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義心の先にあるもの

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「不公平だ。
 フランコ・トワがいた土地だから、この地を愛するのか?」

 眉間に皺を寄せて小さく呟くフロドゥール国国王レイド・フロドゥールにリリィは微笑んだ。

「あら、世の中なんて不公平だらけでしょうに。
 どうして、北の地が吹雪で凍えるのに南の地は常夏の楽園なの?
 どうして、あの子は母がいるのに、あの子に母はいないの?
 どうして、城下で暮らす者達は擦り切れた服をいつまでも着続けているのに、貴方達は王侯貴族に生まれただけで美しい衣装に身を包んでいるの? 
 どうして、龍はジョルジュ・フロドゥールではなくてフランコ・トワ・ロンサンティエを龍の使者に選んだの?」

 リリィの問いかけにレイド・フロドゥールは答える事が出来ずにいた。
 それはレイド・フロドゥールだけではない。
 ロンサンティエ帝国の者達とて答えなど持ち合わせていないだろう。

「南の地は常夏で楽園かもしれない。
 でも、雪解けの春の穏やかな解放を知らない。
 あの子は母がいないかもしれないけれど、逞しく自立した大人になり、母がいるあの子は、いつまでも母の背に隠れたままかもしれない。
 美しい衣装に身を包み込んだ王侯貴族は食べるものに困らず生活が困窮する恐れは少ないかもしれない。
 でも、城下で暮らす者ほど気ままに人角の幸せを味わえるかは疑問だわ。」

 さっきと真逆の事を口にするリリィに男達の視線が疑問を示している。

「自由に国を造る事が出来たジョルジュに対して、使命のあったフランコ・トワには大きな縛りがあったのかもしれない。」

「縛り?」

 思わず問いかけたのはファヴィリエ・ルカであったが、皆も同じ疑問を持った事だろう。

「愛すると言う事。
 愛は1つではないわ。
 その土地を愛する事。
 そこに住み着いた民を愛する事。
 勿論、妻となったセレティアを愛する事。
 世界中を駆け巡る事の出来たジョルジュと比べてフランコ・トワは愛に縛られた。
 愛は呪いよ。
 貴方が一番分かっているはず。」

 そう言うと、リリィはファヴィリエ・ルカの黒い髪を優しく撫でた。

「その愛という呪いを受けた者が他にもいた。」

 リリィの言葉にファヴィリエ・ルカは撫でられていたのを忘れて目を大きく広げた。
 
 それはレイド・フロドゥールも同じだった。

「ジョルジュか・・・。」

 フロドゥール国では、長い間フランコ・トワがジョルジュの愛しいセレティアを奪ったとされてきた。

 しかし、龍の姫巫女であるリリィが現れた事でレイド・フロドゥールの心に小さな隙間が出来ていた。

 ーーー本当か?本当にジョルジュはフランコ・トワに全てを奪われたのか?
 ならば、何故・・・龍はロンサンティエに制裁を与えなかった。

 胸の奥底に仕舞い込んで蓋をしていた疑問が吹き出しそうで恐ろしかった。

 ーーーもし、横恋慕していたのがジョルジュの方であったのなら、龍がフロドゥールに恩恵を与える事はない。

 刹那の恐怖はリリィの一言で遮られた。

「いいえ。
 ジョルジュは本当にフランコ・トワと友情で結ばれていた。
 初代龍の姫巫女であったセレティアとの結婚も祝福しているわ。」

「なにっ?」

 驚くレイド・フロドゥールを憐れむように眉を下げたリリィは答えを言った。

「問題はジョルジュではないの。
 この場合、フロドゥール国の初代国王ジョルジュの妻フィリアこそが、愛の呪いに悩まされた人でしょうね。」

 
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