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再起の果て

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「馬鹿めがっ!
 後宮の呪印が露見した事も知らなんだか。
 簡単な事も出来ぬ痴れ者が!」

 フロドゥール国国王レイド・フロドゥールの怒りに触れたダチェット侯爵は怯えながら思わず目を逸らした。

 呪印が露見した・・・?
 そんな事、国では騒ぎになっていなかったではないか。
 
 負債ばかり増えていく日々に精一杯になっていたダチェット侯爵の元には目新しい情報が上がってきていなかった。

 アイツは?・・・毛むくじゃらのアイツはどうした?
 ダチェット侯爵は後宮に送り込んだ刺客からの連絡のない状態に、この時初めて気がついた。

「おい。たわけ。
 送ってやった獣はどうした?」

 レイド・フロドゥールに言われたダチェット侯爵は慌てたように顔を上げた。

「あのカランカは後宮に送り込んでおります。
 しかし、最近は連絡がなく・・・。
 確認を取ろうにも、王宮に出向いたところで後宮には入る事ができません。」

「役立たずがっ。
 其奴とて、とうに正体がバレているのではないか?」

「まさかっ!
 あれには呪印の番人をさせておりました。
 従属契約とて切れておりません!」

 ダチェット侯爵の言葉にレイド・フロドゥールは穢らわしい物を見るように目を細め、控えていた魔法師に合図を送った。

 魔法師は命令に従いダチェット侯爵に近づくと手を翳す。

「・・・間違いなくカランカとの契約は切れておりません。
 ん?」

 カランカとの契約が切れていないと証明されたダチェット侯爵は安堵した。
 そして安堵したも束の間、魔法師の男が首を傾げた。

「どうした?」

 その様子の変化はレイド・フロドゥールも気になるようで魔法師に問いかける。

「はい・・・何か、何かが・・・っ!!
 ダチェット侯爵!!
 カランカとの絆を切りなさい!
 今すぐにっ!!」

 魔法師の男の尋常じゃない様子にダチェット侯爵は慌ててカランカとの契約を打ち切ろうと祈り始めた。

「もう遅い。」
 
 そう聞こえたかと思えば、ダチェット侯爵の頭上に真っ白な炎が浮かび上がり一帯を覆い尽くした。

「何と・・・。」
「おぉぉぉぉ。」
「何事だっ!」

 フロドゥール国の貴族達が騒ぎ立てる中、真っ白な炎の中から1人の若き女性が現れた。
 
 誰もが、その若き女性から目を離せずにいた。
 
 真っ白な美しい髪、青い瞳を宿した整った顔に優雅な仕草・・・。
 
 そして何よりも、その若き女性は白銀の龍に腰掛けて、阿呆面で見上げてくる大人達を冷淡な表情で見下ろしていた。

「初めまして
 フロドゥール王国の皆々様方。
 “龍王”よりロンサンティエ帝国に送られし龍の姫巫女・リリィと申します。」

 優しげにニッコリと微笑んだ顔に、何の感情も見られない。

「美しい・・・。
 まるで彫刻のようだ。」

 レイド・フロドゥールは初めて目にした龍の姫巫女を見て、そう呟いた。
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