18 / 106
攻撃魔法をぶっ放せ
しおりを挟む
翌朝、事情を知らない女将さんから窓ガラスの修理代を請求された俺は、素直に提示された金額を支払った。
アーシェは本当のことを説明しようとしていたが、そうしたところで宿を追い出されるだけだろう。
俺は代わりの部屋を用意して貰った。
二つ隣の部屋。
つまり、アーシェの隣の部屋だ。
「今日は予定どおりでいいの?」
朝食のパンを口に頬張りながら、アーシェが俺に尋ねた。
スコット達【希望の光】に魔法を教えて貰う予定に、変更はないかという確認だ。
俺は野菜を噛みしめつつ、予定どおりと頷いた。
「その後はスコット達に昼食を奢る約束だろ? 午後はメルティの興行の様子を見に行く。あ、その前に憲兵の詰所に行ってみよう」
「詰所に?」
俺は女将さんの作った肉を煮込んだスープを飲みながら、アンドレイについて考える。
エマ達とアンドレイの関係を詰めた方が良かったかも知れない。
昨夜はそこまで気が回らなかった。
まぁ、済んでしまったことは仕方がないとして、今日はアンドレイの住処を探ってみよう。
このまま、ネスタの街に帰るなんてできないからな。
冒険者ギルドはあてにならないし、憲兵の詰所で情報を集めよう。
俺達は街の入口で【希望の光】と合流した。
スコット達は冒険者ギルドでクエストを受注していた。
「どうせやるならクエストも兼ねた方が、報酬も貰えるしな。あ、ちゃんとお前らの名前も申請してあるから、冒険者ポイントと報酬は均等分けになるから安心してくれ」
「いや、それは流石に悪いよ。スコット達だけで受け取ってくれればいい」
「水くさいこと言うなって。同じギルドに所属する仲間なんだから」
スコットが固辞するので、俺はその厚意に甘えることにした。
今回スコットが受けたクエストは、エアの街から少し離れたところにある荒野でのモンスター狩りだ。
ダイアウルフという狼のモンスターが繁殖して、近隣の街や村の畑を荒らしているらしい。
「いきなり実戦でも、シスンなら大丈夫だわ。ね?」
「そうだな。魔法が実戦でどれほど効果があるのか試せるし、なにより街の人達も助かるだろう」
本来、Bランクパーティーが請け負うには簡単過ぎるクエストだが、結構な数が相手ということで、Bランクパーティーにクエストが回された経緯があった。
「お、いたいた。かなり多いな」
スコットが遠くを指しながら、俺に目配せした。
「ああ。確かに多いな。繁殖期なのか?」
「さあなー。俺達はクエストをこなすだけだ。ここなら周りに被害が出ることもないから、バンバン魔法がぶっ放せるぞー」
「スコットくん。相変わらず危険な発言だね……。魔法は遊びじゃないんだよ?」
スコットが【希望の光】の良識者である【魔法使い】に、たしなめられていた。
「スコット。それじゃあ、宜しく頼む」
「ああ。まずは……あまねく火の精霊よ、汝が司る紅蓮の炎を以て、立ちはだかる全ての敵を討ち滅ぼせ……」
スコットが詠唱を開始すると、スコットの右手に魔力が収束していくのがわかる。
その魔力は詠唱が進むにつれて膨れ上がり、スコットの右手からは深紅に燃え上がる炎が顕現した。
詠唱の呪文が必要ということは、これは中級以上の魔法か。
俺はスコットの一挙手一投足を頭に叩き込む。
「《ファイアストーム》!」
スコットがダイアウルフの群れに、《ファイアストーム》という魔法を放った。
ひりつくような熱風が、俺の頬を無遠慮に撫でた。
前方のダイアウルフの群れは、炎の竜巻に巻き込まれて無残にも焼かれていく。
辺りには肉の焼け焦げた臭いが広がった。
「これが《ファイアストーム》か!」
もしかしたら【光輝ある剣】にいた時にエマが使っていたかも知れないが、詠唱から発動まできちんと見るのは初めてだ。
その効果はダイアウルフの死骸を見れば一目瞭然だった。
群れの中心を狙ったため効果範囲から逃れたものもいるが、【希望の光】の紅一点である【精霊使い】が追撃する。
「シスンくん。今度は彼女の方を良く見ててください」
【魔法使い】に言われるまでもなく、俺は魔力を察してその挙動を視界に入れている。
「強固なる地の精霊の脈動……汝の領域を侵すものに鉄槌を下し……」
女性特有のしなやかな動作とは裏腹に、真剣な眼差しからは力強さを感じる。
地面から砂埃が舞い、魔力のこもった彼女の両手に、土や石が集まって巨大な塊を形成していった。
「大いなる大地にひれ伏せよ…」
俺もアーシェもその光景に釘付けだ。
「《ストーンフォール》!」
土と石でできたその巨大な塊は、彼女の手から離れるとダイアウルフの頭上へ飛んでいく。
《ストーンフォール》で踏み潰されたダイアウルフは、詠唱の呪文どおり地面にひれ伏した形だ。
さっきのスコットの《ファイアストーム》と合わせて、二十匹はダイアウルフを仕留めたが、まだ十匹は残っている。
「シスン。できる範囲でやってみろ。お前なら、上手くできる気がする」
「わかった」
俺は両手を前に突き出す。
二人が見せてくれた魔法は頭に深く刻まれている。
俺は息をひとつ吐いて、魔力を両手に注いだ。
確かこうやって、魔力を両手に集中させて……。
こうだっ!
「はあああああああっ!」
「「「!?」」」
荒れ狂う炎と巨大な落石が、ダイアウルフを襲う。
威力も申し分ない。
スコット達に勝るとも劣らない出来だった。
初めてにしては上々だ。
俺は右手から《ファイアストーム》を、そして左手からは《ストーンフォール》を放つことに成功していた。
それぞれの魔法は狙いどおりダイアウルフに直撃し、それらを全滅させた。
よし!
中級の攻撃魔法も無詠唱でできたぞ!
俺は達成感で満たされた。
「おい、スコット! できたぞ! 無詠唱でできた!」
「「「……………………!!!!!」」」
何故か、【希望の光】の面々は顎が外れそうなくらい口を大きく開けていた。
【神官】に至っては、地面に尻をつけていた。
そうか……、流石に中級魔法を無詠唱でできるとは、彼らも思ってなかったんだな……。
俺は頭をかきながら、スコットに声をかける。
「スコット……?」
「…………はっ! あ、ああ……ごめん。唖然としてた」
俺が首を傾げると、【魔法使い】がスコットの肩に手をやった。
「……スコットくん。……シスンくんは本物の天才のようです」
「シスン凄いわ! 天才だってー! 私はわかってたけどっ!」
アーシェが飛び跳ねて喜んでくれている。
ちょっと照れくさい。
「シスン……。お前今……何やったか、わかってるか?」
「え? 中級魔法を無詠唱で……」
「無詠唱どころじゃないって!」
「と言うと?」
「お前《ファイアストーム》と《ストーンフォール》二つの魔法を同時に発動したんだぞ?」
俺は何かおかしなことをしたのか……?
「え? マズかったのか?」
「そんなヤツ初めて見たし聞いたよ!」
他の【希望の光】のメンバーはこくこくと頷いた。
スコットの話では、普通だと魔法は一回発動してから次の魔法を発動するらしい。
俺がやったみたいに、二つの魔法を同時に放つなんて信じられないと驚いていた。
それから、狩り場を変えて他の魔法も教えて貰った。
今のところ二つ同時は可能だとわかった。
三つ同時を試してみたが、三つ別々の集中をするので骨が折れる。
できないこともないが、頭をそれに使う時間があるなら剣を抜いて斬った方が早いだろう。
だから、実用的なのは二つ同時までだと判断した。
こうして、俺は【希望の光】が習得している魔法を全て身につけた。
残念ながら、またしてもアーシェは詠唱込みでも失敗した。
だけど、落ち込んではいないようだ。
俺が習得できたから満足と言ってくれた。
「あーあ。たった一日で習得するなんて、お前なら古代魔法をも使いこなすかもな」
「スコットくん。確かにシスンくんは天才だけど、それはどうかな?」
「でもよ。シスンの無詠唱を見たら、期待せずにはいられないだろー?」
「…………それも、そうだね。シスンくんならいつか古代魔法を使えるかも知れないね」
スコットと【魔法使い】の会話を聞いて気になったので、古代魔法とは何か尋ねてみた。
古代魔法とはかつてこの世界で栄えた魔法文明時代に編み出された強力無比な魔法だそうだ。
その威力は上級魔法の比ではないと、昔の文献に残っているらしい。
「噂じゃ、Sランクパーティーで使えるヤツがいるとか、いないとか」
「そうなのか。本当に存在するなら一度見てみたいな」
「シスンなら、それを無詠唱でできるかもねー。その日が待ち遠しいわ」
アーシェが期待を込めて、キラキラと瞳を輝かせる。
一息ついたところで、スコットが話題を変えた。
「ところで、シスン。ひとつ聞いていいか?」
「何だ?」
「お前らはパーティー名を付けないのか?」
ほとんどの冒険者パーティーは名前を付けている。
俺が初めて所属した【光輝ある剣】や、スコット達の【希望の光】、そしてミディールさん達の【蒼天の竜】のようにだ。
名前のないパーティーもあるが、特にこだわりがなければ付けるのが慣習みたいなところがある。
スコット達だけじゃなく、以前からそれを尋ねる冒険者やギルド職員、街の人達は少なからずいた。
ドラゴンを倒して以後は特に顕著だった。
だけどその問いに、俺は例外なくこう答えていた。
「俺が目標を達成したらパーティー名を付けるんだ」
「え? 目標って何だよ? 教えろよー」
「スコット。それは、秘密なの。いつか、その日が来たらわかるわ。ね、シスン?」
俺とアーシェは見つめ合って頷く。
目標とは、俺が【剣聖】になること。
そしたら、俺とアーシェのパーティー名を付ける。
もうその名前は考えてある。
もちろん、アーシェにだけは伝えてあるし、彼女も賛成だった。
「さあ、スコット食事にしよう」
「何でも好きなものでいいわよー。シスンに魔法を教えてくれたんだもの。奮発するわ」
「お、おい。はぐらかさないで、教えてくれよー」
「きっと、近いうちにわかるわよ」
先頭を歩いていたアーシェが、満面の笑みで振り返った。
アーシェは本当のことを説明しようとしていたが、そうしたところで宿を追い出されるだけだろう。
俺は代わりの部屋を用意して貰った。
二つ隣の部屋。
つまり、アーシェの隣の部屋だ。
「今日は予定どおりでいいの?」
朝食のパンを口に頬張りながら、アーシェが俺に尋ねた。
スコット達【希望の光】に魔法を教えて貰う予定に、変更はないかという確認だ。
俺は野菜を噛みしめつつ、予定どおりと頷いた。
「その後はスコット達に昼食を奢る約束だろ? 午後はメルティの興行の様子を見に行く。あ、その前に憲兵の詰所に行ってみよう」
「詰所に?」
俺は女将さんの作った肉を煮込んだスープを飲みながら、アンドレイについて考える。
エマ達とアンドレイの関係を詰めた方が良かったかも知れない。
昨夜はそこまで気が回らなかった。
まぁ、済んでしまったことは仕方がないとして、今日はアンドレイの住処を探ってみよう。
このまま、ネスタの街に帰るなんてできないからな。
冒険者ギルドはあてにならないし、憲兵の詰所で情報を集めよう。
俺達は街の入口で【希望の光】と合流した。
スコット達は冒険者ギルドでクエストを受注していた。
「どうせやるならクエストも兼ねた方が、報酬も貰えるしな。あ、ちゃんとお前らの名前も申請してあるから、冒険者ポイントと報酬は均等分けになるから安心してくれ」
「いや、それは流石に悪いよ。スコット達だけで受け取ってくれればいい」
「水くさいこと言うなって。同じギルドに所属する仲間なんだから」
スコットが固辞するので、俺はその厚意に甘えることにした。
今回スコットが受けたクエストは、エアの街から少し離れたところにある荒野でのモンスター狩りだ。
ダイアウルフという狼のモンスターが繁殖して、近隣の街や村の畑を荒らしているらしい。
「いきなり実戦でも、シスンなら大丈夫だわ。ね?」
「そうだな。魔法が実戦でどれほど効果があるのか試せるし、なにより街の人達も助かるだろう」
本来、Bランクパーティーが請け負うには簡単過ぎるクエストだが、結構な数が相手ということで、Bランクパーティーにクエストが回された経緯があった。
「お、いたいた。かなり多いな」
スコットが遠くを指しながら、俺に目配せした。
「ああ。確かに多いな。繁殖期なのか?」
「さあなー。俺達はクエストをこなすだけだ。ここなら周りに被害が出ることもないから、バンバン魔法がぶっ放せるぞー」
「スコットくん。相変わらず危険な発言だね……。魔法は遊びじゃないんだよ?」
スコットが【希望の光】の良識者である【魔法使い】に、たしなめられていた。
「スコット。それじゃあ、宜しく頼む」
「ああ。まずは……あまねく火の精霊よ、汝が司る紅蓮の炎を以て、立ちはだかる全ての敵を討ち滅ぼせ……」
スコットが詠唱を開始すると、スコットの右手に魔力が収束していくのがわかる。
その魔力は詠唱が進むにつれて膨れ上がり、スコットの右手からは深紅に燃え上がる炎が顕現した。
詠唱の呪文が必要ということは、これは中級以上の魔法か。
俺はスコットの一挙手一投足を頭に叩き込む。
「《ファイアストーム》!」
スコットがダイアウルフの群れに、《ファイアストーム》という魔法を放った。
ひりつくような熱風が、俺の頬を無遠慮に撫でた。
前方のダイアウルフの群れは、炎の竜巻に巻き込まれて無残にも焼かれていく。
辺りには肉の焼け焦げた臭いが広がった。
「これが《ファイアストーム》か!」
もしかしたら【光輝ある剣】にいた時にエマが使っていたかも知れないが、詠唱から発動まできちんと見るのは初めてだ。
その効果はダイアウルフの死骸を見れば一目瞭然だった。
群れの中心を狙ったため効果範囲から逃れたものもいるが、【希望の光】の紅一点である【精霊使い】が追撃する。
「シスンくん。今度は彼女の方を良く見ててください」
【魔法使い】に言われるまでもなく、俺は魔力を察してその挙動を視界に入れている。
「強固なる地の精霊の脈動……汝の領域を侵すものに鉄槌を下し……」
女性特有のしなやかな動作とは裏腹に、真剣な眼差しからは力強さを感じる。
地面から砂埃が舞い、魔力のこもった彼女の両手に、土や石が集まって巨大な塊を形成していった。
「大いなる大地にひれ伏せよ…」
俺もアーシェもその光景に釘付けだ。
「《ストーンフォール》!」
土と石でできたその巨大な塊は、彼女の手から離れるとダイアウルフの頭上へ飛んでいく。
《ストーンフォール》で踏み潰されたダイアウルフは、詠唱の呪文どおり地面にひれ伏した形だ。
さっきのスコットの《ファイアストーム》と合わせて、二十匹はダイアウルフを仕留めたが、まだ十匹は残っている。
「シスン。できる範囲でやってみろ。お前なら、上手くできる気がする」
「わかった」
俺は両手を前に突き出す。
二人が見せてくれた魔法は頭に深く刻まれている。
俺は息をひとつ吐いて、魔力を両手に注いだ。
確かこうやって、魔力を両手に集中させて……。
こうだっ!
「はあああああああっ!」
「「「!?」」」
荒れ狂う炎と巨大な落石が、ダイアウルフを襲う。
威力も申し分ない。
スコット達に勝るとも劣らない出来だった。
初めてにしては上々だ。
俺は右手から《ファイアストーム》を、そして左手からは《ストーンフォール》を放つことに成功していた。
それぞれの魔法は狙いどおりダイアウルフに直撃し、それらを全滅させた。
よし!
中級の攻撃魔法も無詠唱でできたぞ!
俺は達成感で満たされた。
「おい、スコット! できたぞ! 無詠唱でできた!」
「「「……………………!!!!!」」」
何故か、【希望の光】の面々は顎が外れそうなくらい口を大きく開けていた。
【神官】に至っては、地面に尻をつけていた。
そうか……、流石に中級魔法を無詠唱でできるとは、彼らも思ってなかったんだな……。
俺は頭をかきながら、スコットに声をかける。
「スコット……?」
「…………はっ! あ、ああ……ごめん。唖然としてた」
俺が首を傾げると、【魔法使い】がスコットの肩に手をやった。
「……スコットくん。……シスンくんは本物の天才のようです」
「シスン凄いわ! 天才だってー! 私はわかってたけどっ!」
アーシェが飛び跳ねて喜んでくれている。
ちょっと照れくさい。
「シスン……。お前今……何やったか、わかってるか?」
「え? 中級魔法を無詠唱で……」
「無詠唱どころじゃないって!」
「と言うと?」
「お前《ファイアストーム》と《ストーンフォール》二つの魔法を同時に発動したんだぞ?」
俺は何かおかしなことをしたのか……?
「え? マズかったのか?」
「そんなヤツ初めて見たし聞いたよ!」
他の【希望の光】のメンバーはこくこくと頷いた。
スコットの話では、普通だと魔法は一回発動してから次の魔法を発動するらしい。
俺がやったみたいに、二つの魔法を同時に放つなんて信じられないと驚いていた。
それから、狩り場を変えて他の魔法も教えて貰った。
今のところ二つ同時は可能だとわかった。
三つ同時を試してみたが、三つ別々の集中をするので骨が折れる。
できないこともないが、頭をそれに使う時間があるなら剣を抜いて斬った方が早いだろう。
だから、実用的なのは二つ同時までだと判断した。
こうして、俺は【希望の光】が習得している魔法を全て身につけた。
残念ながら、またしてもアーシェは詠唱込みでも失敗した。
だけど、落ち込んではいないようだ。
俺が習得できたから満足と言ってくれた。
「あーあ。たった一日で習得するなんて、お前なら古代魔法をも使いこなすかもな」
「スコットくん。確かにシスンくんは天才だけど、それはどうかな?」
「でもよ。シスンの無詠唱を見たら、期待せずにはいられないだろー?」
「…………それも、そうだね。シスンくんならいつか古代魔法を使えるかも知れないね」
スコットと【魔法使い】の会話を聞いて気になったので、古代魔法とは何か尋ねてみた。
古代魔法とはかつてこの世界で栄えた魔法文明時代に編み出された強力無比な魔法だそうだ。
その威力は上級魔法の比ではないと、昔の文献に残っているらしい。
「噂じゃ、Sランクパーティーで使えるヤツがいるとか、いないとか」
「そうなのか。本当に存在するなら一度見てみたいな」
「シスンなら、それを無詠唱でできるかもねー。その日が待ち遠しいわ」
アーシェが期待を込めて、キラキラと瞳を輝かせる。
一息ついたところで、スコットが話題を変えた。
「ところで、シスン。ひとつ聞いていいか?」
「何だ?」
「お前らはパーティー名を付けないのか?」
ほとんどの冒険者パーティーは名前を付けている。
俺が初めて所属した【光輝ある剣】や、スコット達の【希望の光】、そしてミディールさん達の【蒼天の竜】のようにだ。
名前のないパーティーもあるが、特にこだわりがなければ付けるのが慣習みたいなところがある。
スコット達だけじゃなく、以前からそれを尋ねる冒険者やギルド職員、街の人達は少なからずいた。
ドラゴンを倒して以後は特に顕著だった。
だけどその問いに、俺は例外なくこう答えていた。
「俺が目標を達成したらパーティー名を付けるんだ」
「え? 目標って何だよ? 教えろよー」
「スコット。それは、秘密なの。いつか、その日が来たらわかるわ。ね、シスン?」
俺とアーシェは見つめ合って頷く。
目標とは、俺が【剣聖】になること。
そしたら、俺とアーシェのパーティー名を付ける。
もうその名前は考えてある。
もちろん、アーシェにだけは伝えてあるし、彼女も賛成だった。
「さあ、スコット食事にしよう」
「何でも好きなものでいいわよー。シスンに魔法を教えてくれたんだもの。奮発するわ」
「お、おい。はぐらかさないで、教えてくれよー」
「きっと、近いうちにわかるわよ」
先頭を歩いていたアーシェが、満面の笑みで振り返った。
10
お気に入りに追加
1,515
あなたにおすすめの小説
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる