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第2章 「俺の【成り上がり】編」(俺が中二で妹が小四編)
第52話 俺の【四大元素】は進化する
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俺の放った【紫電龍顎衝】は火村に直撃した。感電したように小刻みに痙攣した火村は、その場に膝をつき頭を垂れた。
か、勝った! 俺が一撃でランクA級の【逆徒】を倒したっ!
「しゃあああああっ!」
俺は勝利の雄叫びを上げて、ガッツポーズを取った。
「坊主! まだや! 追撃せんかいっ!」
突如響いた葛葉さんの怒鳴り声に、俺は勝利の余韻から我に返る。背中に冷たいものが走る。
油断。
火村は俺を舐めてかかって油断した。俺は火村を倒したと思って油断した。
刹那――――、火村がその姿勢から俺の背後へと回り込んだ。俺の後ろには菜月がいる。
「くそっ!」
俺が振り向いた時には菜月を羽交い締めにした火村の姿があった。恐怖で顔を引きつらせている菜月の頬にナイフを触れさせている。首筋ではなく、菜月の恐怖心を煽るためにわざと視界に入るように頬にナイフをあてているのだ。
「動かないでくださねぇ。この可愛らしい顔に傷がついてもいいのなら別ですが」
菜月を人質に取られたっ! 俺は怒りで爆発しそうだった。それを留まらせたのは、背後から聞こえた葛葉さんの声だ。
「火村、人質の交換や! お前の【増幅者】の姉ちゃんを離すから、菜月を離さんかい!」
俺の背後から葛葉さんの声がする。人質の交換……? 俺は火村を警戒しながら、僅かに首を動かして葛葉さんのほうを見た。
そこにいたのは火村の【増幅者】にして、伯父さんの店でバイトしていたお姉さんだった。葛葉さんが取り押さえていて、身動きが取れない状態だ。
葛葉さんだけじゃない。火村の攻撃から立ち直った椎名先輩、マイちゃん、星川先輩に郡道さんや西野課長まで包囲している。
「はて、この可愛らしいお嬢さんと交換する人質はどこでしょう? 僕には何も見えませんが」
火村が本当にわからないよいう風に、首を横に振る。俺たちは一瞬戸惑った。だが、火村の【増幅者】には意図が理解できたようだ。
「火村様。ご武運を」
火村の【増幅者】は口を大きく開けて舌を出した。
お、おい……まさか!?
俺の予想どおり【増幅者】は自らの舌を噛み切ろうと、口を閉じるつもりだ! 火村の足手まといになるのを嫌って、簡単に死を選ぶって正気かよっ!?
「アホかぁっ! 痛っ……、うぐぁあああっ!」
葛葉さんが【増幅者】が口を閉じる前に、自分の指を口内に突っ込んだ。
これで【増幅者】の自害は防げた。あとは葛葉さんたちが対処するだろう。この隙に俺は菜月を助け出そうと、振り向きざま火村に接近する。火村のナイフが菜月を襲う前に、ブン殴るっ!
「!?」
拳を振りかぶった俺の目の前には火村と菜月、そしてその背後には杖を背中から突き刺そうとしている長老がいた。長老も動いていたのか! 火村は一瞬躊躇ったあと、菜月を突き飛ばして周囲に張り巡らされた【結界】へ向かって駆け出した。
「菜月っ!」
「お兄ちゃぁぁんっ!」
突き飛ばされた菜月を空中でキャッチする。
「小僧! 火村を追えっ!」
俺は菜月を確保した時点で、火村に向かって走り出していた。
「絶対逃がすな!」
「「はい!」」
西野課長の怒号が飛び、それに応える郡道さんと星川先輩の声が聞こえた。西野課長に言われなくともわかっている。こんな殺人狂を野放しにはできない。この機会を逃せば、今度はいつ遭遇できるかわからないからな。一番許せないのは菜月を怖がらせたことだ! 火村は絶対に俺が倒すっ!
俺は【四大元素】で加速して火村を追いかける。俺のほうが速いっ! 四秒で火村に手が届くまで追いついた。
「逃がさない! ここでお前をぶっ倒す!」
「やりますねぇ! それでは僕の【異能】も見せますか」
火村の【異能】の圧を感じる。だが、菜月の【増幅】を受けている俺の【四大元素】があれば戦える!
俺と火村の攻防が始まった。
火村が左右の手にナイフを握る。もちろん、【異能】を纏ったナイフ攻撃だ。俺はナイフに触れないように、空気の流れで壁を作り捌いていく。
模擬戦を経験していて良かった。落ち着いてやれば、十分戦える!
「では、これはどうですかねぇ」
「なっ……!?」
両者立ち止まり激しく腕を動かしての攻防中に、火村が大きく息を吸い込んだ。次の瞬間、俺を襲ったのは火村の吐いた炎だった。
火を吐いた!? これも【異能】かよっ! ファンタジー世界のドラゴンじゃあるまいし!
俺は即座に背後の菜月を抱いて、大きく後ろに跳んだ。
火村の吐いた炎は、火炎放射器の如く地面を焦がす。
丁度火村の背後から郡道さんと星川先輩が追いついて、二人がかりで交戦する。
「懲りない人ですねぇ。あなたでは僕にかてませんよぉ」
「勝ってから言いなさいっ!」
「隼人っち! 今の内にもう一回なっちゃんと【増幅】して! あーしと郡道さんで時間を稼ぐから!」
星川先輩が火村のナイフを弾きながら叫ぶ。
二人がかりでも僅かに押しているのは火村だ。俺は星川先輩と郡道さんが戦っている間に菜月と再度【増幅】する。
「菜月! もう一回【増幅】だ!」
「うん! わかった!」
菜月が土台を作り跳び乗った。そして俺の胸へと手を回す。
十秒欲しい。十秒あれば、俺が火村をぶっ倒す!
しかし火村は星川先輩たちの攻撃を躱すと、俺とは反対方向へ走り出す。
「しまった!」
郡道さんが声を漏らすが、一息の間に火村は速度を上げて自らの【増幅者】へと向かう。
火村も【増幅】する気か!? ただでさえ強いのに、これ以上力を増されたらヤバい!
俺は菜月を背負ったまま追いかける!
「菜月! このまま火村を追いかけるぞ!」
「うん! 大丈夫! 時間はかかるけど【増幅】はできるからっ!」
「よし!」
疾走する火村の前に、西野課長が立ちはだかる。火村は攻撃を躱して、西野課長を吹き飛ばした。
「邪魔ですねぇ」
「ぐはっ!」
【増幅者】に近づけるものかと、椎名先輩とマイちゃんが火村の行く手を遮った。
「ここは通さないわ!」
「ちぃ姉! 【増幅】完了っ!」
【増幅】を終えた椎名先輩が、正拳突きを放った。だが、その右拳を火村はナイフを捨てて左手で受け止める!
「嘘!?」
椎名先輩が驚きを見せたあと、そのまま火村に投げられて宙を舞った。
「椎名先輩っ!」
俺の叫びも虚しく、巻き添えを食らったマイちゃんと共に地面に体を打ち付ける。
そして、葛葉さんの背後に回り込んだ火村は炎を吐いた。たまらず葛葉さんは拘束していた【増幅者】を離すしかなかった。その隙に火村は【増幅者】の手を取って、大きく跳んだ。
「僕も【増幅】するとしましょうか。これだけの人数相手なので、僕も本気でやらせてもらいますよぉ」
「火村様、んっ……」
言って火村が【増幅者】と口づけを交した。途端、火村の【異能】の圧が爆発的に増したような気がした。火村の【増幅者】はそのまま力尽きた風に、地面に膝をついた。
「菜月、ここで降りろ」
「え!?」
走りながら、俺は菜月に言った。菜月は目を丸くするが、力を増した火村がどんな攻撃をしてくるか予想ができない。
「菜月は恐い思いもしたのに、十分頑張ってくれた。あとはお兄ちゃんに任せておけ!」
「えっ!? えっ!?」
横目で椎名先輩とマイちゃんを確認すると、大きな怪我はしていないようだった。今立ち上がろうとしている最中だ。俺は背中の菜月を抱き寄せて、椎名先輩に向かって放り投げた。
「椎名先輩! 菜月を頼みます!」
「お、お兄ちゃん!?」
「隼人くん!?」
椎名先輩は戸惑いながらも、優しく菜月を抱きとめてくれた。
これで、目の前のクソ野郎に集中できる。俺は火村の圧を感じながら、一気に間合いを詰める。
「きみが相手ですかぁ。せいぜい楽しませてくださいねぇ」
「うるせぇ! このクソ野郎がっ!」
【増幅】した俺の【四大元素】と火村の【異能】。互いの力がぶつかり合う!
「おらああああああっ!」
「気合いだけは十分ですねぇ。それで、実力が伴っていれば最高なんで……ん?」
余裕の笑みを浮かべていた火村の左頬に、俺の渾身の右ストレートが綺麗に決まった。火村は大きく仰け反る。
効いている! 俺の攻撃が効いている!
俺は今、火村の速度を僅かに上回ったのを感じていた。俺の連打が火村をサンドバックのように打ちのめす。
「な……、これは!?」
「おらおらおらっ! 俺の【四大元素】はお前の【異能】より強い! ただ、それだけ、だっ!」
俺の【四大元素】が、この戦いの中で、火村との命のやり取りの中で、進化しているのだ。この機を逃すわけにはいかない。俺は一心不乱に攻め立てた。
火村が大きく体勢を崩す。もう立っているのもやっとだろう。火村を仕留めるつもりで、俺は最後の攻撃を繰り出そうとした。
だが、急にスローモーションのように俺の動きが格段に落ちる。
ペシッ。
俺の最後の攻撃は、俺の右拳は火村の左頬を撫でるに留まった。
……え!?
俺が一瞬呆けた隙に、火村は俺の腹に蹴りを入れる。俺は激しい痛みに両膝をついて胃の中のものを吐き出した。
「おええええええっ!」
「素人ですねぇ。一瞬冷やっとしましたが、【異能】を消耗したようですねぇ。僕をここまで苦しめるとは見込みがありますが、残念ですがお別れです。死んでもらいますよぉ」
火村が冷たい目で手刀を振り上げる。
か。体に力が入らない……! 俺はこのまま殺されるのか!?
火村の手刀が迫って、俺は万事休すと目をギュッと閉じた。
「くっ! あきらめんなや、坊主!」
「く、葛葉さん!?」
火村の手刀から身を挺して庇ってくれたのは葛葉さんだった。葛葉さんの胸から鮮血が飛び散り、俺の顔にも血がついた。
「葛葉さん!? どうして!?」
「俺らの勝ちや。勝ったのに坊主がおらんと胸くそ悪いやんけ……」
「えっ!?」
葛葉さん越しに火村の背後を見た瞬間――――、俺は勝利を確信した。
「ふぅ、ここは撤退させてもらいますが、ひとりぐらいの命はもらっておきましょうかねぇ。僕を確実に仕留めるならS級の御伽原は必須でしょう。何故ここにいないかは知りま…………」
「待たせたな、火村」
火村の背後で蘭子さんが言い放つと、周囲の温度が下がったように感じた。
ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザシュッ!
蘭子さんの放ったであろう【異能】は鋭く尖った氷の刃を作りだし。その七本の刃は火村の背中から胸や腹に貫通した。
か、勝った! 俺が一撃でランクA級の【逆徒】を倒したっ!
「しゃあああああっ!」
俺は勝利の雄叫びを上げて、ガッツポーズを取った。
「坊主! まだや! 追撃せんかいっ!」
突如響いた葛葉さんの怒鳴り声に、俺は勝利の余韻から我に返る。背中に冷たいものが走る。
油断。
火村は俺を舐めてかかって油断した。俺は火村を倒したと思って油断した。
刹那――――、火村がその姿勢から俺の背後へと回り込んだ。俺の後ろには菜月がいる。
「くそっ!」
俺が振り向いた時には菜月を羽交い締めにした火村の姿があった。恐怖で顔を引きつらせている菜月の頬にナイフを触れさせている。首筋ではなく、菜月の恐怖心を煽るためにわざと視界に入るように頬にナイフをあてているのだ。
「動かないでくださねぇ。この可愛らしい顔に傷がついてもいいのなら別ですが」
菜月を人質に取られたっ! 俺は怒りで爆発しそうだった。それを留まらせたのは、背後から聞こえた葛葉さんの声だ。
「火村、人質の交換や! お前の【増幅者】の姉ちゃんを離すから、菜月を離さんかい!」
俺の背後から葛葉さんの声がする。人質の交換……? 俺は火村を警戒しながら、僅かに首を動かして葛葉さんのほうを見た。
そこにいたのは火村の【増幅者】にして、伯父さんの店でバイトしていたお姉さんだった。葛葉さんが取り押さえていて、身動きが取れない状態だ。
葛葉さんだけじゃない。火村の攻撃から立ち直った椎名先輩、マイちゃん、星川先輩に郡道さんや西野課長まで包囲している。
「はて、この可愛らしいお嬢さんと交換する人質はどこでしょう? 僕には何も見えませんが」
火村が本当にわからないよいう風に、首を横に振る。俺たちは一瞬戸惑った。だが、火村の【増幅者】には意図が理解できたようだ。
「火村様。ご武運を」
火村の【増幅者】は口を大きく開けて舌を出した。
お、おい……まさか!?
俺の予想どおり【増幅者】は自らの舌を噛み切ろうと、口を閉じるつもりだ! 火村の足手まといになるのを嫌って、簡単に死を選ぶって正気かよっ!?
「アホかぁっ! 痛っ……、うぐぁあああっ!」
葛葉さんが【増幅者】が口を閉じる前に、自分の指を口内に突っ込んだ。
これで【増幅者】の自害は防げた。あとは葛葉さんたちが対処するだろう。この隙に俺は菜月を助け出そうと、振り向きざま火村に接近する。火村のナイフが菜月を襲う前に、ブン殴るっ!
「!?」
拳を振りかぶった俺の目の前には火村と菜月、そしてその背後には杖を背中から突き刺そうとしている長老がいた。長老も動いていたのか! 火村は一瞬躊躇ったあと、菜月を突き飛ばして周囲に張り巡らされた【結界】へ向かって駆け出した。
「菜月っ!」
「お兄ちゃぁぁんっ!」
突き飛ばされた菜月を空中でキャッチする。
「小僧! 火村を追えっ!」
俺は菜月を確保した時点で、火村に向かって走り出していた。
「絶対逃がすな!」
「「はい!」」
西野課長の怒号が飛び、それに応える郡道さんと星川先輩の声が聞こえた。西野課長に言われなくともわかっている。こんな殺人狂を野放しにはできない。この機会を逃せば、今度はいつ遭遇できるかわからないからな。一番許せないのは菜月を怖がらせたことだ! 火村は絶対に俺が倒すっ!
俺は【四大元素】で加速して火村を追いかける。俺のほうが速いっ! 四秒で火村に手が届くまで追いついた。
「逃がさない! ここでお前をぶっ倒す!」
「やりますねぇ! それでは僕の【異能】も見せますか」
火村の【異能】の圧を感じる。だが、菜月の【増幅】を受けている俺の【四大元素】があれば戦える!
俺と火村の攻防が始まった。
火村が左右の手にナイフを握る。もちろん、【異能】を纏ったナイフ攻撃だ。俺はナイフに触れないように、空気の流れで壁を作り捌いていく。
模擬戦を経験していて良かった。落ち着いてやれば、十分戦える!
「では、これはどうですかねぇ」
「なっ……!?」
両者立ち止まり激しく腕を動かしての攻防中に、火村が大きく息を吸い込んだ。次の瞬間、俺を襲ったのは火村の吐いた炎だった。
火を吐いた!? これも【異能】かよっ! ファンタジー世界のドラゴンじゃあるまいし!
俺は即座に背後の菜月を抱いて、大きく後ろに跳んだ。
火村の吐いた炎は、火炎放射器の如く地面を焦がす。
丁度火村の背後から郡道さんと星川先輩が追いついて、二人がかりで交戦する。
「懲りない人ですねぇ。あなたでは僕にかてませんよぉ」
「勝ってから言いなさいっ!」
「隼人っち! 今の内にもう一回なっちゃんと【増幅】して! あーしと郡道さんで時間を稼ぐから!」
星川先輩が火村のナイフを弾きながら叫ぶ。
二人がかりでも僅かに押しているのは火村だ。俺は星川先輩と郡道さんが戦っている間に菜月と再度【増幅】する。
「菜月! もう一回【増幅】だ!」
「うん! わかった!」
菜月が土台を作り跳び乗った。そして俺の胸へと手を回す。
十秒欲しい。十秒あれば、俺が火村をぶっ倒す!
しかし火村は星川先輩たちの攻撃を躱すと、俺とは反対方向へ走り出す。
「しまった!」
郡道さんが声を漏らすが、一息の間に火村は速度を上げて自らの【増幅者】へと向かう。
火村も【増幅】する気か!? ただでさえ強いのに、これ以上力を増されたらヤバい!
俺は菜月を背負ったまま追いかける!
「菜月! このまま火村を追いかけるぞ!」
「うん! 大丈夫! 時間はかかるけど【増幅】はできるからっ!」
「よし!」
疾走する火村の前に、西野課長が立ちはだかる。火村は攻撃を躱して、西野課長を吹き飛ばした。
「邪魔ですねぇ」
「ぐはっ!」
【増幅者】に近づけるものかと、椎名先輩とマイちゃんが火村の行く手を遮った。
「ここは通さないわ!」
「ちぃ姉! 【増幅】完了っ!」
【増幅】を終えた椎名先輩が、正拳突きを放った。だが、その右拳を火村はナイフを捨てて左手で受け止める!
「嘘!?」
椎名先輩が驚きを見せたあと、そのまま火村に投げられて宙を舞った。
「椎名先輩っ!」
俺の叫びも虚しく、巻き添えを食らったマイちゃんと共に地面に体を打ち付ける。
そして、葛葉さんの背後に回り込んだ火村は炎を吐いた。たまらず葛葉さんは拘束していた【増幅者】を離すしかなかった。その隙に火村は【増幅者】の手を取って、大きく跳んだ。
「僕も【増幅】するとしましょうか。これだけの人数相手なので、僕も本気でやらせてもらいますよぉ」
「火村様、んっ……」
言って火村が【増幅者】と口づけを交した。途端、火村の【異能】の圧が爆発的に増したような気がした。火村の【増幅者】はそのまま力尽きた風に、地面に膝をついた。
「菜月、ここで降りろ」
「え!?」
走りながら、俺は菜月に言った。菜月は目を丸くするが、力を増した火村がどんな攻撃をしてくるか予想ができない。
「菜月は恐い思いもしたのに、十分頑張ってくれた。あとはお兄ちゃんに任せておけ!」
「えっ!? えっ!?」
横目で椎名先輩とマイちゃんを確認すると、大きな怪我はしていないようだった。今立ち上がろうとしている最中だ。俺は背中の菜月を抱き寄せて、椎名先輩に向かって放り投げた。
「椎名先輩! 菜月を頼みます!」
「お、お兄ちゃん!?」
「隼人くん!?」
椎名先輩は戸惑いながらも、優しく菜月を抱きとめてくれた。
これで、目の前のクソ野郎に集中できる。俺は火村の圧を感じながら、一気に間合いを詰める。
「きみが相手ですかぁ。せいぜい楽しませてくださいねぇ」
「うるせぇ! このクソ野郎がっ!」
【増幅】した俺の【四大元素】と火村の【異能】。互いの力がぶつかり合う!
「おらああああああっ!」
「気合いだけは十分ですねぇ。それで、実力が伴っていれば最高なんで……ん?」
余裕の笑みを浮かべていた火村の左頬に、俺の渾身の右ストレートが綺麗に決まった。火村は大きく仰け反る。
効いている! 俺の攻撃が効いている!
俺は今、火村の速度を僅かに上回ったのを感じていた。俺の連打が火村をサンドバックのように打ちのめす。
「な……、これは!?」
「おらおらおらっ! 俺の【四大元素】はお前の【異能】より強い! ただ、それだけ、だっ!」
俺の【四大元素】が、この戦いの中で、火村との命のやり取りの中で、進化しているのだ。この機を逃すわけにはいかない。俺は一心不乱に攻め立てた。
火村が大きく体勢を崩す。もう立っているのもやっとだろう。火村を仕留めるつもりで、俺は最後の攻撃を繰り出そうとした。
だが、急にスローモーションのように俺の動きが格段に落ちる。
ペシッ。
俺の最後の攻撃は、俺の右拳は火村の左頬を撫でるに留まった。
……え!?
俺が一瞬呆けた隙に、火村は俺の腹に蹴りを入れる。俺は激しい痛みに両膝をついて胃の中のものを吐き出した。
「おええええええっ!」
「素人ですねぇ。一瞬冷やっとしましたが、【異能】を消耗したようですねぇ。僕をここまで苦しめるとは見込みがありますが、残念ですがお別れです。死んでもらいますよぉ」
火村が冷たい目で手刀を振り上げる。
か。体に力が入らない……! 俺はこのまま殺されるのか!?
火村の手刀が迫って、俺は万事休すと目をギュッと閉じた。
「くっ! あきらめんなや、坊主!」
「く、葛葉さん!?」
火村の手刀から身を挺して庇ってくれたのは葛葉さんだった。葛葉さんの胸から鮮血が飛び散り、俺の顔にも血がついた。
「葛葉さん!? どうして!?」
「俺らの勝ちや。勝ったのに坊主がおらんと胸くそ悪いやんけ……」
「えっ!?」
葛葉さん越しに火村の背後を見た瞬間――――、俺は勝利を確信した。
「ふぅ、ここは撤退させてもらいますが、ひとりぐらいの命はもらっておきましょうかねぇ。僕を確実に仕留めるならS級の御伽原は必須でしょう。何故ここにいないかは知りま…………」
「待たせたな、火村」
火村の背後で蘭子さんが言い放つと、周囲の温度が下がったように感じた。
ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザシュッ!
蘭子さんの放ったであろう【異能】は鋭く尖った氷の刃を作りだし。その七本の刃は火村の背中から胸や腹に貫通した。
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