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興行
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しばらく歩くとエアの街に着いた。
ネスタの街より幾分小さいが、活気のある街だった。
俺達は宿をとり街を散策する。
「街の規模にしては、結構人が多いな」
「街道が封鎖されてた影響もあるんじゃないかしら」
「そうだな。宿の女将さんの話では、メルティの興行は明日から南の広場で始まるそうだ」
「それは、いいタイミングだったわね」
メルティやその家族もこの街にいるんだろうが、どこの宿にいるのかはわからない。
明日になれば会えるのだし、今日は休暇を満喫しよう。
俺はアーシェと一緒に街を見て回ったり買い物をした。
ドワーフのオヤジさんへの土産に、強そうな酒をいくつか見繕う。
「何か滅茶苦茶強そうな酒を買えたぞ」
「お店の人が、ドワーフ向けのお酒だから人間は飲んじゃ駄目って言っていたもの。相当キツイはずだわ」
「オヤジさん喜びそうだな」
俺はオヤジさんの喜ぶ顔を想像してアーシェと顔を合わせて笑った。
***
翌日、俺達が南の広場に行くと、人だかりができていた。
どうやら、街の人達も興行を楽しみにしていたらしい。
「シスンさん、アーシェさん、待ってましたぁ」
「あ、メルティ! 来たわよー」
俺とアーシェは後ろの方にいたのだが、メルティの方から見つけて声をかけてくれた。
そして、家族を紹介したいと言われたので、メルティについて行った。
広場に設置された舞台の裏に案内された俺達は、メルティの家族と対面する。
「おお、あなた方がシスンさんとアーシェさんですか! 娘が世話になったようで、感謝します。それに、バラフ山脈のドラゴンを倒して街道の封鎖を解除していただいたとか……。本当にありがとうございました。これで、私達も無事に興行を行うことができます」
「気にしないでください。今日の興行楽しみにしています」
メルティのお父さんが頭を深々と下げて、感謝の言葉を述べた。
あとはメルティのお母さんや、他の兄妹を紹介された。
下の妹三人は舞台の脇に停めてある馬車の中で眠っているらしい。
まだ幼いから舞台には上がらないようだ。
寝顔を見に行くと、すやすやと心地よさそうに眠っている。
「可愛らしいわね。三人とも、メルティにそっくりね」
「本当にぃ? 何だかうれしいわぁ」
興行が始まるまで、俺とアーシェはそんな妹達を眺めながら会話を楽しんだ。
「それではぁ、シスンさん、アーシェさん、もうすぐ始まりますのでぇ、楽しんでくださいねぇ。ふふふぅ」
「ええ。メルティ、頑張ってね」
「楽しみに見させてもらうよ」
メルティは意味深な笑みを浮かべながら舞台袖に消えていった。
何だろう?
そんなに凄い出し物でもあるのだろうか?
やがて、メルティ達の興行が始まった。
まず最初に登場したのは、メルティとお姉さんだ。
二人の一糸乱れぬ華麗な踊りが、人々を魅了する。
お父さんが太鼓を叩き、お母さんが笛を吹いて、踊りに合った音を奏でている。
「わあ! キラキラした綺麗な衣装! 音楽も踊りに合っているわねー。お客さんにも人気があるみたいだわ。お姉さんとメルティ二人で看板娘なのかしら?」
「周りの反応を見ると、そうみたいだな。旅芸人の芸って初めてみたよ」
「確かにそうね。うちの村じゃね……」
二人して故郷のイゴーリ村の田舎っぷりを思い出してしまい、ぷっと吹きだした。
メルティの踊りが終わり。
観客から声援が飛び交い大盛況だった。
続いて、弟が玉乗りをしながら登場した。
「おお、メルティの弟だぞ」
「器用なのね。ねぇ、玉乗りしながら輪投げもしてるわよ」
その他にも家族が交代で芸を披露していく。
そして、驚いたのは興行の終盤。
なんと、寸劇が始まったのだ。
内容は山の街道を通せんぼするドラゴンをやっつける、少年と少女の物語だった。
ドラゴンに扮するお兄さん相手に、メルティと弟が戦っている。
「ねぇ、シスン。あれって私達のことだよね? ふふ、メルティが私の役なのね」
「うん。メルティは俺達が見に来るから、きっとこの劇を追加で考えてくれたんだろう」
「何だか、嬉しいわね」
「ああ。エアの街に来て良かったな」
物語の最後にドラゴンを一刀両断した少年は、有名冒険者の仲間入りを果たしたという締めくくりだ。
寸劇が終わると、観客はおおいに満足したようだった。
人だかりが落ち着いて一段落したので、俺達はメルティにねぎらいの言葉をかけようと舞台裏に向かった。
そこには慌てふためくメルティとその家族がいた。
「メルティ、どうしたんだ?」
俺はその状況を見て、咄嗟にメルティに尋ねた。
彼女は涙を浮かべながら、戸惑っていた。
他の家族も同様だ。
「妹がぁ、カタリナがいなくなったんですぅ!」
「何だって……!?」
話を聞くと、馬車で眠っていた妹の内、一番末っ子の四歳の妹、カタリナがいなくなったらしい。
メルティが言うには、興行が始まる直前にはまだ眠っていたそうだ。
一緒に寝ていた妹二人は、興行の途中で、お腹が空いたと馬車を出ていったのを見たという。
彼女達はまだ六歳と五歳なので、何故止めなかったと叱るわけにはいかない。
「俺がちゃんと見てなかったから……」
俺は今にも泣きそうな弟の肩を叩いて安心させる。
「俺に任せろ。アーシェ、探しに行くぞ」
「ええ。メルティ、何かわかったらここへ報せにくるわ」
メルティのお父さんとお母さんが下の妹二人とここへ残り、お兄さんとお姉さん、弟とメルティがそれぞれ一緒に手分けして探す手筈になった。
それぞれが違う方向に向けて走り出した。
俺とアーシェも当然、捜索を開始する。
顔は覚えている。
自分で歩いて行ったのなら、そんなに遠くには行ってないはずだが、もし攫われたりしていたら……。
「アーシェ。上から見てくれ」
「ええ、わかったわ」
俺のやろうとしていることを、アーシェはすぐに理解してくれる。
アーシェが距離を取って離れる。
俺は腰を低くして、地面に足を植え付けるようにしっかりと踏みしめた。
そこへ走って来たアーシェが、俺が重ねた両手に跳び乗った。
「いくぞ、アーシェ!」
「任せて!」
俺が両手に乗ったアーシェを上空に投げ飛ばすと同時に、彼女も大きく跳躍する。
空を見上げると、アーシェは素早く辺りを見回していた。
これで、上空から街を一望しているはず。
アーシェの方が俺より目がいいので、より遠くのものを視認しやすい。
「見つけたわ!」
上空から落ちてきたアーシェを抱きとめる。
自分で着地できるはずだが、俺が受け止めないと怒るので、そうする。
アーシェを先頭に、俺達は街の通りを駆け抜ける。
いくつかの通りを抜けて、俺達はカタリナを見つけた。
「カタリナ!」
「ふぇぇ……?」
カタリナは自分の名前を呼ばれて驚いていた。
あ、そう言えばカタリナは俺やアーシェの顔を知らないんだっけ。
こいうのは女のアーシェの方が得意か……。
俺はアーシェに任せることにした。
「カタリナちゃーん。メルティお姉ちゃんのところへ、一緒に帰りましょ」
アーシェがしゃがんで両手を広げると、カタリナは警戒しながらもよちよちと歩み始めた。
流石アーシェだな。
俺が同じことをやっていたら、カタリナは怖がったかも知れない。
俺が安心していると……。
「その子どもを渡して貰いましょうか」
急に現れた太った男が、カタリナの腕を掴んだ。
男の周りに十数人の屈強な男が駆けつける。
「止めろ。その子は知り合いの妹なんだ」
「本当ですか? ですが、証拠がありませんね。私にはそれを信じる術がない」
カタリナは今にも泣き出しそうだ。
「あんたは、誰だ? 子どもが怯えているじゃないか」
「そうよ。こんな小さい子をどうしようっていうのよ」
「私は商人のアンドレイと言います。その子は私が見つけた商品ですので、渡して貰わないと困るのです」
アンドレイ……?
あ、ミディールさんが近づくなって言ってたヤツだ!
俺は思わぬ形で奴隷商人アンドレイと遭遇した。
ネスタの街より幾分小さいが、活気のある街だった。
俺達は宿をとり街を散策する。
「街の規模にしては、結構人が多いな」
「街道が封鎖されてた影響もあるんじゃないかしら」
「そうだな。宿の女将さんの話では、メルティの興行は明日から南の広場で始まるそうだ」
「それは、いいタイミングだったわね」
メルティやその家族もこの街にいるんだろうが、どこの宿にいるのかはわからない。
明日になれば会えるのだし、今日は休暇を満喫しよう。
俺はアーシェと一緒に街を見て回ったり買い物をした。
ドワーフのオヤジさんへの土産に、強そうな酒をいくつか見繕う。
「何か滅茶苦茶強そうな酒を買えたぞ」
「お店の人が、ドワーフ向けのお酒だから人間は飲んじゃ駄目って言っていたもの。相当キツイはずだわ」
「オヤジさん喜びそうだな」
俺はオヤジさんの喜ぶ顔を想像してアーシェと顔を合わせて笑った。
***
翌日、俺達が南の広場に行くと、人だかりができていた。
どうやら、街の人達も興行を楽しみにしていたらしい。
「シスンさん、アーシェさん、待ってましたぁ」
「あ、メルティ! 来たわよー」
俺とアーシェは後ろの方にいたのだが、メルティの方から見つけて声をかけてくれた。
そして、家族を紹介したいと言われたので、メルティについて行った。
広場に設置された舞台の裏に案内された俺達は、メルティの家族と対面する。
「おお、あなた方がシスンさんとアーシェさんですか! 娘が世話になったようで、感謝します。それに、バラフ山脈のドラゴンを倒して街道の封鎖を解除していただいたとか……。本当にありがとうございました。これで、私達も無事に興行を行うことができます」
「気にしないでください。今日の興行楽しみにしています」
メルティのお父さんが頭を深々と下げて、感謝の言葉を述べた。
あとはメルティのお母さんや、他の兄妹を紹介された。
下の妹三人は舞台の脇に停めてある馬車の中で眠っているらしい。
まだ幼いから舞台には上がらないようだ。
寝顔を見に行くと、すやすやと心地よさそうに眠っている。
「可愛らしいわね。三人とも、メルティにそっくりね」
「本当にぃ? 何だかうれしいわぁ」
興行が始まるまで、俺とアーシェはそんな妹達を眺めながら会話を楽しんだ。
「それではぁ、シスンさん、アーシェさん、もうすぐ始まりますのでぇ、楽しんでくださいねぇ。ふふふぅ」
「ええ。メルティ、頑張ってね」
「楽しみに見させてもらうよ」
メルティは意味深な笑みを浮かべながら舞台袖に消えていった。
何だろう?
そんなに凄い出し物でもあるのだろうか?
やがて、メルティ達の興行が始まった。
まず最初に登場したのは、メルティとお姉さんだ。
二人の一糸乱れぬ華麗な踊りが、人々を魅了する。
お父さんが太鼓を叩き、お母さんが笛を吹いて、踊りに合った音を奏でている。
「わあ! キラキラした綺麗な衣装! 音楽も踊りに合っているわねー。お客さんにも人気があるみたいだわ。お姉さんとメルティ二人で看板娘なのかしら?」
「周りの反応を見ると、そうみたいだな。旅芸人の芸って初めてみたよ」
「確かにそうね。うちの村じゃね……」
二人して故郷のイゴーリ村の田舎っぷりを思い出してしまい、ぷっと吹きだした。
メルティの踊りが終わり。
観客から声援が飛び交い大盛況だった。
続いて、弟が玉乗りをしながら登場した。
「おお、メルティの弟だぞ」
「器用なのね。ねぇ、玉乗りしながら輪投げもしてるわよ」
その他にも家族が交代で芸を披露していく。
そして、驚いたのは興行の終盤。
なんと、寸劇が始まったのだ。
内容は山の街道を通せんぼするドラゴンをやっつける、少年と少女の物語だった。
ドラゴンに扮するお兄さん相手に、メルティと弟が戦っている。
「ねぇ、シスン。あれって私達のことだよね? ふふ、メルティが私の役なのね」
「うん。メルティは俺達が見に来るから、きっとこの劇を追加で考えてくれたんだろう」
「何だか、嬉しいわね」
「ああ。エアの街に来て良かったな」
物語の最後にドラゴンを一刀両断した少年は、有名冒険者の仲間入りを果たしたという締めくくりだ。
寸劇が終わると、観客はおおいに満足したようだった。
人だかりが落ち着いて一段落したので、俺達はメルティにねぎらいの言葉をかけようと舞台裏に向かった。
そこには慌てふためくメルティとその家族がいた。
「メルティ、どうしたんだ?」
俺はその状況を見て、咄嗟にメルティに尋ねた。
彼女は涙を浮かべながら、戸惑っていた。
他の家族も同様だ。
「妹がぁ、カタリナがいなくなったんですぅ!」
「何だって……!?」
話を聞くと、馬車で眠っていた妹の内、一番末っ子の四歳の妹、カタリナがいなくなったらしい。
メルティが言うには、興行が始まる直前にはまだ眠っていたそうだ。
一緒に寝ていた妹二人は、興行の途中で、お腹が空いたと馬車を出ていったのを見たという。
彼女達はまだ六歳と五歳なので、何故止めなかったと叱るわけにはいかない。
「俺がちゃんと見てなかったから……」
俺は今にも泣きそうな弟の肩を叩いて安心させる。
「俺に任せろ。アーシェ、探しに行くぞ」
「ええ。メルティ、何かわかったらここへ報せにくるわ」
メルティのお父さんとお母さんが下の妹二人とここへ残り、お兄さんとお姉さん、弟とメルティがそれぞれ一緒に手分けして探す手筈になった。
それぞれが違う方向に向けて走り出した。
俺とアーシェも当然、捜索を開始する。
顔は覚えている。
自分で歩いて行ったのなら、そんなに遠くには行ってないはずだが、もし攫われたりしていたら……。
「アーシェ。上から見てくれ」
「ええ、わかったわ」
俺のやろうとしていることを、アーシェはすぐに理解してくれる。
アーシェが距離を取って離れる。
俺は腰を低くして、地面に足を植え付けるようにしっかりと踏みしめた。
そこへ走って来たアーシェが、俺が重ねた両手に跳び乗った。
「いくぞ、アーシェ!」
「任せて!」
俺が両手に乗ったアーシェを上空に投げ飛ばすと同時に、彼女も大きく跳躍する。
空を見上げると、アーシェは素早く辺りを見回していた。
これで、上空から街を一望しているはず。
アーシェの方が俺より目がいいので、より遠くのものを視認しやすい。
「見つけたわ!」
上空から落ちてきたアーシェを抱きとめる。
自分で着地できるはずだが、俺が受け止めないと怒るので、そうする。
アーシェを先頭に、俺達は街の通りを駆け抜ける。
いくつかの通りを抜けて、俺達はカタリナを見つけた。
「カタリナ!」
「ふぇぇ……?」
カタリナは自分の名前を呼ばれて驚いていた。
あ、そう言えばカタリナは俺やアーシェの顔を知らないんだっけ。
こいうのは女のアーシェの方が得意か……。
俺はアーシェに任せることにした。
「カタリナちゃーん。メルティお姉ちゃんのところへ、一緒に帰りましょ」
アーシェがしゃがんで両手を広げると、カタリナは警戒しながらもよちよちと歩み始めた。
流石アーシェだな。
俺が同じことをやっていたら、カタリナは怖がったかも知れない。
俺が安心していると……。
「その子どもを渡して貰いましょうか」
急に現れた太った男が、カタリナの腕を掴んだ。
男の周りに十数人の屈強な男が駆けつける。
「止めろ。その子は知り合いの妹なんだ」
「本当ですか? ですが、証拠がありませんね。私にはそれを信じる術がない」
カタリナは今にも泣き出しそうだ。
「あんたは、誰だ? 子どもが怯えているじゃないか」
「そうよ。こんな小さい子をどうしようっていうのよ」
「私は商人のアンドレイと言います。その子は私が見つけた商品ですので、渡して貰わないと困るのです」
アンドレイ……?
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