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第2章 「俺の【成り上がり】編」(俺が中二で妹が小四編)

第50話 俺は無理難題を要求される

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 何だこの役回りは。俺は今御伽原探偵事務所の自分のデスクで、PC作業をするフリをしてエロ画像を漁っている。隣の席では御伽原が仕事をしているが、アイツからはPC画面は死角になっているし、アイツがわざわざ席を立って俺のところに来ることもないから安心だ。……いや、そうではなくて、何で俺がこんなことをしなくちゃいけないんだ。くそう、葛葉のヤツめ難易度の高いミッションを俺に振りやがってと、俺は同僚の顔を思い浮かべながらエロ画像をお気に入りフォルダに保存する。

「さっきから、チラチラあたしのほうを見てどうした?」
「……気のせいじゃないか? 俺は作業で忙しいんだ」
「どうして、ここで作業をする? 自宅のPCは直ったんだろう?」
「……久し振りに御伽原を見ておこうと思ってな」
「そうか」

 あ、こいつ今おっぱいを向こうに向けやがった! 確かに顔ではなく、おっぱいを見ていたけども! しかし、相変わらずいい乳してやがる。揉みしだきてぇ。エロ画像収集をしていたから、余計にムラムラするぜ。
 おっと、いかんいかん。ミッションを失念するところだった。俺の役割は御伽原をここに留めておくことだ。俺たち以外の面子が何をしているかを悟らせてはならない。そのために俺は今日ここに出勤しているんだから。
 そこで御伽原がキーボードから手を離し、タバコを掴んだ。

「禁煙とかしないのか?」
「考えたこともないな」
「その銘柄、結構キツいやつだろう。もっとニコチンやタールの少ない銘柄がいくらでもあるだろうに……」

 御伽原は俺の忠告を気にも留めずに、タバコを咥えて火をつける。そういや、この銘柄は若が吸っていたのと同じか……。

「若の形見のライターで同じタバコを吸う……か」
「何が言いたいんだ?」
「いや、それを見て若のことを思い出した」
「そうか。確かお前とは仲が良かったんだったな……」
「まあな。年は離れていたが、俺が唯一年下で尊敬していた人だったからな」

 そう……御伽原樹という人物は、御伽原にとって特別だということは知っている。彼女が少女の時分から若に仄かな恋心を抱いていたのは、当時を知っている者からすれば周知の事実だろう。義兄であり師であり最愛の人を喪った御伽原の悲しみは計り知れない。現に今でも御伽原はあの【逆徒】を追い続けている。俺なんかを頼るぐらいだから、こいつもなりふり構ってられないんだろう。だが、もしあの【逆徒】を見つけられたとして、どうする? いや、もちろん復讐するんだろうが、今の御伽原では勝てない相手だ。それがわからないほど、こいつもバカじゃないと思いたいが……。もし隼人を当てにしているのなら、俺は反対せざるを得ないな。あの若をして、勝てなかった相手だぞ……間違いなく殺される。

「ところで、組織の最高機密にはアクセスできたのか? 長老に迫ったらしいなその乳で!」
「ふっ、長老や西野が口外するはずがない。役員室に盗聴器でも仕掛けたか?」
「流石にそれはない。バレたら俺がヤバイ。ちなみにおっぱいを一回百万で触らせてくれるらしいな」
「お前には一億積まれても触れさせる気はない」

 おっと、冗談はここまでにしておこう。今本気でイラッとしやがった……。

「隼人から訊いたんだ。お前が長老にアクセス権限やら、組織のデータベース云々の話をしていたとな」
「お前からの情報で、組織が兄の死に関わる情報をトップシークレットにしているのはわかったからな。それで管轄している長老に直談判したまでだ」
「それで結果はどうだったんだ? あの【逆徒】の顔や名前ぐらいはわかったんだろうな?」

 御伽原が眉間にシワを寄せて、あからさまに機嫌を悪くする。
 おいおい、どうした? 俺のセクハラでもここまで機嫌を損ねることはないのに……。手に入れた情報に何か問題があったのか?

「既にデータは削除されていた。恐らくは長老が先に手を打ったのだろうな」

 それでか……。頼みの手がかりが空振りに終わったから苛ついたのか。
 御伽原はタバコを灰皿に押しつけてもみ消すと、壁掛け時計に目をやった。

「今日は隼人も加奈子も来ないな……。千尋は部活か」
「……そうだな。あいつらも学校があるし」

 時刻は午後五時を回っている。予定なら丁度、長老たちと合流している頃か。少なくともあと一時間は御伽原をここに留めておく必要があるだろう。俺の腕の見せどころだ。
 俺が思案していると、御伽原はスマホを手に取り誰かに電話をかけ始めた。

「何だ用事か?」
「昼頃から何度かかけてるんだが、葛葉に繋がらない。電源を切っているのか……」

 葛葉のヤツめ……。何か適当な理由をでっちあげとけってんだ。電話が繋がらないって不自然極まりないだろう。本当に雑なヤツだ。俺に全振りじゃねぇか。

「表の仕事じゃないのか?」
「いや、今日は何も依頼は入ってなかった。隼人にかけてみるか」
「ま、待て!」

 順番に電話されたらどこかでボロが出そうだ。どうする!?
 御伽原が俺に疑いの眼差しを向けている。
 ……墓穴を掘ってしまったか!? 今の制し方はあまりに不自然だったか。くそう! 適当な理由が思いつかん。何か言わなければ…………。

「どうして止める? 隼人に電話したらマズいのか?」

 怪しまれてるぞ……、何か言わないと……。
 俺は御伽原に引っぱたかれる覚悟をして、苦し紛れに言葉を紡ぐ。

「お、御伽原……。も、もう限界なんだ。お前のおっぱいを見ていたら、俺の股間がはち切れそうだ。頼む一回だけ……、いや……一分だけおっぱいを揉ませてくれ!」

 俺は席を立ち上がり両手でおっぱいを揉む仕草をしながら、スマホを操作しようとしていた御伽原に近づいていく。御伽原は怪訝な表情のまま、椅子ごと五十センチほど後退する。いつものセクハラより数段上の行動を取った俺に引いているのはわかる。俺だってこんなことをしたいわけじゃない。だけど、お前を行かせるわけにはいかないんだ。

「なぁ……いいだろう? 俺のテクで乳首だけでイカせてやるから。な?」

 御伽原の視線が俺の下半身にいく。もちろん股間はテントを張っている。しかし、これはあくまで演技だ。演技だからなっ! 大事なので二回言っておこう。

「それ以上近づくと、ソレを蹴り潰す」

 御伽原のパンプスは俺の股間に照準を合わせている。ああ……、ダメだ御伽原ならやりかねない! こいつに蹴られたら一個、いや……最悪二個とも潰されそうだ。すまない、みんな……俺じゃあ御伽原を足止めするのは無理だった!

「すいませんでしたぁっ!」

 俺はその場で土下座した。
 そして、洗いざらいすべてを話した。
 また御伽原の機嫌が悪くなる。俺を一瞥して舌打ちし、タバコを咥えて火をつけた。俺は土下座の体勢から顔を上げて、御伽原の顔色を窺う。とりあえず立ち上がろうと片膝を立てた。

「誰が土下座を崩していいと言った?」
「……え?」
「この変態が」
「いや、あの……それは」

 凄ぇ軽蔑の眼差し。まるでSMの女王様に言葉責めに遭ったM男の気分だ。ああいう店には数回しか行ったことがないから、よくわからないが。くそう、おっぱい揉む云々は足止めするための芝居だったのに。誤解を解かなければ!
 俺は女王様の命令を無視して勢いよく立ち上がり、誤解を解くべく御伽原に肉薄するつもりで…………あら?

「お前!? 急に立ち上がるんじゃ……」
「あ、あわわわわわっ!? す、すまん! あああっ!?」

 急に立ち上がると予測できなかった御伽原の豊満な胸に、距離感を誤った俺は顔面からダイブしていた。完全に事故だった。わざとじゃないんだよおおおっ!

 ガシャン。

 椅子がひっくり返る。御伽原は椅子から落ちて床に仰向けに倒れ、俺はそんな彼女に覆い被さるような形だ。もちろん俺の顔面はふくよかなクッションのおかげでノーダメージだ。しかも御伽原の膝がいい感じに俺の敏感なところを刺激してくる。

「おおぅ……」

 俺が快感の吐息を漏らした直後、御伽原の膝は凶器と化した。俺はその一撃に悶絶し床を転げ回るが、机の足に顔面をぶつけて「ぎゃっ!」と情けない声を上げてしまった。

「進藤、帰ってからゆっくり話をしようか」
「は、……はい?」

 御伽原は妖艶な笑みで言うと、すぐに背を向けて事務所のドアに向かって歩き出す。
 か、勘弁してくれよ。今のは完全に事故だろ?
 数時間の延命をされた俺は、このあと何が待っているか本当に恐くなってきた。俺が必死にその際の言い訳を考えていると、御伽原がドアの手前で振り返って告げた。

「案内しろ。火村の目的はあたしだ。だから、あたしが決着ケリをつける」
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