上 下
382 / 443
追憶からの

362

しおりを挟む
 フロドゥール国の美姫であったステラ。

 彼女の婚約者であったピウス・プラントが国の英雄の息子であった男に崖から突き落とされるのを目撃した一同は驚きで声を出す事が出来ずにいた。

「彼は、戦死したわけじゃない。
 この男に殺されたのね・・・。」

 誰に言うでもないリリィの呟きだけが部屋に響く。

 無情にも映像は続いた。

 レンク・ルマンなる男が醜悪な顔で崖の下を覗き込み満足そうに微笑んでいると、木陰から出てきたローブを被った男達が死んだオークを崖に投げ捨てた。
 
 まるで相打ちしたような光景を完成させると、男達は何やら頷き合い去っていく。

 婚約者の無事を望むステラの願いは此処で潰えたのだ。
 いくら待ってもピウス・プラントは帰ってはこない。
 
 年月が経っても、ロンサンティエ帝国とフロドゥール国の亀裂の種となっているステラ。
 しかし、彼女が愛した男は歴史の一部に埋もれ、自国の人間にすら忘れられていた。

「なんて事を・・・。」

 声に出す事すらやっとなフロドゥール国王レイド・フロドゥールは苦しそうに胸を押さえた。

 ファヴィリエ・ルカの契約妖精である白い虎であるクロスの力“時魔法”は未だに続いている。

 泣き崩れるステラ姫・・・自分の最愛を殺した男とも知らなくともレンク・ルマンとの日々は彼女に苦痛を強いていた。
 中には日記に書かれているよりも酷い暴力じみた乱暴さで突き飛ばされている。

 姫なのに・・・国中に愛される姫なのにだ。

 両親は優しい笑顔で彼女を追い詰め、国民は期待という重責で彼女から逃げ道を塞ぐ。
 
 映像からは様々なストレスが彼女を苦しめているのが分かった。

「・・・もう良い。
 もう、分かった。」

 これ以上、見る事が耐えられないと顔を背けようとしたレイド・フロドゥールの目に飛び込んできたのは、画面いっぱいのステラの満面の笑みだった。

 時はロンサンティエ帝国にやってきて数年経った頃のようだ。

 美しい花畑の中を男性に手を取られて歩く彼女は幸せそうだった。
 相手の男こそ、彼女をフロドゥール国から連れ去ったドゥルセ・ハリ・ロンサンティエ。
 かつてのロンサンティエ帝国の皇帝だろう。

 つまずくドゥルセ・ハリをステラ妃が慌てて支え、互いに顔を見合わせ笑っている。

「・・・幸せそうだ。」
 
 レイド・フロドゥールは楽しそうな大叔母に触れようと手を伸ばすが、それは霧の映写。
 一向に掴む事は叶わない。

「陛下・・・ステラ姫の苦しみの原因は我が国にあった。
 確かに、当時のロンサンティエ帝国の皇帝は非常識に姫を連れ去ったのかもしれません。
 しかし、ステラ姫はお幸せであった。
 これが事実とお認めになるならば、我らはロンサンティエ帝国に感謝せねばなりませんね。」

 宰相であるハル・シネイの優しい声に伸ばしていた手を握り締めたレイド・フロドゥールは固く目を瞑り、暫くすると頷いた。

「どうやら、そのようだ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...