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英傑の記憶

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 ーーー好ましく思う。

 確かに銀の龍はフランコ・トワにそう言った。

 命の危険はないのではないかと、ほっとした矢先だった。

『お前の望みは何だ?』

 威圧に押し潰されそうな声に、再び緊迫したフランコ・トワは震え上がった。

 まるで、金の龍の発する低音に飲み込まれてしまう様な感覚だった。

 しかし、そんな中でも問いかけられた言葉を必死に考えた。

 望みは何だ?
 そんなものは1つしかない。

ーーー故郷に帰りたい。

 ・・・そう口にする事は簡単だった。

 本当にそうなのだろうか?
 命の危険を感じてまで、自分が龍に願う事は、そんな事なのか?

 フランコ・トワの脳裏に積み重なっていた日々の不安が吐露した瞬間だった。

 世界中が苦しんでいる。
 必死に生きる人間は自然の中では無力で、一生懸命に生きようとしても災害や、それが元で始まる争いに辟易していた。

 先の生活に希望などなく、1日1日を僻な暮らしをするだけだ。

 その光景は、フランコ・トワが住んでいた漁村でも同じだった。
 
 正気のない漁師が、その日の食料だけを釣ってはダラダラと過ごす始末・・・。
 
 そんなの駄目だ!

 未来を夢見る子供達達を前に、大人が諦めて良いわけがないじゃないか!

 自身の中で反芻した思いに勇気を貰いフランコ・トワは2匹の龍に叫んでいた。

「助けて下さいっ!!」

 たった一言、その一言を言う為だけに彼は息切れをしていた。

 ハァハァと汗をかきながら息を整えるフランコ・トワを2匹の龍が見下ろしている。

『助けて欲しいとな?
 この島の生活で怪我でも負ったか?
 それとも、貧しさに耐えられずに逃げ出したいのか?』
 
 金龍の重苦しい声に胸が苦しい。
 それでも、フランコ・トワは首を横に振った。

「今、人類は苦境の中で生きていなきゃならない。
 助けて欲しい。」

 絞り出すようなフランコ・トワに再び金龍の声が降り注ぐ。

『お前達、人間が何をしたのか知らないのか?
 知っていたとしたら、今の苦しみは、その対価だとは思わないか?』

「知っている・・・。
 かつて人間が龍にした仕打ちがあまりにも酷い事は知っています。
 学のない俺が知っているんだ。
 全ての人間が知っているはずだ。
 でも、俺達は生きていかなければいけない。
 今更、恩恵を与えてくれとは言わない。
 極端な日照りや嵐を起こすのをやめて欲しいだけなんだ。
 子供達に・・・お前達は生きて良いのだと教えてやって欲しい。」

 フランコ・トワは、自分の悲痛なまでの願いが叶うとは微塵にも思っていなかった。

 相手は龍であり、かつての人類は彼らの家族を利用し殺したのだ。
 その怒りが簡単に収まるわけがない。

 それでも、彼は願う。
 苦しい中でも、命を紡ぐ人間達の未来を・・・。

『分かった。』

 思いも寄らない、返事が帰ってきたのは、それから直ぐの事だった。
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