剣の稽古でもしないか?」
「え、私剣術は……」
「ああ、エステルは短剣だったな。よし、それでやろう」
「あううう……」
「体を動かすと気分転換にもなるしさ。ほら、行こう」
「は、はいっ」
戸惑いながらも嬉しそうにしているエステルの手を取って、俺は家を出た。
***
俺達がネスタの街を発つ日がやって来た。
新しい剣も完成している。
名前は前と同じドラゴンブレードだ。
オヤジさんが言うには、やはり強度が上がっているという。
これなら俺の力にも耐えられそうだ。
王都にオヤジさんの弟さんがやっている工房があるらしいので、紹介状を書いてもらった。
これは非常に助かる。
困ったことがあれば気軽に相談しろと、最後に握手を交した。
昨日はスコット達が送迎会を催してくれたので、みんなで楽しみ会話も弾んだ。
最後はまた会おうと再会の約束も交してある。
結局、ミディールさん達には会えず終いだった。
やはりAランクともなると忙しいのだろう。
彼らへの手紙をマリーさんに預けてきてある。
王都からも手紙を出そう。
思えば、このネスタの街は本当の意味での冒険者としての始まりだった。
クエストに明け暮れてBランクまで昇格し、ドラゴン討伐まで達成した。
メルティは今頃どうしているかな。
彼女は今も旅芸人として、どこかの街を回っているのだろう。
王都に来ることもあるのだろうか。
マリーさんにはさっき冒険者ギルドで挨拶をしてきた。
彼女には本当にお世話になった。
もしマリーさんが担当じゃなかったら、こうも順調に事が運ばなかったかも知れない。
またいつか会えると信じよう。
俺は【剣の試練】の仲間をひとりずつ眺める。
アーシェ。
幼馴染みで俺のことを一番わかってくれている彼女は、本当に頼りになる。
「アーシェ、俺もっと頑張るよ。だから、これからも宜しくな」
「え、何よ急に。シスンが頑張っているのは私が一番わかっているわ。王都で活躍してお爺ちゃん達に胸を張って報告できるように、みんなで頑張りましょ」
ティア。
まだこの時代に慣れないことも多いだろうけど、一緒に頑張ろうな。
いつか、彼女が二千年の時を超えた謎を解明してあげたいな。
「ティア、お前の魔法に期待してるぞ。それから、この時代のことも色々勉強していこうな。俺も世間知らずだから、一緒に勉強するよ」
「ふっ、主様は勉強なぞせんでもよい。妾の持つ知識は全て主様のものなのじゃからな」
「……お、おう」
エステル。
ちょっとドジなところや他の二人に比べると戦力不足なところはあるけれど、彼女の知識は俺達の要だ。
これから先、火竜の迷宮レベルの地下ダンジョンが出現したら、力だけのゴリ押しだけでは厳しいだろう。
きっとエステルの力が必要だと思う。
「エステル、王都に行っても俺やみんなを助けてくれな。もちろん、エステルは俺が守るから」
「あ、え、私を守る……ですか? そ、それは……どういう?」
「ちょっとシスン! 今の言い方は……」
「何じゃ、何を盛り上がっておるのじゃ?」
「え、いや……誤解だ! 落ち着け、アーシェ!」
三人にわーわー言われながら揉みくちゃにされて、俺は何とか逃げ出した。
最後に、ネスタの街を目に焼き付けておこうと眺めた。
俺達はこれから王都に行く。
しばらくは、このネスタの街ともお別れだ。
王都で一回りも二回りも成長して、いつかここに帰ってこよう。
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「さよなら、ネスタ。またいつか」
俺達は新たな一歩を踏み出した。
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一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
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【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
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ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
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