316 / 473
再起の果て
317
しおりを挟む
何処の貴族であろうと国境を出るのであれば一言でも国に通達をしなければならないのだが、その義務を遂行しなかったダチェット侯爵は自分よりも遥かに身分の低い者にも頭を下げなければならなかった。
龍の姫巫女が現れた事でロンサンティエ帝国は大いに変わってしまった。
ダチェット侯爵とて先帝ハイゴール・ウィリが名君であるとは爪1つ分だって思っていない。
権威主義のロンサンティエ帝国において政治を司る貴族達は、こぞって皇帝ハイゴール・ウィリの顔色を伺い。
互いに牽制しては騙し合っていた。
その面倒さに嫌気がさしていたダチェット侯爵は政治の世界を一歩下がって見ていた。
けして彼自信に崇高な考えがあったわけではない。
その腐敗した人間関係が面倒だったのだ。
代わりと言っては彼は金貨を愛した。
政治と距離をとり、のめり込んだのは商売の世界だった。
金は後腐れないし裏切らない。
侯爵家の利権をフルに利用し商人達を扇動し投資に明け暮れた。
稼いだ金は己が為に湯水の如く使っても余りあるものだった。
社交界の中には貴族が金を稼ぐなんてと眉を顰める者もいたが、ダチェット侯爵にしたら馬鹿馬鹿しい話だった。
ご立派な講釈では腹は満たされないし、何も出来はしない。
現に貴族の中にはダチェット侯爵に借財を求める手紙が多く届いていた。
ほら見てみろ!
ダチェット侯爵は、そんな手紙を読み進めると愉快で堪らなかった。
皇帝ハイゴール・ウィリは名君ではなかったかもしれない。
でも、ダチェット侯爵のような利己主義の人間にとっては相手にするのが楽な人物だった。
金さえ払えば、どんな罪でも目を瞑ってくれる可愛い皇帝だった。
「それがっ!」
古ぼけた馬車の中で思わず叫ぶダチェット侯爵は慌てて口を抑えた。
侯爵の声が聞こえたとしても、護衛の人間達が反応を示す事もない。
ロンサンティエの帝都で暮らしていたダチェット侯爵には見慣れない自然豊かな木々の中を馬車はゆっくりと進んでいく。
龍の姫巫女の登場はロンサンティエ帝国にとって大いなる変革であったが、ダチェット侯爵にとっては大誤算だった。
当初こそ龍の姫巫女を利用し商売をしようと狙っていたダチェット侯爵であったが、彼女には全く会う事が出来なかった。
皇帝ハイゴール・ウィリが囲っているだの。
宰相であったムク・フラン侯爵が姫巫女のお披露目には時期尚早であると判断したなどの噂が飛び交ったが、なんて事はない。
皇帝ハイゴール・ウィリと宰相フラン侯爵の両名が龍の姫巫女を激怒させ、勝手に追い落とされただけの話である。
結果的にダチェット侯爵は有益な協力者を失い。
融通の効かない新たな皇帝が誕生してしまった。
「あの若造めが」
堪え様にも新たに皇帝になった若き皇子への悪態が止まらない。
ロンサンティエの関所はとうに抜けた。
もはや、誰も自分を止める事は出来ないのだ。
ダチェット侯爵は口元をニヤリと歪めた。
龍の姫巫女が現れた事でロンサンティエ帝国は大いに変わってしまった。
ダチェット侯爵とて先帝ハイゴール・ウィリが名君であるとは爪1つ分だって思っていない。
権威主義のロンサンティエ帝国において政治を司る貴族達は、こぞって皇帝ハイゴール・ウィリの顔色を伺い。
互いに牽制しては騙し合っていた。
その面倒さに嫌気がさしていたダチェット侯爵は政治の世界を一歩下がって見ていた。
けして彼自信に崇高な考えがあったわけではない。
その腐敗した人間関係が面倒だったのだ。
代わりと言っては彼は金貨を愛した。
政治と距離をとり、のめり込んだのは商売の世界だった。
金は後腐れないし裏切らない。
侯爵家の利権をフルに利用し商人達を扇動し投資に明け暮れた。
稼いだ金は己が為に湯水の如く使っても余りあるものだった。
社交界の中には貴族が金を稼ぐなんてと眉を顰める者もいたが、ダチェット侯爵にしたら馬鹿馬鹿しい話だった。
ご立派な講釈では腹は満たされないし、何も出来はしない。
現に貴族の中にはダチェット侯爵に借財を求める手紙が多く届いていた。
ほら見てみろ!
ダチェット侯爵は、そんな手紙を読み進めると愉快で堪らなかった。
皇帝ハイゴール・ウィリは名君ではなかったかもしれない。
でも、ダチェット侯爵のような利己主義の人間にとっては相手にするのが楽な人物だった。
金さえ払えば、どんな罪でも目を瞑ってくれる可愛い皇帝だった。
「それがっ!」
古ぼけた馬車の中で思わず叫ぶダチェット侯爵は慌てて口を抑えた。
侯爵の声が聞こえたとしても、護衛の人間達が反応を示す事もない。
ロンサンティエの帝都で暮らしていたダチェット侯爵には見慣れない自然豊かな木々の中を馬車はゆっくりと進んでいく。
龍の姫巫女の登場はロンサンティエ帝国にとって大いなる変革であったが、ダチェット侯爵にとっては大誤算だった。
当初こそ龍の姫巫女を利用し商売をしようと狙っていたダチェット侯爵であったが、彼女には全く会う事が出来なかった。
皇帝ハイゴール・ウィリが囲っているだの。
宰相であったムク・フラン侯爵が姫巫女のお披露目には時期尚早であると判断したなどの噂が飛び交ったが、なんて事はない。
皇帝ハイゴール・ウィリと宰相フラン侯爵の両名が龍の姫巫女を激怒させ、勝手に追い落とされただけの話である。
結果的にダチェット侯爵は有益な協力者を失い。
融通の効かない新たな皇帝が誕生してしまった。
「あの若造めが」
堪え様にも新たに皇帝になった若き皇子への悪態が止まらない。
ロンサンティエの関所はとうに抜けた。
もはや、誰も自分を止める事は出来ないのだ。
ダチェット侯爵は口元をニヤリと歪めた。
201
お気に入りに追加
1,035
あなたにおすすめの小説
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する
昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。
グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。
しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。
田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
現代に生きる勇者の少年
マナピナ
ファンタジー
幼なじみの圭介と美樹。
美樹は心臓の病のため長い長い入院状態、美樹の兄勇斗と圭介はお互いを信頼しあってる間柄だったのだが、勇斗の死によって美樹と圭介の生活があり得ない方向へと向かい進んで行く。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる