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過去への償いとは

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 ーーー時の妖精の力を借りて、フロドゥール国宰相レンク・ルマンを呼び出す。

 ロンサンティエ帝国皇帝ファヴィリエ・ルカの言葉に呼応し、時の妖精であるクロスが発光した。

 後宮の庭園に広がる光に皆が目を瞑る中、龍の姫巫女であるリリィは一点から視線を動かす事なく見つめていた。

 そこに渦巻く空間から1人の男が現れた。
 
 歳は壮齢の仕事盛りの頃。
 顔付きは厳しく、口元の髭が気難しさに拍車をかけていた。
 
 フロドゥール国王レイド・フロドゥールが記憶していたのは、歳を取ってからの顔ばかりであったが、現れたのは確かに嘗ての宰相レンク・ルマンであった。
 
 騎士で将軍であった父とは違い、宰相として内政に力を注いだ男であったが、体付きも大きく周囲を威嚇せんばかりのギョロッとした目が印象的だった。

 レイド・フロドゥールが驚いたのは、ファヴィリエ・ルカが今まで見せていたスクリーン越しの映像ではなく、本当に目の前に本人がいるかのようなリアリティである。

 思わず状況を掴み切れていない息子ボルタの前に出て庇った程だ。

『・・・これは。』

 目の前の男も突如呼び出された理由も分からず、己の手を見つめ、周囲を見渡している。

「初めまして、レンク・ルマン殿。
 私は貴様が生きている時代よりも、先を生きるロンサンティエ帝国皇帝ファヴィリエ・ルカ。
 貴様を呼び出した者だ。」

『未来のロンサンティエの皇帝だと?
 ここは、何処だ?
 何をわけの分からぬ事を・・・。』

 見知らぬ場所に困惑する男の視線が彷徨い、時間が経ってやっと仕えていた自分の知る既視感のある人物を見据えた。

『レイド・・・様?』

「その通りだ。
 久しいなルマン翁。
 最後に会ったのは、私が今の其方と同じ位の歳であった。
 お前の知る私は、さぞ幼かろう。
 何せ、今は其方が死してから40年程は経っている。
 私に言わせれば、其方の姿が若返っていて実に奇妙だ。」

『死んで40年っ!?』

 驚愕した様子のレンク・ルマンは再び皺の無い己の手を見つめ呆然としている。

「死したルマン翁に用があってな。」

 相談などしていないにも関わらず、レイド・フロドゥールは、この不思議な状況も上手に対応して見せた。

 己が見ているのが夢か現かと戸惑った様子を見せていたレンク・ルマンも、何かを感じたのか暫くすると、肩を震わせて笑い出した。

『何とも可笑しな事。
 時を超えて未来に助けを求められるとは、これ程可笑しな事はない。
 レイド様。それ程までに我が力をお求めか?
 良いですとも。良いですとも。』

 何を勘違いしたのか、自分の現状を履き違えているレンク・ルマンに、レイド・フロドゥールは不愉快いそうに顔を歪めた。 
 この男はいつの時代も変わらない。
 目の前の男は相も変わらず、己の力に慢心した醜悪な顔で自分を見つめていた。

『これは、神の導きとやらでしょうな。
 どうやら、私の時代では意地汚いロンサンティエ帝国は滅ぼせなかったようだ。
 レイド様こそが鉄槌を下して下さるのですな。
 我が悲願であり、フロドゥール国の長年の宿敵に目に物を言わせてやりましょうぞ。』

 悪霊の様に呪いの言葉を吐き続ける男にゾッとしたレンク・ルマンは、彼を守るように若い娘が立ちはだかったのにホッとした。

「若い時分の姿で現れはしても、頭は耄碌したジジイのままね。
 それ以上、己の主人を辱めるのは辞めなさい。
 この世は生者の物よ。
 この時代の貴方は唯の死者。
 呼び出された理由も分からないなら、大人しく口を慎んでなさい。」

 リリィの青い瞳に睨まれてレンク・ルマンが目を見開いた。
 
 
 

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