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災いは何でもない事から発覚する

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「皆様ご機嫌麗しく。
 ラザロ・ウィットヴィル。ご用命を伺いに参りました。」

 爽やかだった太陽の光に熱が籠り始めた頃。
 ラザロは、柔かな微笑みを携えてやって来た。

 薄暗い地下牢に集まった者達は、機嫌の良いラザロとは裏腹に、何処か疲れた様子のクレイに視線を向けた。

「兄には概要をお伝えてあります。」

 肩を落とすクレイに皇帝ファヴィリエ・ルカは苦笑した。

「そうか。クレイ、ご苦労だった。
 ウィットヴィル伯爵。
 せっかく会えたのに、この様な場所ですまぬな。
 呼ばれた理由が分かるな。」

 簡潔に問いかけるファヴィリエ・ルカにラザロは胸に手を当てて恭しく頭を下げた。

「お役に立てるか分かりませんが・・・。」

 口を割らない侵入者に対し呼ばれたのだ。
 この芝居がかった胡散臭そうな男ならばと皇帝以下ディミトリオ・ハクヤは信じているのだろう。

 皆の前には拘束された男がいた。
 口は塞がれ、大人しくしているが首には痛々しい血に染まった包帯が巻かれていた。

 庭師を装っていたと聞いたが、目の前の男は全身が黒い装束を身に纏い、明らかに暗闇に溶け込もうとしていたと伺えた。

 男がキョロキョロと視線を動かすのは、状況を掴もうとしているのだろう。
 その忙しない視線がリリィで止まった。
 リリィの肩には白銀の龍であるルーチェが何の感情も見せずに男を見下ろしている。
 それまでと違い、男は目を見開き身震いすると何かを伝えようとリリィに、にじり寄って来ようとした。

 当然、ファヴィリエ・ルカを始めとして誰1人として、それを許すわけがない。
 すぐ様、間に入ると侵入者の視線を遮った。

ツカツカツカ

 革靴の音がしたと思えば、ラザロが男に近づいた。

 するとラザロは徐に男の髪を掴むと強引に上を向かせた。

「ぅわ・・・。」

 それまで柔かだったラザロとは思えない行動にリリィが驚いていると、目が合ったクレイが澄ました顔で肩を竦めた。

 周囲の事などお構いなしにラザロは男を見つめている。

「“ドラゴニルス”の者ですね。
 しかも、特務機関と言われる部署の工作員です。」

「ドラゴニルス・・・。
 何故、分かるのです?」

 問いかける宰相フィリックス・ガルシアに振り返ったラザロは再びニコッと微笑んだ。
 
「目に呪印が刻まれているんですよ。
 捕まった時に自爆する為とか、敵に情報を漏らさないように記憶を消す為とか、様々な憶測が伝わっていますが、現在彼が生きている事、そして記憶を失っていそうもない事から眉唾な情報かもしれません。
 そうだ。
 ほじくり返して眼球を詳しく調べてみましょうか?」

 楽しそうなラザロに工作員の顔色は悪い。

「・・・眼球をほじくり返す?」

 思わず繰り返したリリィにラザロはウィンクして「冗談です。」と小声で囁いた。

 目を見開いたリリィは首に巻き付くルーチェに思わず抱きついた。

《ほんと?ねー、本当に冗談だった??》

 「ヒィー」と震えるリリィとルーチェにラザロは楽しそうに肩を揺らすのだった。



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