上 下
318 / 473
再起の果て

318

しおりを挟む
「ダチェット侯爵殿・・・ダチェット侯爵殿・・・」

 遠くの方で自分を呼ぶ声がする。
 気のせいかと再び眠りの底に赴こうとした時であった。
 グラグラと乱暴に揺さぶられた。 

「ダチェット侯爵殿!!」

 今度はハッキリと聞こえた。
 重たい目を持ち上げれば、目の前に知らない男が仁王立ちしていた。

「・・・貴殿は?ここは何処だ?」

 先程まで豪華な馬車に乗せられていたのというのに、高い天井の広い部屋に座らされているようだ。

「起きました。」

 問いかけた質問に答える事なく振り返った男は身を翻して立ち去って行った。
 
 その時になってダチェット侯爵の視界が明らかになった。
 高い天井、決して友好的とは思えない集まった人間達、そして強烈な存在感を放っていたのは玉座に座った1人の男だった。

「よくもまぁ、ぐっすりと眠れるものだ。」

 男の侮蔑の籠った声にダチェット侯爵は身震いした。

「あの・・・あの。」

 尻込みして声が出ずにいるダチェット侯爵を顎でしゃくると男は隣にいた老人に声をかけた。

「おい。
 客人に説明してやれ。」

 男に深く首を垂れた老人は2歩ほど前に進むとダチェット侯爵を見下ろした。

「ロンサンティエ帝国より参られたダチェット侯爵。
 お間違えございませんな。」

「・・・その通りです。」

 現状の理解が及ばないダチェット侯爵は戸惑いながらも頷いたが、玉座に座る男には心当たりがついていた。
 そんなダチェット侯爵の事などお構いなしに老人は話し始める。

「こちらに座すはフロドゥール国国主であられるレイド・フロドゥール様にございます。
 貴殿は国境を越えられ我らが国に参られた。
 随分とお疲れだったのでしょう。
 国境より出発なさり3日経った現在、ようやくお目覚めになられたようだ。」

「3日っ!?」

 あまりの衝撃にダチェット侯爵は驚愕した。
 老人は、そんなダチェット侯爵の戸惑いに付き合う気はないらしい。

「貴殿にはロンサンティエ帝国の情報をお送りして頂きましたが、どうやら状況が変わったご様子。
 我らが王は貴殿の身を案じておられる。
 まさか、帝国に我らとの関係を明かしてはいないかとね・・・。」

 ギョロリと睨みつける老人にダチェット侯爵は慌てて立ち上がった。

「まさか!
 そんな訳はございません!」

 随分と前から、それこそ龍の姫巫女が現れるずっとずっと前からダチェット侯爵はロンサンティエ帝国の情報をフロドゥール国に売っていた。
 それは王宮の人の出入りだったり、後宮の内情だったり様々な事だった。
 他国に自国の情報を売る事は一番の利益を上げていた商売だった。

「その割には随分とお粗末な終焉を迎えているようではないか。」

 説明を老人に任せていた国王レイド・フロドゥールが感情の籠っていない瞳でダチェット侯爵に声をかけた。
 
 粗末な終焉・・・。

 それは自分の現状の事を言っているのだろう。
 
「私個人の商売の事を言っているのでしたら、汚くも龍の姫巫女を利用しているポリティス伯爵という男に先を取られましたが、貴国への情報提供は怠っていないはずですが?」

 何を言っているのだと眉を顰めるダチェット侯爵に見物していたフロドゥールの貴族からは失笑が聞かれ、老人は大きな溜息を吐いていた。

「馬鹿めがっ!
 後宮の呪印が露見した事も知らなんだか。
 簡単な事も出来ぬ痴れ者が!」

 玉座から身を裂くような声が飛んできたダチェット侯爵は顔面蒼白になるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】雇われ勇者の薬草農園 ~チートスキルで薬草栽培始めます~

近衛 愛
ファンタジー
リュウは設計会社に勤務する一般男性だ。 彼女がようやく出来て、一週間後に勤務中に突如幻想世界に転移。 ラノベは好きだが、テンプレ勇者は嫌いだ!! 人類を滅ぼそうとする魔王を倒すため、女神と王により勇者として、召喚された。 しかし、雇用契約書も給料ももらえず勇者である僕は、日々の生活費を稼ぐべく、薬草採取、猪の討伐、肉の解体、薬草栽培など普段なら絶対しない仕事をすることに。 これも王と女神がまともな対応しなのが悪いのだ。 勇者のスキル「魔女の一撃」を片手に異世界を雇い雇われ、世界を巡る。 異世界転移ファンタジー。チートはあるけど、最弱ですけどなにか。 チートスキルは呪いのスキル、人を呪わば穴二つ。勇者と世界の行く末は。 『僕は世界を守りたい訳じゃない!目の前の人、親しい知人であるチル、君を守りたいんだ!』

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

処理中です...