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義心の先にあるもの

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 フロドゥール国国王レイド・フロドゥールがロンサンティエ帝国にやってきたのは、それから1ヶ月ほど経った狂ったような日差しが差し込むような暑い日だった。

 国境沿いには大公ディミトリオ・ハクヤが迎え出て、帝都までの2日間の案内を務めた。

 その国境沿いを抜けてからの景色にフロドゥール国の者達は驚いた事だろう。
 自国の疲弊した草木と違い、ロンサンティエ帝国の景色は艶やかに彩っていた。
 少し進めば見渡す限り豊富な実りのある畑が続いている。

 皇帝ファヴィリエ・ルカが自ら選んだ6人の貴族が妖精と契約してから瞬く間にロンサンティエ帝国では妖精についての認識を改める声が高まった。

 魔力のある者ない者関係なく、幅広い人間が妖精との縁を求めて学んでいる。
 妖精を無益に酷使すれば、龍からの呪いを受けるとの誰かが流した噂を本気で信じているロンサンティエ帝国民は、妖精との共存に励んでいるのだ。

 龍気が満ちているロンサンティエ帝国内は自ずと妖精の力も強まり、自然界にも影響を与えているのだ。

 そんな事を知らないフロドゥールの人間の目には輝く光の玉が龍の御業の如く写っているだろう。

 龍の姫巫女リリィが突如としてフロドゥール国に現れて暫く、騒がしかったレイド・フロドゥールの周囲は、今だに一枚岩ではない。

 龍の恩恵に縋りたい者。
 龍に敬服する者。
 手に負えない巨大な力を目にし携わる事すら怯える者。

 そんな中、レイド・フロドゥールの心を占めていたのは、単なる好奇心だったのかもしれない。

 龍の姫巫女の置いていった言葉一つ一つを振り返り、彼はついに重い腰を上げずにはいられなかった。

 たとえそれが、先祖代々に刻まれてきたコンプレックスを刺激したとしても、自分には見定める必要がある。
 そんな言い訳を胸にしまいながらもレイド・フロドゥールは国を離れ、龍の姫巫女がいるロンサンティエ帝国の中枢に向かっていた。

「フンッ。
 あれが、先帝に良いようにされていた哀れな皇弟ディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエか。」

 馬車から外に視線を向けたレイド・フロドゥールに宰相は苦笑しながら頷いた。

「そのようで・・・。
 随分とご立派なご様子は昔からなのか、それとも自分の子が皇帝になれたからなのか。」

 クククと笑い声を上げた宰相・・・件の折にダチェット侯爵に声を掛けていた老人こそがフロドゥール国の宰相ハル・シネイ侯爵である。

「ロンサンティエ帝国でも卓越した剣士であり魔術師だそうです。」

 宰相の言葉にレイド・フロドゥールは呆れた顔で鼻を鳴らした。

「何とも不公平な話だな。
 我が国では魔法を扱う人間の方が少ないと言うのに。
 本人は魔法も使えて剣の腕も優秀。
 そして何より、今代の龍の使者というではないか。
 のう。ジィよ。
 不公平とは思わんか?」

 どこか空笑いしているレイド・フロドゥールに宰相ハル・シネイは嗜めるように微笑んだ。

「いつの時代も人の世は不公平でございますよ。」
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